買い物でバトル

夏空蝉丸

第1話

「我こそは歴戦の猛者なり」


 対戦相手はそう叫ぶなり魚屋に飛び込んでいく。多分、冷凍マグロとか見つけ出して買うつもりなのだろう。確かに冷凍マグロはかなり強力な武器になるはず。力いっぱいに振り下ろされたら十分に殺傷能力のある鈍器となる。戦闘を優位にされる可能性も高い。買えるならな。


 冷凍マグロなんか手持ちの金で買えるはずがない。そもそも、庶民向けの魚屋で売っているわけがない。敵が入った店では手に入れられて精々冷凍イカだ。攻撃力的には素手と大差がない。


 勝利を確信した俺はゆっくりと本屋に入る。本屋こそ最強。ここにこそ武器、防具、知識、全てが揃っている。まずは防御だ。腹部を守れるような大きめの図鑑、盾になりそうなハードカバーを選びだす。次に武器となる本を探す。基本は辞書だ。とコーナーに行くがこの店にある辞書は品揃えが悪い。かなり柔らかい辞書しか無い。まずいハリセン並みの攻撃力だ。


 少し動揺するが深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。買い物ができる時間は十分。大丈夫。まだ慌てる時間ではない。早足で小説のコーナーに向かう。勿論、文庫……ではない。勿論、新書だ。お目当ての作家さんの本を祈りながら探す。千ページを超える力作。余裕で凶器。


 急いで会計を済ませて外に出ると、敵が待ち構えていた。剣と盾の代わりであろう冷凍サンマを両手に持っている。お話にならない。お前は魚屋を選んだ時点で敗北していたのだ。内心小馬鹿にしながら俺は本を構える。武器も防具も俺のほうが上、腹をサンマで刺されても図鑑が守ってくれる。これでは負けようがない。運営の戦闘開始のホイッスルを聞きながら俺は勝利を確信しながら本を振り下ろした。


 そう、俺たちが参加しているのは買い物バトル。商店街で売っているものを買ってきて武器にして戦うコロシアムだ。毎回、選択できる店が変わる不思議な戦いがここにあるのだ。


 

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