20. アコーニが、すぐ来てくれたんだよ
夢の暗闇。ぴりぴりぴりりと鳴くヒバリ。
見上げても姿は見えません。でも暗闇の黒はどんどん青く眩しくなって、あたしの身体はみるみる軽くなって、背中に回ったルルビッケの手はだんだん暖かくなって、あたしはうとうとしてきます。夢なのに眠くなって、ヒバリの唄がぐんぐん近づいてきて、耳元でふいに声がしました。
「訓練いくよ」
「ねぼうした!? ……あ、あれ?」
ヒバリがけたたましく鳴いていて、寮の部屋はとんでもなくやかましいです。仰向けのあたしは誰かに抱きつかれていて、スーリとアコーニから見下ろされていました。
天井に吊された魔力燈が眩しく光っています。
「やっ……たぁ。起きたぁ……」
抱きついていたのはルルビッケでした。体を起こして、床にぺたんと座り込みました。あたしのほっぺたにルルビッケのほっぺたのさらさらした感触が残りました。
とにかく助けてもらったというのはわかるんですが、恥ずかしくて、あたしは文句を言ってごまかしました。
「……まだ夜じゃないですか」
「あんたそういうとこよくない」
スーリの指があたしのおでこをバチン。
「あ
「ルルビッケにまずお礼でしょー?」
「はい……ありがとうございました」
「いいよー」
って、ひらひら手を振るルルビッケの髪に、ボンシャテューが潜ります。急に静かになって、きーんと鳴る耳に、寮全体がなんだかざわざわしているのが聞こえました。
よく見れば、ルルビッケも走った後みたいに息をついていますし、スーリのほっぺたには汗で髪が何本か張り付いていました。アコーニはスーリの隣、あたしの足元のほうでうつむいて、
みんな寝間着のままでした。
天井の、ちょうどあたしの胸の真上にコウモリのイコ。枕元にはミミズクのシュエットがいます。
「あのぅ、なにが……?」
「女子寮のほぼ全員が悪夢を見て、使い魔にたたき起こされたんだよね」
スーリがちらっとアコーニを見ました。天井からイコの声が降ってきます。
「ただの夢とはちがう。我が君の心に触ろうとするような、
「るる。魔法と言うよりりりりは、妖精や妖魔のしわざ。しわざ」
「でさー」って、ルルビッケがベッド脇に顎をのせます「そういうモノが悪さをしてきても、使い魔は強引に割り込んだりできるじゃない? ってもう学科でやった?」
「はい。でもあたし……」
「そうなのー。エーラちゃん使い魔いないから、そのまま引っ張り込まれちゃったみたい。ずーっと叫んで全然起きなかったから、もー、死んじゃうんじゃないかと思って。ペルメルメかスーリか、とにかく助けてーって思ったら、アコーニが、すぐ来てくれたんだよ」
アコーニの名前を言うとき、一瞬、ルルビッケは悲しそうな顔をしました。
「スーリとイコが夢に通り道を開けて、アコーニとシュエットがわたしを夢に押し込んでくれてさー、六人で力を合わせて、エーラちゃんを起こしたの」
枕もと、急にシュエットが飛び立ってあたしは風に目を閉じます。ベッドの足元側にミミズクの降りた感じがありました。
目を開けると、シュエットはアコーニの前です。アコーニを守るような位置です。あたしたちから、守るような位置です。
うつむいていたアコーニが、ゆるゆると顔を上げました。
初めてアコーニと目を合わせた気がします。緑色のまんまるな瞳は、怒っているようにも見えました。怖がっているようにも見えました。あたしが夢で見たような、いろんなごちゃまぜの気持ちが見えました。
「寮母さん起こせたよー」
って、ジケが入ってきました。
「こっちもなんとかなったのね。スーリご苦労さま」
ペルメルメさんも一緒でした。廊下にシャモーまで来ています。部屋がいっぱいです。
「さて、みんなそろったところでアコーニ、詳しい話、聞かせてくれるよね?」
スーリが低くかすれた声を出しました。あたしは起きて、ベッドに座りました。でも、もうこれで話をおしまいにしたかったです。怖い夢はありましたし、あたしに使い魔がいないせいで迷惑をかけてしまいましたが、もういいじゃありませんか。
あたしは、結局無事なんですし、いいじゃないですか。
けれど、アコーニは言いました。
「私がやったの。蛇を使って、あなたに呪いをかけたの」
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