第4話 黒いローブの不審者

 少しの時が流れました。もう外はすっかり寒くなっていますが、保健室の素敵すてき暖炉だんろのそばは、ぬくぬくとしてあたたかです。

 腕輪うでわはどうなったかというと、あの日から何も変わっていません。エーリにはえきにもがいにもならず、今も左手にあるだけです。学校ではいつもそでかくしていますが、仮に見つかってもだれも腕輪を気にしません。本当に、この腕輪は一体なんなのでしょうか。

 エーリとカレンは、はじめのころこそ何か手がかりはないかとなぞの本を何度なんども見たり、図書室に少しだけいてある小学生向けの魔法の本を読みましたが、子供だけのちからでは結局けっきょくなにもわかりません。小学生が手に入れられる魔法なんて、“今夜こんやきな人のゆめを見られるおまじない”程度ていどです。

 マージ先生にも何度か相談そうだんしてみようとしましたが、腕輪のことも本のことも、“腕輪のことをしゃべれない魔法”のせいで、結局けっきょく相談そうだん出来できずじまいです。普段ふだんは腕輪に存在感そんざいかんがないこともあって、二人ともだんだん腕輪のことを気にしなくなりました。



 それよりも二人の今の関心事かんしんごとは、最近さいきん小学校の近くで目撃もくげきされている不審者ふしんしゃでした。

 フードを目深まぶかにかぶった黒いローブのあやしい人物じんぶつが、校門のあたりでっていたり、まどから教室をのぞこうとしているのを、クラスのみんなが見ています。平和へいわなこのまちでは、子供たちにとっては恰好かっこう話題わだいです。

 先生方せんせいがた警戒けいかいして見回りなどをしていますが、そうするとふっとどこかに消えてしまって、しばらくあらわれなくなるのです。


 こんな時には、魔女であるマージ先生はとてもたよりにされました。先生方の目がとどかない時に、不審者が学校に侵入しんにゅうしたりしないよう、対策たいさくをしてもらいます。

 マージ先生は学校まわりに境界線きょうかいせんえがき、先生や生徒以外の人が勝手かってにその線をえれば、大きな音でベルが鳴るようにしました。ついでに、線を越えた人物はしばらく身動みうごきが取れなくなります。その間に不審者をつかまえられるというわけです。

 保護者ほごしゃや学校関係者には、必ず約束を取り付けてから来校するように周知しゅうちしました。




 今日はマージ先生が出張しゅっちょうで学校をけている日です。そんな日は、保健委員が休み時間に保健室に待機たいきしています。先生がいない時はアトリエはお休みになるので、外からのお客様きゃくさま用のとびらには閉店中へいてんちゅうふだがかけられています。もう昼休みになりましたが、今のところ怪我人けがにん病人びょうにんもなく、エーリとカレンの仕事はありませんでした。

 二人は暖炉のそばで給食きゅうしょくを食べていました。とくさむい日にはうれしい、保健委員の特権とっけんです。すっかり忘れていた保健新聞のことも先日せんじつ片付かたづけて、二人はのんびりした気持ちで暖炉にあたっています。からだがぬくぬくとあたたかい時は、どんな心配事しんぱいごともなくなってしまうものです。


 エーリとカレンが、食べ終わった給食の食器しょっきを給食室に返却へんきゃくに行って保健室にもどると、ドアも窓も閉めきっているはずの部屋に風が通るのを感じました。約束もなく入ってきた人を知らせるはずのベルの音も鳴らさずに、開けはなたれていたのは、アトリエのお客様用入り口の扉でした。


 お客様用入り口のかぎはきちんとまっていたはずです。しかもただの鍵ではありません。マージはいつも留守るすにするときは魔法で厳重げんじゅうに鍵をかけます。

 その魔法をやぶって入ってきたのは、フードを目深まぶかかぶった黒いローブの人物でした。

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