〜その2(神の使い)〜

『天使の姿をした少女』は、憂鬱そうな顔を浮かべながら呟く。


「つまんないなー…」

「あの無礼なクソガキのせいで、盛り下がっちゃったーーーーー…」

「こうなっちゃうなら、100万年に1人とかじゃなくて大勢にばら撒いちゃってもいいかもしれないなー」

「それはそれで面白そうだし」


「…」

「いや…面倒臭いな…」

「ある程度の数に会わなきゃいけなくなる…」

「説明せずに広範囲にまとめて能力授けたら混乱で人類滅びかねないしなぁ…」

「あーーー!!!!!もう面倒くさい!!!!!」


少女は逆ギレする。

「私…」

「神様だよ?」


少女の言葉に偽りはない。

彼女は正真正銘の『神』と呼ばれる存在であった。

人間より緩やかに歳を重ねるため幼い少女の姿をしてはいるが、年数でいうなら20年以上は生きている。ただ、神としては非常に若い部類であることは間違いない。



少女は苦しみながら思考し、その結果一つのアイデアが浮かんだ。

「そうだ!!『能力を渡せる能力』を一人の人間に渡して、私の代わりに面倒なことを全部やらせよう!!」

「こんな重要な役割、私に頼まれて断るやつなんていないでしょ!」

「…アイツみたいな失礼なクソガキじゃなければ」


少女はそれを実行に移す為、人間の世界を覗き込み適任者を探した。

「礼儀正しくて賢そうな…大人…よし!こいつだ!!」

目に留まったのはサラリーマンの男性のようだ。


その男が深夜に眠りについた時、以前少年にしたのと同様に男を天国へと呼び寄せた。


「おめでとう、今日からあなたは神の使いです!」


天国に招かれたその男は困惑した様子で答える。

「は、はぁ…」


「どうしたんですか?嬉しいでしょう?」


「とは言われましても…状況があまり把握できていなくてですね…」


「私は神様で、これから人間に能力を授けて遊ぼうかと思っています!」

「そしてあなたには『人間に能力を授ける』任についてもらおうかなと!」


「なるほど…、信じ難い…とは思いますが、今の周りの景色を見てるだけで信じざるを得ないですね…」

周囲の異質な風景を不思議に思いながらも、男は少女に質問をする。

「ちなみにそちらの任務とやら、私に何かしらメリットはあるのでしょうか」


「そうですね。なかなか過酷な作業だと思うので、完遂したあかつきには『好きな能力をなんでも』授けます!」


「おお、それならば断る理由はありません!」

「是非、私にお任せください!」

男は満面の笑みで返事をした。


(最初からこうすればよかったのかも…)

(こっちで渡す能力を決めるんじゃなくて、相手に好きに選ばせれば人間は嬉々として受け取るのね…)

少女は少し反省する。


「では『能力を渡す能力』を授けましょう」

少女は手をかざし、男に能力を授けた。


「受け取った…んですかね?」


「はい、そうですね」


「ちなみに自分自身には授けることはできないのでしょうか」


「無理です。それを認めたら今より遥かに強い能力になってしまいます。」

「そんなことはないと思いますが、万が一あなたが私を裏切った時のことを考えると、大き過ぎる力は渡せません」

「とは言っても、渡せる能力についての制限はほとんどないので、そこは自由に考えてもいいですよ!」


「…なるほど、確かに」

男は少し表情を曇らせながら何かを思考する。


「で、具体的にどうすればいいんでしょうか」


「まずは適当な人間をこちらの世界に呼び込みます」

「これは私に頼むんじゃなくて、この場所…『天国』の機能として備えられている転送装置を使ってください」

「そして呼び入れた者に能力を渡します」

「面白くなりそうな能力を適当に選んで与えてください」

「そしてその説明もお願いします」

「…とまあこんなところですかね!準備出来次第お願いします!」


男は笑顔で答える。

「ええ、了解しました。貴方様はゆっくり休息を取って下さい」

「後のことは私がやっておきますので」


「ええ、任せましたからね!私は別の場所に居るので!」


そう言い残し少女は少しずつ消えていく。



そして少女は休憩場所である『部屋』に移動した。

天国とも少し違う、最大限に休息をとるためだけ場所である

少女は寝床にダイブし、今日1日の成果を振り返る。

「やった!!!上手くいったぁ!!!」

「これでかなり楽出来るぞ!!!」

「さてこれから人間の世界がどう変わるのか、楽しみね」

「さて、今日は疲れたし、寝よ!」

そして少女は熟睡した。



------------------------------------------------



次の日。

少女は男の様子を見ようと天国へ移動する。

しかし、そこには誰もいなかった。

「は?」



「いやいやいやいや、どういうこと…??」

「まさか…逃げた…の…?????」

少女は状況を整理するにつれ、少しずつ怒りの様相を見せる。


「あいつ!!!!!!逃げやがったな!!!!!」

「はぁ…」

そして少女は落ち込んだ様子を見せた後、不敵に笑った。

「馬鹿め…」

「お前の相手は『神』だということを思い知らせてやろう!」

少女は能力を発動する。


この少女、いや、『神』の持つ能力、それは『"自分を含めて"誰かに能力を授けることができる能力』である。

『出来ないこと』など基本的にはないし、あったとしても次の瞬間には『出来ること』になるのだ。

そして少女は『指定した相手を強制的に目の前に転移させる能力』を自らに付与し、発動した。


「…」


発動した、はずだった。

しかし、男は少女の目の前には現れない。

「馬鹿な…そんなはず…」

少女は困惑した。そしてすぐさま次の方法を試みた。

「『この場所で何が起きたのか、我に教えろ』」


少女は『この空間で起きた全ての事象を識る能力』を発動した。

しかし、脳内に入った情報は今まで見たこともないものだった。

「黒く塗りつぶされてる…!??」

情報が存在していない、そんなことは基本的にあり得ないことである。

例えば、『誰もいなかった』なら『誰もいなかった』を識ることになる。つまりこのような結果にはならないはずなのだ。

この状況は明らかに『異常』であった。


少女は封印された情報の解除を試みる。

大部分が解除不能であったが、一部の解除に成功する。

そこには、見ず知らずの人間の青年の姿があった。

そしてその青年から衝撃の事実を識ることになる。


「この人間…『1度だけ、触れた者に『神と同等の能力』を付与する能力』を付与されている…!!!」

「そして付与した対象は見ることが出来ない…」


「まさか!!」

少女は確信に近い仮説を立てた。そしてそれは事実だった。



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時は少女が天国を離れた直後に遡る。

男は、適当に選んだ青年を天国に呼び込み、『神と同等の能力を付与する能力』を付与した。

そして即座に自分から青年に触れることで『神と同等の能力』を獲得し、逃亡した。

自分の行動の情報を何かしらの能力で封印していたことを考えると、呼び出された青年はもう生きていないかもしれない。

仮に生きていたとしても能力によって彼に繋がる情報は消されているだろう。


「クソっ!!!!」

少女は出し抜かれたのだ。

今や神と同程度の能力を持つこの男に。


「…流石にこのままにしとくわけにはいかないかなぁ…」

少女は怒りを剥き出した表情で決意する。

「あの人間を捕獲する!」


「改めて、」


「相手は『神』だということを思い知らせてやる」


-To be continued-

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