第9話 お墨付き
「ほら」
「どうも♪ 彼氏君♪」
真子にジュースを奢って渡す。彼女は軽く敬礼をしてコーラを受け取る。
「その……彼氏君ってなんだ? 俺はまだ誰とも付き合ってないぞ?」
「え⁉ あたしの親友と、朝一緒に学校行ってたじゃん」
「親友って誰?」
「
「……………」
やっぱりそうか、
「俺と那由多さんは付き合ってないよ」
———まだ。
「え⁉ アイアイがあんなに仲良さそうにしてたのに⁉」
「仲いいだけで付き合ってる判定って緩すぎないか?」
「いやいや、ああ見えてアイアイはガードが堅いからね。中学校からの知り合いだけど、男の子と二人っきりになってるところなんて見たことなかったし、どんなカッコイイ人が告白してきても必ず断わってて、
「
「男の子に対してそれだけ塩対応ばっかりしてたってことよ~。ほんっとに中学時代のアイアイはクールだったんだから、冷た~い目をして近寄るなオーラを出してて、あたしじゃなかったから友達になれなかったね」
今の彼女を見るとそんな印象はないが……。
「そんなアイアイが、高校に上がったとたんに人が変わったみたいに男の子と一緒にいるでしょ~。だから、遂にアイアイにも春がきたかぁ~と思って、あたしにしては珍しく今日は気を使ったんだからね。朝に君たちを見かけても声かけなかったし、昼休みもアイアイを誘わずに一人で学食行ったし」
「そ、そうだったのか……」
「で、で⁉ どっち、どっちが告白したの?」
ニヤニヤと笑って真子が俺の脇を肘でついてくる。
「だから、何度も言ってるように……俺達は付き合ってない」
————まだ。
「えぇ~……そうなの~……? でも、おっちゃん応援してるからね☆ 二人はお似合いのカップルだから、幸せになれるように祈ってるよ☆」
サムズアップを突き出し、俺達の中を応援してくれている
「……応援?」
その言葉にピクリと反応してしまい、真子を見る。
「う、うん、応援するよ……何? 黒木君、そんな真剣な顔をして……」
「那由多愛さんと親友の君が、俺と那由多さんの仲を応援してくれるのか?」
「う、うん……そう言ってんじゃん」
「そして、お似合いのカップルと言ってくれたな?」
「い、言ったよ」
その言葉に俺は———感動した。
「
「は、はい———⁉」
彼女の肩をガッと掴み、真正面から彼女の顔を見つめる。
「———ありがとうッッッ!」
「はい……?」
攻略難易度Sのメインヒロインを攻略するうえで最も大切な、メインヒロインの親友からの高評価を頂いた。
それはつまり、那由多さんと付き合っていく上で最も大きな障害を乗り越えたと言っていい。
恋愛を続けていく上で、大きな障害となるのが周りの評価だ。
多くの恋愛物語で家族の反対で思いを遂げられなかったカップルがいるように、多くの体験談で友人の反対にあって関係性が破綻したように。祝福されない恋愛というのは続きにくい。
告白を成功させ、彼氏彼女になるまではいけるかもしれないが、その関係を続けていくとなると、非常に困難だ。常に刺さるような視線を向けられ、針のむしろの上にい続けるような感覚になる。
だから、
彼女に一番近しい人間からのお墨付きをもらうと言うのは、付き合う上で最も大事なことだ。
祝福される恋愛とされない恋愛ではされる恋愛の方が断然良い。
「な、何でお礼を言われるのかなぁ……?」
「気にしないでくれ。お似合いと言われたのが嬉しかっただけだ」
嬉しい。本当に嬉しい。
ただ……一つ気にかかることがある。
「俺はまだ何もしてないが……どうしてそこまで言ってくれる?」
「へ?」
どうしても、その疑問を解消したくて真子にぶつける。
「俺はまだ君を攻略していない。なんのアプローチもかけていないのにどうして?」
真子の好感度は全然稼いていないのにどうして……と疑問をぶつける。
「攻略? アプローチ? 何言ってんのかわっかんないけど、まぁ……何となくだね!」
あっけからんと真子は言う。
「何となく?」
「そ、何となく。黒木君はカッコいいし、アイアイがあんなに楽しそうにしてるのは初めて見た。だからピーンと来た。この二人はいい感じになるって。おっちゃんの感は当たんのよ!」
ニシシと笑う真子。
「それでいいのか?」
「それでいいのだ!」
胸を張る彼女に、なんだか安心感を覚える。
「そうか……」
「そ、じゃああたしこれから用事あるから。先に帰るね」
と、真子は鞄を掴んで、
「コーラありがと。じゃあまた明日学校でね!」
手を振ってゲームセンターから立ち去っていく。
「ああ、また」
真子の背中に手を振る。
俺は、彼女をサブヒロインととらえ、那由多さんを攻略するために好感度を稼いでおかなければならないと思っていたが、全く予想外の結果になった。
そんなことをしなくても、親友の彼女からお墨付きを貰えた。
「計画は狂い続けているが……結果オーライだな」
そうつぶやき、俺も帰ろうと立ち上がると。
「おい」
目の前に佐伯渉が立っていた。
「渉……まだいたのか」
「いた」
「ゲームは終わったのか?」
「してねぇよ」
「え?」
さっきは俺が真子を探している間、ゲームをするからと言って別れたのに。
「じゃあ、今まで何をしてたんだ?」
「お前らを見ていた」
「え?」
「黒木……ちょっとお前に話がある。
渉は真剣な表情で、そう言った。
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