第2話 図書室で見つけたもの

 おばさんが帰ったあとも、ポツポツとお客様がやってきますが、マージ先生は


「一度お手伝いの手はめて、学校の委員の仕事をしてらっしゃいな」


 と、エーリとカレンを温室に連れていきました。二人とも正直なところ先生の手伝いをしているほうが楽しかったのですが、やることがあるので仕方しかたありません。


「次の保健新聞ほけんしんぶんどうしようかしら?」


 エーリとカレンはテーブルの上に広げた真っ白な紙の前で、うーんとうなります。健康けんこう啓蒙けいもうのための新聞作りも、保健委員の大事な仕事です。早めに今月の分を作らなくてはなりません。


睡眠すいみん特集とくしゅうとかどうかしら?」


 カレンがいいました。


「良い睡眠が必要な理由とか、安眠あんみん効果こうかがあるハーブティーを紹介しょうかいしたりするの」


「とっても魅力的みりょくてきだけど、魅力的すぎて数ヶ月前すうかげつまえにやった気がするわ」


 エーリがカレンに今までの新聞をまとめたファイルを見せました。そして、二人はまたうーんと唸りました。


「こういう時にパッと魔法を使って、パッと何か思いかべばいいのになぁ」


 エーリが鉛筆えんぴつころがしながら言います。しかし、自分の頭の中でできないことをパッとやってくれるなんて、そんな都合つごうのいい魔法はありませんし、そもそも魔法学校に行って免許めんきょをもらうまで、魔法の使用は原則げんそく禁止きんしです。カレンは今できる現実的な提案ていあんをしました。


図書室としょしつに行って、何かいいアイデアをさがしましょ」

 



 エーリとカレンは先生に許可きょかると、小学校の図書室に行きました。司書ししょの女の先生は、ポカポカと夕日のすカウンターでうつらうつらとしていましたが、二人が入るとパッと目を覚まして、ちゃんと仕事してますよ、という顔をしました。そして、生徒せいとたちが本棚ほんだな物色ぶっしょくして調しらものを始めると、またうつらうつらとしはじめます。司書の先生はこのようにうとうとしていることがとても多いので、生徒たちはこっそり“居眠いねむり先生”とんでいました。


 下校時間が近く、今は委員会活動中の時間であることもあって、図書室にはエーリとカレンの二人だけでした。何か使える本はないかと、エーリがずらりとなら背表紙せびょうしながめていた時、本棚の奥の方で何かきらりと光るものを見たような気がしました。「何かしら」とエーリは、光ったように思ったあたりの本を何冊なんさつります。すると、この本棚に並んでいる本とは明らかに装丁そうていちがう本が、かくされるように置いてありました。

 エーリは思わず手に取りました。豪華ごうか表紙ひょうしですが、題名だいめいなどの文字は見当たりません。カレンもエーリが見つけた本をのぞき込みます。


綺麗きれいな本ね。どうしてかくしてあったのかしら」


 二人は好奇心こうきしんですっかり保健新聞のことは忘れて、なぞの本の表紙をめくりました。


 本は何ページめくっても白紙でした。エーリは不思議に思って、さらにパラパラとページをめくります。


「何か魔法の力で文字を隠しているのかしら」


 その可能性かのうせいてきれませんが、この本の秘密ひみつは他にありました。真ん中あたりのページに綺麗な腕輪うでわがはめこまれていたのです。おそらく金属きんぞくでできているのでしょう。黄金おうごんの輝きの中にうっすらと、しかし緻密ちみつ彫刻ちょうこくほどこしてあり、宝石のたぐいははまっていません。エーリはせられるように、思わずその腕輪にれました。


 その瞬間しゅんかん、腕輪がまばゆい光をはなちました。二人は思わず目をつむりますが、そのくらむような光はすぐに消え、それと同時に腕輪も跡形あとかたもなく、どこかにいってしまいました。

 エーリとカレンはとにかくおどろいて顔を見合みあわせ、それからカレンはちらりと、司書の先生の方を見ました。相変あいかわらず、うつらうつらしています。何か起こった、ということはばれていないようなので、カレンは少しほっとします。


 本から消えてしまった腕輪は、エーリの左手首におさまっていました。元の場所にもどさなければ、と、エーリは大慌おおあわてではずそうとしました。


「え、どうしよう! 取れないよ?」


 しかし、この金属の腕輪はエーリの手首にぴったりで、つなぎ目もなく、どうってもけません。エーリがおろおろと、腕輪を引いたりねじってみたりしているあいだに、カレンはもう一度、本を見てみました。


「見て、エーリ。腕輪がはまってたページに何か書いてあるわ」


 さっきまで白紙だったページに、文字がかびがっていました。




 ***




 腕輪を見つけた者は



 腕輪を真の持ち主以外に渡してはならない


 腕輪の事を誰かに話すことはできない


 間違った手順で腕輪を外すことはできない




 ***

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