第8話 探し物の魔法

 先程さきほどのおばあさんは、ねこがもう何日なんにちも家にもどらないので、魔女に猫をさがすことを依頼いらいしたのでした。マージが猫探しの方法を教えます。

 まずは必要ひつような道具を用意します。依頼人のおばあさんからりた、猫が身につけたことのある首輪くびわ、このまちの地図、こまかなしおはいった見習みならい魔女の帽子ぼうしつえ

 エーリとカレンはマージの指示しじのもと、地図をテーブルに広げて、その上に振り子をるすためのだいきました。それから、振り子の糸がYワイかたちになるように台にむすびます。

 塩の入った振り子のそこにはあないていて、今はふたがしてありますが、この蓋を取って振り子をらすと、上下方向と左右方向の振動周期しんどうしゅうきの差で、曲線による様々な図形が、振り子からこぼれた塩でえがかれます。エーリとカレンには振り子の仕組しくみや理論りろんなんてわかりませんが、とにかくこの振り子を揺らせば、魔法陣まほうじん役割やくわりをする素敵すてき模様もようが描かれるのです。


 

 準備が終わると、エーリとカレンは見習い魔女用の帽子をかぶり、杖を持ちました。この帽子をかぶっている間だけ、簡単かんたんな魔法を使うことがゆるされます。もちろん、免許めんきょった大人の魔法使いの監督かんとくのもとでしか、帽子をかぶることは許されません。


「ふたり一緒にやってみましょう。左手に首輪、右手に杖を持ってください」


 エーリとカレンはマージの指示しじしたがいます。緊張きんちょうと魔法が使えるうれしさで、二人ともドキドキしていました。マージは続けます。


「首輪から、これをつけていた猫の気配けはいを感じ取ってください。これは感覚かんかくなので説明がむずかしいけれど、上手くいけば探す対象たいしょうぞうが頭に浮かぶこともあります。

 感じ取れたら、その感覚をたもったまま杖で振り子を揺らします」


「杖で揺らす、というのは、杖で振り子をっつくてことですか? それとも風でもおこすんですか?」


 カレンが質問しました。


「言い方が悪かったわね。杖で振り子を突っつく以外の方法ならだいたいなんでもいいわ。つまり、振り子を揺らすために何か魔法を使えばそれでいいの。突っついた場合は使ったのは杖を持った手でしょ?」


「わかりました」


 なんでもいいとはいえ、二人が使い方を知っている魔法はかぎられています。エーリとカレンは風をおこすことにしました。一人ではろうそくの火を揺らすそよ風程度ていどですが、二人で息をあわせれば、振り子を揺らせるくらいの風をおこすことができるはずです。

 まず、カレンが風おこしに挑戦ちょうせんします。丁寧ていねい手順通てじゅんどおりに呪文じゅもんとなえて杖を振ると、部屋の中に小さな風がおこって振り子を少し揺らしました。

 カレンの成功を見たエーリも、よし、やるぞ! と気合きあいを入れて杖をかまえました。しかし、その途端とたん突風とっぷうが吹きました。振り子の台はたおれ、地図も、その台におさえられていなければ飛んでいってしまいそうでした。マージがエーリの手からあわてて杖を取り上げると、風はみました。


「びっくりした!  まだ呪文も唱えてなかったのよ?」


 エーリはドキドキして、からのこぶしをにぎりしめます。

 これにはマージもおどろいていました。こんなことは初めてですし、そもそも、魔法は暴発ぼうはつなどの事故じこが無いように、基本的きほんてきには条件じょうけんととのえなければ発動はつどうできないもののはずでした。特に幼少期ようしょうききびしく封印ふういんされています。


「ひょっとして、腕輪のせいかしら。なんらかの魔法道具でしょうから、暴発のきっかけになってしまったのかもしれないわ」


 マージは言いました。


「もう一度、落ち着いてやってみましょう。それでも暴発するようなら、残念だけど今魔法を使うのはやめておきましょうね」


 エーリは深呼吸しんこきゅうをして、なるべく心をおちつけて、丁寧に杖を構えました。今度は大丈夫です。手順通りに魔法を使うと、カレンと同じように風をおこすことができました。

 気を取り直して、飛ばされた道具をもう一度セットしました。エーリとカレンは二人で力を合わせて魔法で風をおこし、振り子を揺らしました。底の蓋を取った振り子からさらさらと塩が流れ出て、地図の上に模様もようが描かれていきます。振り子は上下左右に規則きそくただしく動いています。

 魔法をかいさなければこれで終わりなのですが、しばらくすると振り子はさわっていないのに動きを変えはじめました。そして、最終的には地図上のある一点で塩が山になりました。マージは塩が作った山を丸でかこんでから、地図から塩をはらいます。


「成功していればこのあたりにいるはずよ。猫は移動いどうしてしまうから、急いで探しに行きましょう」


案外あんがい情報じょうほうしかられないのね」


 エーリは、もう少し精密せいみつに探し物が出来ると思っていたので、少しがっかりました。マージは笑います。


ものさがしの魔法はほかにもあるし、もっとしぼむことも、もちろんできるわよ。でも、見習い魔女っ子さんでは振り子の方法が精一杯せいいっぱいね」



 三人は振り子がした場所へ向かいました。探すべき猫は白猫で、赤い首輪が目印めじるしです。その場所はアトリエから遠くはありませんでしたが、かくれているかもしれないし、移動しているかもしれないしで、なかなか見つかりません。日も落ちてきてもう今日はあきらめようかというころ、ようやく路地ろじで丸まっていた白猫を見つけて、保健室に連れて帰ることができました。


「よくできました。ちょっと時間はかかりましたが、ちゃんと猫を見つけることができましたね。

 依頼人の方とは明日の昼にお約束してますから、それまで猫は大切におあずかりしましょう」


 マージはどこからかかごを持ってきて、その中に猫をいれました。エーリとカレンは探し物の成功がうれしくて、猫を見つけた時からずっとご機嫌きげんでした。


「また探しものの依頼があったら、私やりたいわ!」


「私も!」


 エーリとカレンは興奮こうふん気味ぎみに言います。いつもよりも帰る時間が遅くなったので、マージとエーリはカレンを家まで送ってから、猫を連れて家路いえじにつきました。

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