第43話 そんなの『はい』以外ありえません

「そんなに買ってほしいのか」

「嫌なお客様には買われたくありません。でもメアリーさんはなんて言うのでしょうか。一緒にいてとても楽しくて気が楽なんです。だから私、メアリーさんになら買われたいと思ったんです。それにこんなところにずっとはいたくはありませんから」


 メアリーが静江にわけを尋ねると、静江は真剣な表情でわけを話す。


「確かに性を売る仕事は大変だしな。我は絶対無理だ」

「でも私たち遊女や遊娘はこの生き方しか知りません。性を売ってその日を生きるのです。それに私はここで働いてから一度も外に出たことがありません。だから良い人に買われて外に出たいという気持ちもあります。ここは私たちにとって不幸な鳥かごです」


 もし、メアリーが静江の立場だったら一日も持たずに辞めてしまうだろう。


 いくらお金がもらえるとはいえ、他人とエッチなんてできない。


 そう思うと、どうして他人の静江とエッチできたのか今さら不思議に思う。


 性を売ることしか知らず、それでしか生きられない静江。


 このままここにいたら静江は外の世界を知らずに死んでしまう。


「今の忘れてください。すみません、お客様相手に愚痴ってしまって」


 静江は客相手に愚痴ったことを謝罪する。

 客相手に愚痴るほど静江もまた疲弊しているのだろう。


「別にかまわん。お前はずっと一人で生きてきたんだな。辛かっただろう。でも今夜は大丈夫だ。我がいる。今夜だけは弱音を吐いても誰にもバレぬ」


 メアリーは豊満な胸に静江の顔をうずめさせる。


 静江は緊張の糸が途切れたのか、静かに涙を流す。


 微かに嗚咽が聞こえる。

 静江の体温と同じ熱さの涙がメアリーの胸に伝わる。


 静江が今までどれほど辛い目にあってきたのか、メアリーには分からない。


 分からないが、できることはある。


「それじゃー二回戦いくか。今度は我がお前を癒してやる」

「えっ、ちょっと待ってください。さすがにもう勃ちませんって」

「勃たなくてもできるエッチはあるだろう」


 静江が泣き止むのを確認すると、今度はメアリーが静江の上に覆いかぶさる。

 静江はかなり体力消耗しているらしく、慌てている。


 メアリーもあまり詳しくはないが、男の娘は勃たなくてもできるエッチがあるらしい。


 だから試しにメアリーは静江のお尻の中に指を入れる。


「そ、そこは入れちゃ……一応できるけど、まだ心の整理がー」


 静江が叫んでいるが、別に嫌がってはいなそうだった。


 こうして二回戦が始まり、お互い疲れ切って寝落ちするまでエッチは続いた。




 朝が来る。


 メアリーは心地の良い疲労感と共に起き上がる。


 隣には裸の静江がおり、自分も裸だということに気づく。


 昨日はかなり静江と楽しんだ。


 静江はメアリーよりも消耗したらしく、まだ眠っている。


 メアリーは一張羅の赤いドレスを着て、裸の静江には布団をかけ素肌がさらされないように配慮した。


 一時間後。


 ようやく静江が目を覚ます。

 ちなみにその間、ずっとメアリーは静江の寝顔を見ていた。


 別にやることもないし、静江の笑顔を見ているとなぜか癒された。


「おはようございますメアリーさん。すみません、お客様より遅く起きるなんて」

「おはよう静江。そんなことはどうでも良い。体の方は大丈夫か。疲れは残ってないか」

「今日はとても体が軽いです。メアリーさんに昨夜、たくさん攻められましたから」

「……さすがにあれはやりすぎたと我も思っている」

「うふふ、冗談ですよ。昨夜はとても楽しい夜でした」


 静江は目を覚ますと、メアリーよりも遅く起きたことに謝罪する。

 どうやら遊娘が客より遅く起きるのはマナー違反らしい。


 別にそんなこと気にしていなかったメアリーは静江の体の心配をする。


 昨夜は調子に乗りすぎて、かなり静江を攻めてしまった。


 静江が軽口を叩き、それを真に受けたメアリーは謝罪するメアリーの姿を見て静江は笑っていた。


 その後、裸の静江は着物を着る。


「今回はご利用いただきまことにありがとうございました。またあなた様に会えることを願っています」


 静江は客のメアリーに対して慇懃にお礼を言う。


「そのことだが、我はお前を身請けすることにした。我もこの地に来たばかりで不安でな。現地の人がいると心強い」


 起きてから一時間、静江を身請けするか考えていたメアリーは身請けすることを決断した。


 色々と言いわけを並べたが、静江といると癒されるのが最大の要因だった。

 静江は最初、なにを言われているのか分からなかったのかしばらくの間ポカーンとしていたが、言葉の意味が分かり始めると涙を流す。


「うぅ……あり……ありがとう……ございます。石川静江、誠心誠意あなた様に尽くします」

「そんなに畏まるな。我がお前と一緒にいたいと思ったのだ。静江、お前はどうだ? 我と一緒に生きてはくれないか」

「そんなの『はい』以外ありえません」


 慇懃すぎる静江にメアリーは居心地が悪かった。


 一応、静江にも意思を聞いたが聞くまでもなかった。


 静江はとびっきりの笑顔で頷いてくれた。


 そうと決まれば身請けする交渉を行わなければならない。


 だが、その交渉はすぐに終わる。

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