〜Final(私と一緒)〜

「お前は本当に『神』なのか?」

「こんなにも非力で、頭の悪いお前が?」

「お前の親は非の打ち所がない素晴らしき神だったというのに…」

「ああ…何故逝ってしまわれたのですか…神よ…」

「…私は城内の者全ての者の総意によりお前の教育を任されている」

「お前が『神』として恥ずべき存在にならない為に、な」

「お前に私の辛さがわかるか?」

「無能な子供を!!この世で最も尊い存在に育てなければならないと!!命じられた!!私の気持ちが!!」


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『少年の姿の邪神』デルは、地獄にある城の中で話を聞いていた。

喋っているのは先代の邪神の側近、そして現在の邪神であるデルの『教育係』をしている『悪魔』ラスである。


「そういえば…またお前は天国へ行ったらしいな」


「地獄へ勝手に人間を転送されたんだ、対処の為には仕方ないだろう」


「ああ!穢らわしい!あんな場所に行ってしまうなんて!」

「どうやら思考も毒されているようだ!でなければ天国に行くことにももう少し抵抗が生まれるはず!」

「…少々荒療治ですが、これも『教育』です、ご容赦くださいね?」


ラスによる『教育』はデルにとっては日常茶飯事だった。

ラスにとってデルは弱者で、崇拝していた先代の面汚しであり、私怨をぶつける対象になってしまっていた。

また城内の部下たちもその全員が『先代』の崇拝者であり、ラスと同様の思想を抱いていた。


デルは神であるとはいえ実体が存在している。

傷は付くし心も存在する。彼の心は少しずつ、少しずつすり減っていった。

ラスはしばらく『教育』をした後、デルにぼやいた。

「まったく…こんなことじゃあ、この地獄を統べる力をつけるのは一体いつになってしまうのでしょう…あぁ考えるだけで気が遠い…」

「いっそ…」

ラスは邪悪な笑みを浮かべる。

「いっそここで、お前を消し、別の優れた者を挿げるか…?」


ラスは持っていた武器を大きく振りかぶる。

その瞬間、部下の悪魔がラスの元へ現れた。

「報告します!!場内へ侵入者が!!」


「し、侵入者だとぉ!!」

「馬鹿な、何者…」


デルは瞬時に確信した。

この頑丈な警備の中、城へと容易く侵入出来る存在などこの世界に一つしか存在していない。

エルだ、エルが来ているのだ。


「はぁ…全く…」

「せっかく我慢していたというのに」


デルの呟きにラスが反応する。

「もしやお前の手引きか?だとすれば地獄全体への反逆になるなぁ?」

「先代様には悪いが!!そんな奴は!!殺さないといけないなぁ!!」

ラスは武器を振り下ろす。




「父上はとても優しくてね」

「…君たちは統率のために見せられた『厳しさ』に惹かれたんだろうけど、僕は違った。」

「父上の、そして父上の建てたこの城のおかげで、地獄の争いはなくなった」

「この城は父上にとって凄く大切なものだというのを知っていた」

「だから、我慢していたんだ」



「お前たちを殺すことを」

ラスに対しデルは無表情に、それでいて凍てつくような強い殺意を向けた。


デルはラスの振り下ろす武器を片手で受け止め、もう片方の手に黒い炎を生み出す。

「お前は僕を非力って言ってたけどさ、純粋な力でいうなら、僕は歴代の神で1番強いんだぜ」

「『教育』も大して痛くはなかったよ。だけど父上が大事に育てたこの場所が、徐々に腐っていくのは見ていて凄く辛かった」

「まあ知ったところで意味ないか、じゃあね」

デルがその炎を纏った拳を振りかざすと、ラスは塵すら残さず消滅した。


「さて、あのバカ神に会いに行くか」

「あいつ一人だと何をしでかすかわからないからな」

デルは少しだけ笑みを浮かべ、城内でエルを探すことにした。



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一方その頃、エルは城内の兵士と口喧嘩をしていた。


「私はデルに会いに来ただけって言ってるでしょ!!」

「邪魔しないでよ、私もデルも神様だよ?」


「ハッ、今の地獄の神と同様、どうやら天国の神も使えないゴミのようだな!」

「デルは今頃教育係のラス様と一緒にいるだろう」

「天国に行った件で殺されてなきゃいいけどなぁ!」


その言葉に堪忍袋の尾が切れた少女は兵士を殴り飛ばした。

そしてその場所にデルが現れる。

「エル!お前何やってんだ!」


「デル!!!会いたかったよ!!!」


「え?あ…そうか……じゃない!!何をやってるのかと聞いている!!」


エルは屈託のない笑顔で答える。


「この城、壊そうかと思うんだけど、ダメ?」



デルは頭を抱えたが、しばらくして答えた。

どこか吹っ切れたような表情で。

「はぁ、仕方ない」

「許す」

「僕らでこの場所をぶっ壊すぞ」


「了解!」


エルとデルは城中に響き渡るように大声で宣戦布告する。

「「かかってこい」」

そして戦いは始まる…



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結果は圧勝。

場内の兵士は全滅、城も全壊することとなった。

「あーあ、これで僕も独りかぁ」

「居場所がなくなるって、神になっても不安なものなんだな」


デルの言葉を聞き、少し不機嫌そうな顔でエルは返事をする。

「独りじゃないでしょ!」

そしてエルは笑いながら続ける。

「ね?」


「あ、あぁそうだな…」

デルは少し顔を赤らめる。


呼吸を整え、デルは言った。

「…本当にありがとう」

「僕は単に勇気がなかっただけなのかもしれないな」

「でもエルのおかげで、少し前に進めた気がするよ」


「どういたしまして!」

「まあ、私も神様だからね!」

「このくらい楽勝ですよ!」


「フッ、お前らしいな…」

「また暇な時でも遊びに来てくれ、僕も行くからさ」


「え?」


「え?」

2人は顔を見合わせる。

そして慌ててエルが口を開く。

「…あ、そっか言い忘れてた」

「お、おめでとう、今日からあなたは…」

「私と一緒で…」

「…いや、違うな…」

「わ…」


「私と一緒にいてください!!!!」





これは2つの神様のお話

よく似ていて、少し可愛らしくて、不器用な、そんなふたりの…



-The End-

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