今夜、本屋を犯す

川詩 夕

第1話 今夜、本屋を犯す

 私は本屋に欲情するんですよ。

 えぇ、私にとって本屋というのは、人間が人間に欲情する事と同じなんです。

 分かります? 分かりますよね? この感覚、きっとあなたなら理解を示してくれるはずです。だって、あなたは私と同類なんですからね、ははは。

 漫画の絵、アニメキャラクターのぬいぐるみ、高層ビル、素朴な一軒家、奥床しい神社、塵に彩られた廃墟、逞しい動物、しなやかな植物、硬質な機械、美しいゴミ、汚い空に欲情したりね?

 私の場合は本屋、本屋なんですよ、ただそれだけ。

 本屋の佇まいは人間が持つ雰囲気と同じですよ? 目には見えない感覚、オーラってあるでしょう?

 入り口から一歩入って即座に目に映る本、そそりますね。

 お洒落なコーデをしている女と一緒です、直視できない、正直ね、私の方が恥ずかしいです、シャイなんでね、はい。

 本が陳列されている什器を見るとね、触れたくなります、いや、触れます。

 触って、擦って、こねくりまわして、匂いを嗅いで、周囲に誰も居ない事を確認してから、舐めます、レロペロベロリンチョとね。

 あぁ、すみません、本屋について話しをしているだけ興奮してきましたよ。

 見てくださいよ、これ、ガッチガチにそそり立っているでしょう?

 触ってみます? 恐い? 何が恐いんですか? まぁ、いいです。

 言うなれば、BOOK起、ですね、ははは、あれ? ここ笑う所ですよ?

 え? 笑えない? 参ったなぁ、本が好きなあなたに教養がないなんて、信じられません、とても残念です。

 もうね、我慢できません、私、これから本屋を犯そうと思います。

 えぇ? 何とおっしゃいましたか? もう一度言ってください、聞き取れませんでした。

 馬鹿? 今、馬鹿って言いました?

 本屋を犯す事が気持ち悪い? 狂ってる? 何を言ってるんですか?


 あなた、今まで散々、無垢で幼い少年と少女を犯してきたでしょう?


 今夜はあなたの番ですよ、私が今からあなたを犯します。

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今夜、本屋を犯す 川詩 夕 @kawashiyu

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