〜その3(人間)〜
男の名はノブト。
彼は神の力を得た後、私利私欲の為にそれを使用していた。
勤めていた会社は辞職。噂によると会社は不運な事故の連続で倒産したようだ。
また、各地で人智を越える力での強盗被害が発生したらしい。
諸々の被害は数えきれないほどだった。
「最高だ、あの神とかいうやつのおかげで人生最大限に楽しめそうだよ」
「感謝してもし足りないね」
「今頃どうしてるかな…フフッ」
「俺は俺の情報を遮断している、『自分以外の能力の影響を受けない能力』でな…」
「呼び寄せることも出来なければ、そもそも私の居場所を知ることさえ出来ない。もう会うことも出来なそうで悲しいよ、なぁ『神様』!」
「そう、じゃあ喜んでくれるよね?」
独り言を言っていたノブトの後ろに少女が現れた。
彼は困惑する。
「な…どうやってこの場所を…!!」
「あなた、頭が良いのか悪いのかわからない人間ね」
「『あなた以外の全てがわかる』のなら、『わからない』ところがあなたの居場所でしょう?」
「なるほど…ね、だがここに来たところでお前に何が出来るんだ?」
「私は、今やお前と同じ高さにいるんだぞ!!」
ノブトのその言葉を聞き、少女は鼻で笑った。
「同じ位置…?」
「あなた面白い冗談を言うのね。」
そう言って少女は彼の方向にゆっくりと歩を進める。
「『能力』だけが神の全てだと思った?」
近寄る少女にノブトは『存在を消滅させる能力』を発動した。
しかし少女は消滅しない。
「な…なぜ効かない!」
「そ、そうか…私と同じく守ることに能力を使用したんだな!」
「違うよ」「私は『神』だから、ね?」
「そ、それなら『自分を神に変える能力』を!!」
「無理よ」
「あなたはもう、何の『能力』も使えない。」
「私が『そういう能力』を使ったからね」
「やるならもっと早くやっておくべきだったね?」
「な…私は能力の影響を受けな…」
「だーかーらー」
「私は神様だよ?」
「もし事象と事象が能力によって矛盾した時は『私が正しい』の」
「私は『ここに存在する』のが正しいし、あなたは『能力の影響を受ける』のが正しい、ただそれだけよ。」
「とはいっても、情報を消された時は流石に焦ったわ。存在が消された情報は、そもそも『復活させよう』と思うことすら出来ないからね」
「『私が正しい』とは言ったけれど、知らない場所のあなたを転移させられなかったのは大きな誤算だったわ。情報をくれてありがとうね」
「…もちろん、『神のようになろう』とすればあなたは能力的には出来たんだけどね。でもあなたは、『必要な時に必要なだけの能力を獲得する』に落ち着いていた。」
「まあ、私が来なきゃ今のままでも何も困らなかったから仕方ないよね」
「手数の多さと判断のスピードであなたは負けたの」
「ご、ごめんなさ」
「許さない」
少女は鬼のような面相でノブトに近寄り続ける。
「あなた…神になろうとしてたよね…?」
「まあ手遅れだったけど」
「おめでとう、今日からあなたは『なんの変哲もない普通の人間』です」
「…くらいじゃあ、ちょっと生ぬるいよねぇー」
「愚かな人間のノブトくん、あなたは少し『やりすぎ』よ」
「こういう人の為の場所があるからさ、そっちいっておいで」
「じゃあね」
少女は片腕を上げ、怪しい声で唱える。
「『地獄へ堕ちろ』」
その言葉と共に、恐ろしい姿をした門が現れ、黒い化け物がノブトを連れ去っていく。
そして門は消滅する。
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「あーあ、疲れちゃった!」
「でもまあこれで解決ということで」
「壊されたものについては、まあサービスで直しておいてあげますか!」
そして少女は天国へ帰っていく。
天国に戻るとそこには悪魔のような姿の少年がいた。
「おいエル、門を使っての地獄送りはイレギュラーだからしないでくれって、こないだ言ったばかりだろ」
「お前は神なのに約束も守れないのか?人間みたいだな」
『少女の姿の神』エルはいじけた顔で少年に返事をする。
「ばかりって、前回は3年も前なんですけどー」
「僕たちにとってはさっきみたいなものだろう」
「いやいや、地獄送りは人類の歴史とともにある習慣でしょ?」
「なら人間たちの尺度で考えるべきだと思うなー」
「コイツ…」
少年は諦めたような表情をする。
エルは続けて話す。
「デルだって、久々に地獄からこうやって私に会うきっかけが出来て、嬉しいでしょ!」
「ね?『邪神さま』?」
『少年の姿の邪神』デルは呆れた顔で答える。
「ま、此度のことは大目に見てやる。」
「だが次はないからな、勝手に地獄に人間を転送するなよ」
「はーい」
デルは天国に備え付けられた転送装置で地獄へと帰っていく。
「まったく、デルはいちいち小うるさい神様だなぁ」
「ま、そんなとこが好きなんだけど、ね」
少し照れながら少女はまた人間を観察する。
「さて…次は…」
〜その3(人間)〜 -完-
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