13. ルルビッケはどこを食べられたんですか?

「父さまが家庭教師をつけてくれててー。わたしに魔法の素養があるのも、その人が見つけてくれたんだよね。シャテューに出会ったのも、お花のお勉強しましょうって庭に出てた時でさー」


 お庭。お花。お父さん。かていきょうし。マートル裏とは全然ちがう世界です。


「庭にヒバリの巣があったんだ。前からたまに見守ってたんだけどねー。その中の一羽がさ、いつまでたっても巣立ちをしなかったの。それ見たら、びりびりびりー、て」

「シャテューはあたらららしい巣をみつけた。自分の翼で初めて飛んだ。るるルル様の頭の上」

「それでわたしも、今だーって思って。約束の言葉唱えて、契約したの。わたしはシャテューの胸のふわふわの羽を食べたんだけど」

「たべた?」

「そー。お互いにどこかしらを食べ合うんだよ。飲みこむの大変だったー。でもなんか、だよねー」

「あの、ルルビッケはどこを食べられたんですか?」

 痛いのはいやなので、参考にしたいです。

「頭の皮。なんかー、そこがよかったっぽくて、こう、ガッ! と」

 がっと。

「ひと思いにつついた」

 って言わないボンシャテュー、怖いです。

「傷あるよ。見る?」

「……いいです。明かり、消しますよ」

「よろしー」

 壁際の魔力まりょくびんの口をひねって、魔力燈とのつながりを外しました。部屋がと真っ暗になって、あたしは手探りでベッドに戻ります。

「おやすみなさい」

「おやすー」

 いろいろあったので、やっぱり疲れてたんだと思います。ベッドに入ったと思ったら朝が来てました。

 これが春のことだったんですが、そういえばこの頃には婆猿ばばざるの夢は見ませんでした。



 今は見ます。夏の夜に二人で叫んでお目覚めです。



 怖い夢を見て、目が覚めたか覚めないか、って時に誰かの叫び声を聞くと、

「ぎゃあ!」

 って声が出ちゃうんですね。

 あたしとルルビッケがお互いの悲鳴に驚き合ってぎゃあぎゃあ言うのを「ビるっ!」と鋭い音がさえぎりました。ヒバリのナワバリ。余計なモノは出てけ。つまり、いろいろ振り払ってすっきりさせる魔法です。

 そろそろ夜明け。

 薄明るい中、あたしとルルビッケは顔を見あわせて、もう一度寝たのでした。



「きっとエーラちゃんの夢が伝染うつったんだよー」

「あるんですか? そういうの」

「あったはずー。寝てる人から夢魔ソニャデイラを呼び出して移すやつ」

「あたしが寝てたら、その夢魔ソニャデイラを呼び出すの、ルルビッケですねぇ」

「あそっかー」

 髪をかして、結んで、着替えて、朝の訓練に向かいます。足首の所できゅっと縛る女の子用のズボンと、ひざ丈のひとつながりワンピース

 あたしのは誰かのおふるのおふるで、ぶかぶかします。でも、まだツギもハギも当たってないですから、これは新品と言っていいでしょう。


 最初の訓練の時、ルルビッケに言われました。

「魔力の呼吸もそうだけどー、魔法って最後は気合とか体力みたいなとこあるからねー」

 だから、みんな毎朝体操するんですよ。寮の周り走ったりとかもします。


 あたしは走るのビリっけつです。ルルビッケはと走って、すぐに走り終えます。腕しっかり振るとか、姿勢をよくする、とか、空気も、魔力も、どっちも、吸うとか、走るの、にも、やり方とか、気を付ける所、が、いろいろ、あるって。たいへんです。終わりました。


「エーラちゃん悩んでることあるー? 最近うなされるの多いよね?」

 あの、まって、まってルルビッケ。まだ息が。

「わたしもなんかー、実家から出してもらえない夢とかみるの。なんだろね」

 待ってくれません。いえ、あたしが走り終わるのは待っててくれたんですけど。

 すたすたと中庭の真ん中へ向かうルルビッケを、小走りで追いかけます。

「なや、悩みは、前とあんまり。お仕事中に、怒られたりは、最初からですし」

 この後、みんなで集まって体操です。

 体を上手に動かせるように。取り込んだ魔力をちゃんと体の中にとどめられるように。留めた魔力を自在に流せるように。

 最初のひとつはへたっぴです。でも後ろのふたつは褒められたんですよ、あたし。

 

 体操が終わったら朝ごはんです。寮生みんながどやどやと食堂に入って。今日はパンとゆで卵に瓜南瓜クージェの温かいスープ。最高じゃないですか!

 たくさん食べておっきくなりなーってルルビッケがいっつも言うので、他の人からも言われるようになりました。それ言うなら、その卵くださいよって思います。ルルビッケはちゃんとくれます。

「卵はだめー」

 だめでした。

 足遅いのに食べるの速いよね、ってコウモリの人に言われたりしますが、うるさいです。食事が終わったら、お仕着せの上着に袖を通し、お仕事に向かいます。

 上着もお古ですが、濃い紺色のしっかりした生地に赤いふち取りの袖や裾、それに大きな襟でかっこいいなって思います。お仕着せは背が高いほうが似合うので、あたしも背が伸びたいです。


 お仕事へ向かう道でも、寮の魔法使いは人間か使い魔とおしゃべりするのでにぎやかです。

 それで気がついたんですけど、怖い夢の話をしてる人、何人かいたんですよね。

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