いなり本屋は今日もこんな感じです!
白千ロク
いなり本屋は今日もこんな感じです!
細い路地を抜けた先にあるのは古本屋である。いや、古本屋というのか、不思議な本屋といえようか。
店主は妖狐。お手伝いをするのはチビ狐たちだ。イケメンと幼女たちがわちゃわちゃしているのを眺める俺。いや、幼女。
なにがどうなってこうなったのかは解らないが、本屋に来ると俺は幼女になる。お手伝い要員として。なら他の狐もそうなのかと思ってしまうだろうが、それは違う。俺だけなのだ。こんな風になるのは。解せない。
「もーさ、早く!」
「あいよー」
チビ狐、いや、幼女の中でも一番にお手伝い要員として名を挙げたチビは、最下層な俺をこき使う。まあ、可愛さが苛立ちを上回るから全然よいんだけどさ。ピコピコ動くミミとしっぽに敵うわけがないだろう。……俺もそうだとは考えないけど。湧いた羞恥を振り払うように周りを見渡すと、にこにこイケメンはどこかに消えていた。
「もーさ!」
お手伝いナンバーはゼロニイサン。
チビたちはイチさん、にゃーさん、サンさんというように、数字で呼ばれている。いまは俺を含めて二十三人いる。二番目のチビがにゃーさんなのは、ニーさんだと困るからだ。お客さんが来たときに混同してしまう恐れがあるということで、にゃーさんになったようだ。そうですか以外の感想が湧かなかったのだが、イケメンが嬉しそうに話すから愛想笑いをしておいたわ。本当にイケメン妖狐は眷属のチビ狐もたちが大好きらしい。甘やかしているしな。
幼女になりたくなければここに来なければよいだけだというのに、大学帰りに寄るのが日課となっていた。なぜか足が向いてしまうのだから、妖狐の力だろうと思ってはいる。なにせ妖狐だからな。目の保養だからいいけども。それに俺がやることは読み聞かせだからな。いまのところは。
読み聞かせが終わってすぐに「もーさ」「もーさ」と俺に構うチビたちは、イケメン店主の「おやつにしましょうかー」というのほほんとした声にすぐさま離れていった。幼女化というか、人化を解いては饅頭に食らいつく。食い気には勝てないみたいだな。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
イケメンはみんなから離れて、俺の隣に腰を下ろすと、饅頭と湯呑みが乗ったトレーを渡してくれた。黙々と食べて解ったが、栗饅頭とはやるな。
さて、小腹は膨れたから帰るか。
「ごちそうさまでした」
「はい、また明日」
「来るかは解りませんよ」
「来ますよ。あなたは人恋しさに飢えていますし」
分かった風な口をきく男から顔を逸らした俺は帰る支度を済ませると来た道を歩いていく。
地元を離れてのひとり暮らしは寂しいなあと思っていたところで、ここを見つけてしまったのだから、嵌らないわけがない。こう、推したい感じしかしないわけだ。
これは妖狐の力なんてものではなく、俺の心の問題なんだよなあ。寂しさは消えたんだけど、癒やしがほしいんだよな。
幼女化も気にならないほどには気に入ってしまったのだから、都会というやつは恐ろしいわ。
(おわり)
いなり本屋は今日もこんな感じです! 白千ロク @kuro_bun
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