第5話 マイ-01.控室にて

戦姫装バトルドレスに恥じらう姿は相変わらずだが、見事な闘いっぷりだったな、ミナモ」


 美闘姫闘技大会ディーヴァコロシアム一回戦第一試合が終わり、各国の代表別に用意された控室に戻ると、ミナモの師匠であるマイが出迎えてくれる。


「いえいえ、むしろ恥ずかしいのは昔と全然変わってないですから!」

「そうか、そのようには全然見えなかったがな」


 マイにはモニター越しに映るミナモの姿は、敵を翻弄し、戦場で可憐に舞う美闘姫ディーヴァに見えていたらしい。相手を翻弄していたのは事実だが、ミナモは今もビキニアーマーから普段着に着替えたいと思っているのだが、マイは彼女の本心を知らない。


 マイの従者である治癒部隊のメイド達もミナモの勝利を称賛する中、メイド長であり、本戦出場者でもある黒髪のメイドがミナモを手招きする。


「ミナモ様、腕の怪我を治癒しますので、こちらへ」

「え? クロエさん? 私怪我なんかしていないで……痛っ!」


 クロエと呼ばれたメイドはモニターを通じ、闘いの一部始終を視て・・いた。マイの次点として国の代表にもなっている彼女の眼は、グラマーによる鉄球による技が発動した際、サザナミの扇による結界で受け止めていたミナモの華奢な腕に衝撃による傷がついていた事を見逃さなかったのだ。


 クロエがミナモの右腕についた痣へ手を翳す。温かな光に包まれたかと思うと、みるみる痣が消えていく。己の魔力を光属性の力へ変換する治癒魔法はメイド長である彼女の得意とする魔法だった。


「ありがとうございますクロエさん」

「いえ、これも仕事ですから」


 そのまま黙って会釈したクロエは立ち上がり、他のメイド達に何やら指示を出していた。


「クロエの眼は特殊・・だからな。ミナモ、これからの闘いはもっと激しくなって来る。ミナモが万全の態勢で挑めるよう、治癒部隊も我々もバックについているんだ。お前は一人じゃない」

「ありがとうございます、マイ様」


 優しく微笑むマイにミナモがお辞儀をする。美闘姫闘技大会ディーヴァコロシアム本戦には世界中から三十二名の美闘姫が出場している。本戦出場者のうち、サザナミ国代表は――


 宮廷騎士団長  騎士  マイ・ストラーヴァ

 マイの従者   メイド クロエ・ブリンダ

 サザナミの巫女 踊り手 ミナモ・ミカガミ

 騎士団員の新星 騎士  アルバ・レイ

 疾風の猫娘   拳闘士バトラー ミミィ 

   

 以上、五名となっている。


 尚、本大会の優勝候補であり、リーダー的役割を果たしているマイの試合は午後からのスケジュールとなっているため、まだ時間がある。ちょうどモニターには同じサザナミ国代表として出場している猫獣人キャッツの娘ミミィが映っている。セーラー服を短くしたようなセーラービキニの戦姫装を身につけた猫娘は四つ脚の態勢となり、俊敏な動きで相手を翻弄しているところだった。


「お相手は確か……ヴィーナス国の魔導師、ローグでしたね。火球も氷刃も当たらなければ意味を成さないもの」

「凄いですね、ミミィちゃんが爪に纏っているの……魔力じゃないですよね?」


 普段は愛くるしいムードメーカーのようなキャラクターであるミミィだが、戦闘時は獲物を狙う獣のように敵を追い詰めていく。メイドのクロエが戦況を分析する中、ミナモはミミィの鋭く伸びた爪が白い光に包まれている事に気づき、質問する。


「あれは闘気・・だな。ミナモは魔力を練り上げて具現化する闘い方が基本だが、あの子はほぼ魔力を持っていないからな。己の身体に眠る力の根源となるエネルギー――闘気を籠めて闘っている。最も獣人らしい戦い方と言えるな」

「マイ様は闘気も魔力も扱えるので凄いですよね。私は未だに闘気の扱いに慣れていないので……」


「ミナモは今のスタイルを極めるといい。後は極限状態・・・・になった時、本当の意味で覚醒する時が来るさ」

「極限状態……ですか?」

「お、そろそろ終わりそうだぞ?」


 ミナモの質問に答えられる事なく、モニターごしにあがる歓声へ目を向ける一同。ちょうど魔導師ローグの身につけているローブが引き裂かれ、腹部と胸元の一部が露わになったところだった。自身の攻撃すら当たらず、怒りの形相となった魔導師は、杖を掲げ、大掛かりな魔法の詠唱を始めていた。


 ローグの大杖だいじょうの先についた宝石が光を放ち始める。ミミィは詠唱中の魔導師へ攻撃を仕掛ける事もなく、何故か距離を取り、二本足で立ち、目を閉じていた。


「喰らいなさい! 火属性魔法――フレイムバーストよ!」

 

 舞台上を覆い尽くす程の巨大な火球が猫娘を呑み込まんと襲い掛かる。この大きさだとむしろ回避する事は不可能であろう。火球が猫娘を呑み込み、塵と化そうと迫った瞬間、猫娘は両眼をカッと見開いた!


「甘いにゃーー!」


 巨大な火球にミミィの姿は見えなくなり、会場を覆う結界へとぶつかり爆発を起こす。モニターごしの映像も煙に包まれ、会場がどうなったのか分からない。実況のケモ耳っ娘が会場を煽る中、やがて煙が晴れた時、セーラービキニを焦がし、なだらかな片方の果実を少し見せた状態で、猫娘はほぼ無傷で立っていた。


「凄い……」

「ミナモ、あれが闘気の使い方だよ」


 地面を蹴ったミミィは一瞬でローグとの距離をつめ、そのまま押し倒した魔導師の喉元へ鋭い爪先を突きつけた。咽喉を鳴らした魔導師は、鬼気迫る獣の形相に戦意を喪失し……。


「……参り……ましたわ」

「勝ったにゃああああ!」


「勝者――ミミィ!」


 実況のケモ耳娘が勝ち名乗りをあげ、会場から歓声が沸き上がる。


 ミミィ勝利の瞬間だった。このあと、もう一人午前中の試合にスタンバイしていた宮廷騎士団の若き新星、アルバも見事勝利し、サザナミ国のメンバーは順当に一回戦を突破していく。


 そして、いよいよ前回準優勝、今大会の優勝候補筆頭、マイの初戦が回って来るのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る