12. ヒバリ、ヤモリ、ミミズク、コウモリ、あとラクダ

「わぁぁ」

「ちっさ! ほっそ!」

「食べさせたくなるでしょー?」

「キミが噂の子かぁ」

「大変だったねぇ」


 って、一斉にきゃあきゃあ言われました。


 ケトさんにお礼を言って、お別れして、お庭を抜けて女子寮に入ったんです。

 談話室の横を通ったら何人かがお喋りしてて、そこにルルビッケもいました。「あー、エーラちゃん帰ってきたー」って。

 これは、その、ちょっと嬉しかったです。

 あたしは寮に入ったばかりで、知らないひとのほうが多かったですし、できれば仲良くしたいと思ってましたし、だから「ただいまです」って談話室に入りました。

 それで、一斉に声をかけられたんでした。


「……あのぅ、エーラ・パコヘータです。よろしくお願いします」

 今度は「しゃべったー!」って。わかんないです。どうしたらいいですか?

 部屋にいたのは、十五歳、十五歳、十七歳、十八歳、二十歳の五人でした。最初の十五歳がルルビッケ。使い魔は、ヒバリ、ヤモリ、ミミズク、コウモリ、あとラクダ。

「らくだ?」

「中庭にねぇ、黄土色で、馬っぽいけど顔がぼんやりしてて、背中にのある大きなのがいるでしょう?」

「あ! あの、のんびりした感じの」

 見たことのない姿で、何モノだろう、と思っていたんでした。

「そう。その感じの。体が大きいからねぇ、中に入れないんだぁ」

 って、ラクダのお姉さんものんびり喋ってくれます。談話室にも、止まり木だとか、布を詰めた籠だとかがそこかしこにあって、この時もそれぞれの使い魔が控えていました。


 談話室だけじゃなく、あと、この女子寮だけでなく、魔法協会もあちこちにいろんな動物や虫がいます。誰かの使い魔なのか、本当にただの動物なのか、見ただけではわかりません。なのでご挨拶をするんだそうです。

 返事があれば誰かの使い魔、そうでないなら、そうでない。

「えっと、みなさん、こんばんはです」

「おかえりりりる」「はい」「ほう」「こんばんは」

 ヒバリ、ヤモリ、ミミズク、コウモリから一斉に返事をされました。


 コウモリの人が話しかけてきます。魔法使いのほうです。

「チェム代表に声かけられたってほんと?」

「いえ。最初は旦那さんの方でした」

「あー、あの人かわいいよねぇ」

 ヤモリの人が鼻にかかった声を出します。

「へー?」

「いやでも年上過ぎでしょ?」

「既婚者よねぇ」

「まてまて待って。そーいうのじゃ、そーぉいうのじゃないって。眺めて愛でたいの。みんな好きじゃない?」

「嫌いではなーい」

「かわいいのはわかるかも」

「なんかこどもっぽい所あるよね」

「あの人、使い魔を持たない種類の、なんだっけ? 珍しい魔法使いなんでしょ?」

「そうそう」

 一斉にわいわい話されると、誰が誰だかです。チェムさんの旦那さん、人気あるんですね。

「あのこれ、聞いちゃっていいのかな」ってコウモリの人「婆猿騒動ばばざるそうどうを起こしたって言って保護されたの、エーラちゃんでしょ?」

「はい」チェムさんからは、変に隠したりしなくていいと言われています。「でも、あたしひとりでできる魔法とは考えられないから、いろいろ調べるのに協力するようにって、言われました」

「もしかしてそれで外出してた?」

「はい。チェムさんにいろいろお話して、帰りはケトさんに送ってもらって」

「えー、いいなぁー。エーラちゃんいいなぁ王族猫ケトリールぅ」

 ってヤモリの子がくねくねします。

「ケト様かっこいいいいよねぇ。王族猫ケトリールって選ばれた人の前にしか現れないんだよ。王族猫に出会って、使い魔の契約を結べちゃうなんて、憧れるー」

「えっ、そういうモノなんですか? 今日、そういう人を二人も見たので、わりといるのかなって思ってました」

「二人!?」

 一斉です。

「はい。チェムさんと、あの、白い猫の頭をした」

「もしかして『白頭』!? 騒動の時にもいたやつだ!」

「わたしも見たぁ! ズバーっ! って、すごかったよね! いまでもあの人誰だかわかんないんでしょ?」

「あの、みなさん、あそこに居たんですか?」

「いたいた。緊急呼び出しもらったの、初めてだったよね」

「あそーだ、古新聞探せば記事あるかも!」

 ってルルビッケがどこかに行こうとするのを、ラクダのお姉さんが止めました。

「いいよぉ、そこまでしなくて。エーラちゃんはぁ、まだ使い魔はいないの?」

「いません。使い魔ってどうやって作るんですか?」

「なるもの!」「なるるるるもの!」

 一斉に来ました。使い魔本人、つまり、ヒバリ、ヤモリ、ミミズク、コウモリから。

 人間たちの顔を見れば、あたしがなにか失敗したんだなってことはわかります。

「あの……ごめんなさい」

「エーラちゃん、あのねー」って、ラクダのお姉さんが言います。

「使い魔って、出会うものなんだぁ。ルルビッケぇ、ちゃんと教えといてあげないと」

「あー……はい。すいません」



 このあたりで、寮母さんに注意されました。うるさい。時間が遅い。寝なさい。って。



 部屋に戻って寝支度ごそごそ、ルルビッケが言いました。

「そっかー。エーラちゃん知らなかったかー。夜学よるがくでやったもんだとばっかり思ったよー」 

 あたしは椅子を踏み台にして、洗ったハンカチを洗濯ロープにかけます。

「学科だと、魔法使いの心得とか、どうして魔法だけが他の学問と分けられているのか、とか、やってます」

「それなつかしー」

 ルルビッケは肌着姿で、長い手足がつやつやしています。

「使い魔はねー、うまく言えないんだけど、出会っちゃうんだよ。お互いに。なんかビリビリー、ずばばばーって来るの」

「ビリリるりらっと来るるるる。シャテューも覚えてるんるるる」

 ボンシャテューも寝床に入りました。ベッドの下の、籠と布切れや紙切れで作った巣です。

 それを見届けて、ルルビッケがお話を始めました。

「シャテューはね、わたしんちの庭にいたんだー」

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