第3話 はずれなくなった腕輪

 そのページに書いてあるのはこれだけでした。もう一度本をめくってみても、後のページも前のページも、もとと同じように白紙でした。


「結局これは、はずせないってこと? “しんぬし”って人がはずしてくれるの?」


 エーリは不安で泣きそうになりました。魔法の腕輪うでわであることは間違まちがいないでしょう。これがどんな目的で使う魔法道具なのか、装着そうちゃくした人に何か影響えいきょうおよぼすのか、なにもかもがさっぱりわかりません。たしかなのは、簡単にはずせるものではない、ということだけです。


「誰にも言っちゃダメってかいてあるけど、マージ先生に相談そうだんすべきだわ!」


 カレンは言いました。エーリは「でも……」と戸惑とまどいます。これがのろいの腕輪だったら? 誰かに話すことで自分になにか危害きがいがあったら? エーリはついに、声をころしてなみだを流しました。



 ちょうど、下校時間げこうじかんげるチャイムが鳴りました。カレンはなぞの本をかばんに入れ、いそいで本棚ほんだな片付かたづけました。


「とりあえず、保健室にもどりましょう?」


 エーリは涙をきながらうなずいて、腕輪をそでしたかくしました。何もなかったようによそおいながら、さよならの挨拶あいさつといっしょにカウンターの前を通り過ぎて、図書室を出ました。司書の先生は帰り支度じたくをしているところで、特に二人を気にする様子はありません。外はもう暗くなっていました。



 エーリとカレンは小走こばしりで保健室に戻ると、マージ先生にりました。先生も店じまいの片付けをしているところでした。エーリは保健室に向かっているあいだに、お母さんに正直しょうじきに起こった事を話そうと決意けついしていました。子供だけでなんとかできるものとは思えません。二人の只事ただごとではなさそうな雰囲気ふんいきに、マージの表情ひょうじょう緊張きんちょうします。


「いったい、どうしたの?」


 エーリがけっして、先程さきほどのことを話し始めます。


「あのね、さっき図書室で保健新聞にせる話題わだいさがしていたんだけど……何にも見つからなかったわ!」


 エーリはハッとして自分の口を手でおさえます。カレンは、本当のことを言えなかったエーリにたすぶねを出しました。


「違うわ! 言いたい事はそうじゃなくて、図書室には本当にろくな本がなかったの!」


 カレンもハッと口をおさえます。二人は顔を見合わせました。“腕輪のことを誰にも言ってはならない”のではありませんでした。“誰にも言えない”のです。それならば、とカレンはかばんにしまった謎の本を取り出そうとしました。でも、鞄を開けた途端とたんに、今自分が何をしようとしたのか思い出せないのです。マージは緊張きんちょうしていた顔をゆるめました。


「何かと思えば……。それなら保健室にある本からも探してみたら? でも、今日はもう帰りましょうね」


「はい、わかりました」


 エーリとカレンは思ってもないことを同時に言い、また顔を見合わせました。言葉にできないならば、と、エーリはマージに見えるように左手の腕輪をかかげてみました。マージは腕輪に気づきましたが、


「あら、素敵すてきな腕輪ね」


 とだけ言って、まった興味きょうみしめしてくれませんでした。いつもなら、それはどうしたの? 買ったの? 誰かにもらったの? 学校にはしていってはだめよ? など、とやかく言われるのにです。二人は仕方しかたなく、帰り支度を始めました。カレンがエーリにこっそり言いました。


「先生をごまかすなんて、相当そうとうな魔法がかかっているわね」


 エーリとカレンの間では、腕輪の話ができるようでした。


大人おとなたよれないなら、自分たちでなんとかするしかないけど、まった見当けんとうがつかないわね……」


 エーリはみます。なにしろ、自分たちはまだ、本格的ほんかくてきな魔法の勉強は、始めてすらいないのです。算数にえてみれば、足し算引き算ができる程度ていど知識ちしきしかありません。そんなことで、大人もごまかしてしまう魔法の腕輪を“なんとか”なんて、できるのでしょうか。

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