本屋で話す二人

一陽吉

時彦と夏子

「あ、時彦ときひこじゃねえか」


夏子なつこ


 意外なところで意外なやつが声をかけてきたな。


 今日は日曜。


 高校の制服と違い、お互い私服姿。


 俺は少し遠出をして市内にある大矢堂へ来ていた。


 大矢堂は本屋だがとにかく店舗が大きく、多種多様な本を揃えてる。


 定期購読している本を買うだけなら地元の小さな本屋とかネット通販、電子書籍で事足りるが、それでは出会いがない。


 おススメなどで画面に表示されることもあるが、それはあくまで閲覧してきたものからの傾向でしかなく、俺にインスピレーションをくれるものをススメてくるわけではないからな。


 だから俺は本による出会いのために大型店まで足を運んできているのだが、幼なじみに会うとは思わなかった。


「休みなのに出歩くなんて、珍しいんじゃね?」


「それはこっちのセリフだ。夏子こそ、美香と遊びに行くんじゃなかったのか?」


「ああ、それなんだけどさ。美香のやつ風邪ひいて熱があるんだって。そしたら姉貴がそこまで行くんならネットで予約し忘れた本買ってきてくれって頼まれてさ」


「なるほど」


 それならば合点がいく。


 夏子ははっきり言ってギャルだし、学業はおろそかな方だということもあって、読書には一番縁遠いからな。


 いいとこ、人気のコミックを読むくらいなもんだ。


「それで時彦。いい子いたか?」


「は?」


 何を言い出すんだこいつ。


「だから、お前が好きな巨乳の子が載ってる本、あったのかって聞いてんの」


「いや、別にそれを目当てに来てるわけじゃないし」


「違うのか?」


「なんで驚くんだよ。てか、巨乳好きだなんて俺がいつ言った」


「だって時彦、これが好きって言ってたじゃねえか。それに、イラストだっていっぱい描いてただろう?」


「自分で持ち上げてみせるな。たしかに夏子のはでかいと言ったが、それはあくまで夏子、個人に対してのことだ。それにイラストは巨乳の子を描いて投稿すると反応がいいってだけで、俺にその属性はねえよ」


「まさか、重く柔らかく大雑把すぎる、これが好きじゃない男子高校生がいるなんて……」


「なに愕然がくぜんとしてるんだよ。俺は大小にかかわらず美乳なら良いと思ってるだけだ」


「──お客様」


 ?


 女の店員が俺らに声をかけてきた。

 

「他のお客様のご迷惑になりますので、女性に関する発言はご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます」


 にこやかに丁寧ていねいな口調で言ってるが、心の中では怒りのかどが五セットくらい浮き出てるな。


「す、すんません」


「お騒がせしました」


 二人そろって謝罪。


 やれやれ。


 夏子に関わると、絶対、何かある。


 でも、まあ。


 そんな夏子に俺は惚れてるんだから、恋ってわからん。


 いつかそういうのを完全解明した本が出版されて本屋の店頭に並ぶ。


 そんな日がくるかもしれないな。

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