第50話 我は静香も静江の大好きだからな

「分かった。でも我のことを思い出しレクれただけでも我は嬉しいぞ」

「……そんなの当たり前じゃないですか。私もメアリーさんのことをあんなにも愛していたんですから」


 メアリーは自分のことを思い出してくれただけでも嬉しいらしく、頬が緩んでいる。


 メアリーが静江に会えて喜ぶのと同じように静香も、メアリーに会えて嬉しいと思っている。


 だって三百年前、あんなにも愛し合い体を重ねれたのだから。


「静江の記憶を思い出したからと言って天音たちの記憶とか思い出とかなくなったわけじゃないのか」

「はい。天音ちゃんや帆波ちゃん、月ちゃんの記憶もバッチリあります」


 静江の記憶を思い出したことにより、それまでの静香の記憶がなくなってしまったのではないかとメアリーは心配する。


 でもその心配は杞憂である。


 帆波たちの記憶は今も静香の中にある。


「正直言って私も凄く混乱しています。突然思い出した静江の記憶。今の私にはどちらの記憶もあります。だから今の私は本当に石川静香なのか不安です」


 静江の記憶を思い出して一番混乱しているのは静香自身だ。

 今の静香は静江の記憶を思い出す前の静香と同一人物なのか、分からなくなる。


「静香は静香だし、静江は静江だ。自分でも言っていただろう。今の静香は静江の記憶を思い出した静香だと。だからお前は静香だ」


 メアリーは今の静香も静香と断定する。


 静江の記憶を思い出した静香だと、自分自身では納得しようとしてみるがそれがかなり難しい。


 でもメアリーに太鼓判を押されると自然と不安がなくなる。


「そうですね。私は静香です。静江の記憶を思い出した静香です」


 自分でも納得させるために声を出して確認する。


「でも静江の記憶を思い出す前と静江の記憶を思い出した後で、一番変わったことがあるんです」

「ん? それはなんなんだ」


 静江の記憶を思い出す前と後では一つだけ決定的に違うことがある。

 静香はメアリーの胸元に手を添え、上目遣いでメアリーを見つめる。


 そんな可愛らしい静香にメアリーは動揺と興奮を表に出さないように平静を装いながら聞き返す。


「それは今、私がメアリーさんのことをとても愛しているということです。また、私と一緒にたくさん楽しいことしましょうね。もちろん、エッチなこともですよ」

「当たり前じゃないか。我は静香も静江の大好きだからな」


 静江の記憶を思い出してから、メアリーへの愛が湯水のように湧き出てくる。


 このこの思いを止めることなんてできない。


 静香はメアリーに愛の言葉を伝える。


 最初会った時、あんなにもメアリーのことが嫌いだった静香はもうどこにもいなかった。


 その言葉を三百年間待ち続けたメアリーは穏やかな表情を浮かべながら静香にキスをする。


 記憶を思い出す前の静香だったらビンタをしていたが、今の静香はメアリーのキスを受け入れる。


 ふっくらと柔らかく弾力のあるメアリーの唇。


 静江と静香、二人の男の娘への愛を止められないメアリーは舌を静香の口内へと侵入させる。


 最初はビックリしたものの、静香はメアリーを受け入れる。


 静香の口の中がメアリーの口の中と混じり合い、まるで境界線がなくなるような甘い感覚に襲われる。


 二十数秒、ディープキスをするとお互いどちらともなく唇を話す。

 月の光に静香とメアリーの混ざった唾液が糸を引き、光輝く。


「本当はエッチをしたいが天音たちがいるからおわずけだな」

「さすがに友達がそばにいるところで私もエッチなことはできません」

「遊娘だった静江がずいぶんしおらしくなったな」

「遊娘だった頃の静江の記憶があっても友達のそばでエッチなことはできません。メアリーさんの馬鹿」


 メアリーの言うとおり、静香も本当はメアリーとエッチなことをしたいがさすがにそばに友達がいる状況では静香も躊躇する。


 そんなし静香をメアリーは静江の記憶のことを持ち出しからかい、唇を尖らせる静香。


 もちろん、お互い冗談だということは分かっている。


 それが分かるからこそ、クスリと笑う。


「夜はまだ寒い。中に入って寝るか」

「そうですねメアリーさん。私も眠くなってきました」


 静香の体が冷えることを心配したメアリーは静香を中に入れる。

 静香も瞼が重くなってきてたので、その申し出はありがたかった。


 その後、静香とメアリーはお互いの布団で眠りにつく。


 メアリーは吸血鬼だから寝なくても生きていけるのだが、何百年も生きていると起きていてもやることがなくて暇らしい。


 だからメアリーは寝るらしい。


 今日の満月はとても美しかった。

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