そのダンジョン名は「本屋」なり。

あかつき らいる

そのダンジョン名は「本屋」なり。

 ある日を境にしてダンジョンが増えまくった。ダンジョンが疑似スキルを取得し、人間の世界に溶け込もうとスキルを発動させた結果だった。

 入り口には電磁波の柱が二本、そびえたつ。柱と柱の間を抜けると、文房具がちょろちょろしていた。そこも通り抜けると、次は小説や雑誌たちがはしゃいでいる。さらにその奥には、いかにも頑固そうな辞書や辞典たちが仁王立ちしていた。

 そのブック・ハウスというダンジョンは人間たちに人気が出て、毎日、ひっきりなしに老若男女ろうにゃくなんにょ問わず訪れる場所の一つとなっていく。

「大型がくるらしいぞー」

 そのしらせに小さいダンジョンたちは戦慄する。この、小さな地方都市に、あの大型が来るという。報せがあった日から足がすくんでしまったダンジョン「ブック・ハウス」たちは逃げ出し始めた。

 残ったダンジョンたちは結束し情報網を張り巡らせる。そんな中にあってもお堅い奴らはテコでも動かないぞ、とばかりに居座り続け、ダンジョンにつきもののラスボスとなった。

 そこへ小さな人間たちがやってきた。五人はおっかなびっくりで、入り口を通過してくる。わりと入り口付近に鎮座ちんざしているイケている文房具たちには目もくれず、ただひたすらまっすぐに絵本や図鑑たちがいるエリアにやってきた。

 その五人はエリアに入るなり散会さんかいした。その小さな人間たちを驚かそうとする本もいて、なかなか楽しい空間となっている。

 小さな人間たちを追うような形で大きな人間たちが堂々どうどうと入ってきた。大きな人間たちは三人。小さな人間たちの名前を呼びながら奥へと進む。

「ちーん」

 カウンターの上のベルが鳴り、続いて少しの機械の音がした。

「お買い上げありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」と電子音声が流れる。

 そして今日もこれからも人間たちは知識を求め、娯楽を求め、時間つぶしにとダンジョン「ブック・ハウス」へとやってくるのだ。

 


 

 


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そのダンジョン名は「本屋」なり。 あかつき らいる @yunaki19-rairu

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