第8話 一真子とのようやくのファーストコンタクト
原点に立ち帰ろう。
俺は自分磨きをして、故郷を離れてこの新しい土地でヒロインを攻略する。
那由多さんがこっちに向かってアプローチを仕掛けてくれるものだから、もうその必要はないと油断しかけたが、とんでもない。
まだ彼女から告白もされていないし、彼女がアプローチを仕掛けてきているのがもしかしたら俺の予想もつかない全く別の理由の可能性もある。
下手をしたら、彼女は俺のことが好きでも何でもなく、俺が勘違いしてから回っているだけかもしれない。
そうなってしまえば告白は成功せず、彼女以外にアプローチをかけていない俺は誰とも付き合うことができずに今年のクリスマスを迎えてしまう。
そんなことではダメだ。
寂しいし、何より俺に〝気づき〟を与えてくれた幼馴染の陽子に申し訳が立たない。
俺は自分磨きをして、陽子以上のヒロインを彼女にして、共に彼女に挨拶をしに行くのだ。
「ということで、一緒にゲーセンに行ってくれ、渉」
「何が……ということでなんだ?」
放課後、まだクラスでだべっていた渉を捕まえて、一緒にゲーセンに行くように誘う。
「
「……意味がわからん」
先ほどまで渉が喋っていたクラスメイト達は俺に気を使ってか、そそくさと帰り始めた。
「ゲーセンに行くのなら行くで、お前ひとりで行けばいいだろう?」
「当然二回目以降は一人で行く。だが、まだ一番最初の出会いのイベントもこなしていない。まだ互いに知り合ってもいない状態だと、一対一だと強い警戒心を抱かれてしまう。だから、他にキャラクターがいた方がいいんだ。そこで、渉。お前の力を借りたい」
「絶対に嫌だ」
「なぜ?」
「お前のことが嫌いだからだ」
「
「当たり前だろう。自分の行動を省みてみろよ。俺がお前を好きになる要素一個もないぞ」
そ、そうだろうか……渉との会話は最低限だが、彼を見かけたら積極的にするようにはしている。会話する回数は重ねているから好感度はそこそこあるはずなのに……。
まぁ、男の好感度なんてそこまで要らないから、本当に顔を合わせる程度ではあるが。
「すまない。心当たりは全くない。だけど、今、俺はお前の力がどうしても必要なんだ! だから力を貸してくれ!」
渉の手を取り
「嫌に決まっているだろ」
マジか……どうしてここまで言ってもダメなんだ……。
どうしてここまで親友からの好感度が低いんだ……なら仕方がない、奥の手を使おう。
「わかった渉。じゃあ協力してくれたら秘蔵の芸術映像を渡そう」
ピクリと渉の耳が動いた。
「……芸術というのは、どういった方向性の芸術だ?」
「女体の神秘」
つまりは———エロスだ。
「DVDか?」
「今時それはないだろう。今コスパ最高のセールをやっている配信サイトの情報がある。それを、俺達で共有していこう」
「…………」
渉は無言で拳を突き出し、俺もその手に拳を合わせた。
男の友情だ。
「俺は巨乳が好きだ」
と、渉が言い、
「奇遇だな。俺は大きいのも小さいのも大好きだ」
俺が答える。
俺達は、分かり合った。
結局、男の友情というのはエロで強く結びつくものなのだ。
◆
俺達は商業施設内2階にあるゲームセンターに向かった。
「ただ、一緒に行くだけだから同意したけどよぉ……そもそもが
ついた途端に渉が苦言を呈するが、こういう場所に元気っ娘というものは来るものなのだ。
「いる。ああいうキャラはこういうところが大好きで放課後は入り浸っている。俺は確信している」
「その根拠は?」
「ない」
俺の言葉が不服だったようで渉は、「ハァ~……」とため息を吐き、
「まぁいいや。俺も俺でやりたいゲームがあるからさ。お前はお前で勝手に
「ああ、ありがとう。助かった。お前は役割を充分果たしてくれた」
「……何もやってないけど」
「いや、一緒にここまで来てくれた。それだけで充分なんだ」
決して彼女を狙っているストーカーのようなものではなく、あくまで偶然遭遇した運命的な何かでここにいるものであると言い訳をすることができる。
「そんなことを考えてる時点で、だいぶアウトだと思うが……」
渉がどれだけ俺に貢献してくれていたか、説明すると彼は段々ジト目で俺を見るようになった。
「あのな、お前にはやっぱり問題があるぞ……」
「俺に? 何が……あ」
渉は真面目な話をしようとしていたが、俺は視界の端にボブカットの少女を見つける。
「~~~♪ ~~~♪」
鼻歌を歌いながら、ステップを踏んでリズムゲームをやっている。
俺が思っていた通り、彼女はゲーセンに来ていたのだ。
「悪い、渉! 俺はこれから
「お、おい!」
渉をその場に残し、俺は
ギャルゲーでは友人と一緒に来ておきながら、ヒロインと知り合うと友人を差し置いてそのヒロインと一緒に帰るといった、お前らの友情どうなってんだという描写が多々ある。
俺は高校生活をギャルゲーのように過ごすと決めている。
だから、それに
そして置いていかれた友人は次の日になって恨み言を言うだけで、何事もなかったかのように許してくれる。渉もいい奴だから恐らくそうだろう。
「……やっぱお前のこと嫌いだわぁ」
しみじみと渉が後ろで何か言っていたが、置かれているゲーム機の電子音でかき消されて上手く聞き取ることができなかった。
俺は
「~~~~♪ ……ふぅ」
一曲が終わり、真子のステップが止まり、彼女はひと汗かいたと、額をぬぐった。
「あれ?
「え?」
俺が声をかけると彼女が振り向く。
「誰だっけ……?」
「同じクラスメイトだよ。黒木卓也。こんなところで会うなんて偶然だね」
あくまで偶然を装う俺に対して、真子はどんどん俺を見る目を細めていき、
「あ~~~~~~~~~~~~~~‼」
俺の顔を指さし、言った。
「あたしの親友の彼氏だぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~‼」
…………ん?
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