第10話 魔法学校の図書館司書

 魔法学校はこの国に一つしかありません。全国の魔法使いの資質ししつのある子供たちがこの学校に集まります。この国の魔法に関するすべての事柄ことがらはここに集まっています。

 逆にいえば、魔法をここよりほかに学ぶことができない仕組しくみになっていました。この国をおさめている人たちは魔法を使えませんから、こういう言い方はこのまれませんが、魔法使いを非常ひじょうおそれています。魔法使いの行動を掌握しょうあくしていたいのです。便利べんりに使いたいけれど、自分たちの目の届かないところで、自分たちに出来できないことをされるのはこわいのです。

 魔法使いが帽子ぼうしつえかいさないと魔法が使えないのも、そのように管理かんりされているからです。それでも、大昔に魔法使いが迫害はくがいされ、見つかればころされていた時代に比べれば随分ずいぶんましでした。



 ある日マージは、保健室をけて魔法学校の図書館をおとずれました。魔法学校の一画いっかくに、ひときわ存在感そんざいかんしめしている巨大なとうが図書館です。

 図書館には在校生ざいこうせいだけでなく、卒業生そつぎょうせいも多くおとずれます。マージは膨大ぼうだい蔵書ぞうしょ途方とほうにくれつつも、まずは魔法道具に関する書籍しょせきを探しはじめました。数十年前に流行りゅうこうしつつも禁止、回収がなされた腕輪のことが、どこかに書かれていないかと考えたのです。

 しばらく何冊もの本をパラパラとめくっていると、マージは肩をたたかれ、り向きました。


「おさがしの本がみつかりませんか?」


 魔法学校の図書館としょかん司書ししょであるブロンズ先生でした。髪は白く、もうおじいさんの年齢ですが、背筋せすじはしゃんと伸びて綺麗きれいな身なりをした紳士しんしです。三角帽子をかぶらない時は、いつもシルクハットをかぶっています。


「あら、ブロンズ先生、おひさしぶりです。いえ、先生は私のことをおぼえていらっしゃるかどうか。

 そうですね、なかなか見つからないのですが……でも自分で探しますわ」


「覚えているとも、マージ女史じょし。君が探している本はおそらくこの本棚にはないよ。読みたければついてきなさい」


「なぜ私が探しているものがわかるのです?」


「長年、司書やってるとね、手にとった本の傾向けいこうでわかるものなんだよ」


 ブロンズはマージがついてくるかどうかはおかまいなしに、スタスタと歩き始めました。マージはためらいつつもブロンズを追いました。警戒けいかいする気待ちもありましたが、この学校で一番優秀ゆうしゅうな司書であることも知っていました。



 ブロンズは、貸出かしだしカウンターの奥にある司書室ししょしつにマージをまねき入れました。他の司書たちは全員出払ではらっていて、部屋にはだれもいませんでした。

 そして彼は、作業机さぎょうづくえの横にある背の低い書棚しょだなから一冊の本を取り出してマージにわたします。内容の分類ぶんるい統一感とういつかんのない書棚だったので、返却へんきゃくされた本を仮置かりおきしている棚のようでした。

 マージはお礼を言って本を受け取ると、ページをめくりました。本には過去に使用が制限せいげん、禁止された魔法道具が多くっていました。たような本はマージもさっき読みましたが、ブロンズに渡された本には“愛の腕輪”のことが載っていました。

 内容ないようは猫探しのおばあさんの話とほとんど一緒で、もう少し専門的せんもんてきな事が書いてありましたが、はずす手掛てがかりや“話すことができない魔法”の解除方法かいじょほうほう情報じょうほうられませんでした。マージがブロンズにたずねました。


「本棚になく司書室に移動いどうしていたということは、この本は、最近私より以前にも読んだ人が?」


「わしが読んだからここにある。

 この国の魔法に関する事柄ことがらは、すべてこの魔法学校に集まる。先日せんじつ逮捕たいほされた男は、どうやら腕輪をねらって魔法を凶器きょうきに使ったらしいという話は、わしのところにもとどいている。

 実をいうとわしはずっと腕輪を探していたのだ。回収騒動そうどうの時にどうしても手放てばなしたくなかったわしは腕輪をある場所にかくしておいたのだ。が、騒動が落ち着いたころ取りに行くとどこかにうしなわれ、その後見つかることはなかった」


「ひょっとして、私がここにくることを予測よそくしていました?」


 ブロンズはマージをぐに見据みすえました。


「もしかなうのならば、マージ君の知る腕輪がわしの腕輪かどうか、たしかめることはできないだろうか」


「大変失礼なことをもうしますが、正直、黒ローブの男の件があって警戒けいかいしています。ブロンズ先生は信頼しんらいできる方と思いたいですが……」


「何か信頼しんらいあかししめせればいいのだが、残念ながらなにもなくてな」


 ブロンズはあごでながら思案しあんします。マージはむすめ危険きけんむことはしたくないので、きびしい目でブロンズを見つめていました。


「では、古典的こてんてきだが、“約束やくそくほう”を使うのはどうだろうか」


 約束の法とは、お互いに約束事を決めてやぶればばつのある魔法です。約束も罰の内容ないようも、双方そうほう同意どういすれば決定します。

 とても拘束力こうそくりょくのある魔法なので、片方かたほうが約束と罰に関して少しでも異議いぎがあれば成立せいりつしませんし、約束の範囲はんい期間きかんなど、決めることもいっぱいあります。円滑えんかつに進まなければ一日がかりです。同意が必要とは言っても罰があるので、一歩間違まちがえば危険がともなうこともあります。

 乱暴らんぼう一言ひとことで言えば、とても面倒めんどうくさい魔法なのです。なので、あまり日常的にちじょうてきに使われる魔法ではありません。


「いえ、そこまでしていただかなくても結構けっこうですわ。お気持ちは伝わりましたし、たくらみがおりなら、まどろっこしく私を図書館でお待ちにならず、アトリエにいらっしゃればむことです」


感謝かんしゃします、マージ女史」


「いいえ、私としても、腕輪の情報が少なくて困っていたところです。ブロンズ先生がよくご存知ぞんじなら助かります」


 マージとブロンズは後日、マージのアトリエで会うことを約束しました。もちろん、魔法を使わない普通ふつうの約束です。

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