第39話 とても月がきれいですね

「「「王様、だーれだ」」」


 楽しくなってきたのか、最後はみんなで掛け声を言う。


「やった~私が王様だ~。それなら一番と二番は三番の頬にキスをする」


 最後の最後で王を引いた天音はとても声を弾ませている。


「私が三番です」


 割りばしを見たら三番だと言うことに気づいた静香は恥ずかしそうに自己申告をする。


 いくら頬でも恥ずかしいものは恥ずかしい。


「おぉ~我が一番だな」

「わ、私が二番です」


 どうやら一番と二番はメアリーと月らしく、メアリーは嬉しそうだったが月は恥ずかしがっていた。


「これは静香、両手に華だね~」


 まさかキスする二人がどっちも女の子だったことが面白いのか月はニヤニヤ笑いながら茶化してくる。


 これは王様ゲーム。


 王の言うことは絶対である。


 メアリーはなんの躊躇もなく静香の隣に座るが、月は恥ずかしいのか動きがぎこちない。

 もちろん、女の子にキスなんて一度もされたことない静香はガチガチに緊張している。


 いくら頬とはいえ、こんなにも可愛い女の子にキスされるのだ。


 ドキドキしない方がおかしい。


「キース、キース」


 天音はこの状況を面白がっているのか、コールしながら煽ってくる。


「これは、最後まで見届けないといけませんね」


 雰囲気に酔っているのか、いつもなら止める側の帆波も注視している。


 二人の顔が近い。


 吐息の音が聞こえる。


 女の子だからか、それともお風呂上がりだからだろうか、二人からはとても良い匂いがする。


「行くぞ静香」

「するよ静香ちゃん」

「う、うん」


 メアリーは余裕な声で、月と静香は緊張した声を出す。


 二人の唇が静香の両頬に当たる。


 メアリーの唇は弾力が重厚で、そして懐かしくもあった。


 一方、月の唇は瑞々しくてキスが少しあどけなく慣れていない感じだったが、それがまた良かった。


 初めて女の子にキスをされた静香は、あまりの多幸感に酔っていた。

 キスはとても気持ちが良いものだとネットには書いてあったがまさにその通りだ。

 女の子の唇はとても柔らかく、新体験だった。


「どうだった、静香」

「上手くできたかな?」

「二人とも上手だったよ。凄くドキドキしちゃった」

「「……」」


 キスの感想を求められた静香は素直に自分の気持ちを二人に伝える。


 すると、二人とも恥ずかしいのか照れているのか俯き顔を赤く染める。


 月はなんとなく予想できた反応だが、まさかメアリーも月と同じ反応するとは思っていなかった。


「静香がハーレム気分を味わえたことだし~そろそろ寝ましょうか~」


 これで終わりと言わんばかりに、天音が王様ゲームを終わらせる。


 もともと月が眠そうだからこれが最後といってやったのだ。


 その眠そうな月は、静香にキスをしたせいで目が覚めてしまったのか、今の月はあまり眠そうではなかった。




 その後、布団を引いて五人は横一列になって雑魚寝する。


 メアリーはベッドがあるものの、一人だけベッドに寝るのはなんだか仲間外れにされたようで嫌らしく、メアリーも床に布団を敷いて寝ている。


 寝る順番は右から天音、帆波、静香、メアリー、月となっている。


 今回も真ん中になる静香だった。


 いつものようにうつ伏せで寝ようとするものの、二人の女の子からキスをされたせいでまだ鼓動がドキドキしており、なかなか寝付けないでいた。


「どうした静香、寝れないのか」

「メアリーさん。なんか寝付けなくて」


 まだ起きていることに気づいたメアリーは静香に話しかける。

 静香はメアリーの方を向いて話し始める。


「みんな寝てるからベランダにでも出るか」

「そうですね」


 みんなが寝ていることを考慮し、メアリーの提案で二人はベランダに出ることにした。


「夜も寒くなくなりましたよね~」

「そうだな。過ごしやすい季節だ」


 夜風を浴びながら、春から夏へと向かっていることを実感する静香に頷くメアリー。


「それにとても月がきれいですね」

「……そうだな、今日は月がきれいだ」

「……あっ、別にそういう意味で言ったわけじゃないですよ。ただの感想です」


 マンションから見た月があまりにも綺麗だったので静香は思わず口から感想が漏れる。


 メアリーは一瞬、なにかを思い出したかのように穏やかな表情になる。

 静香は言った後で月がきれいという意味を思い出し、少し狼狽しながら訂正する。


 これではまるでメアリーに告白しているみたいではないか。


「そういう意味って夏目漱石のことか。それもあるが少し昔のことを思い出してな。それは懐かしくて感傷に浸っていただけだ」

「……それってもしかして静江さんのことですか」


 昔のことを思い出し感傷に浸っているメアリーはとても儚くて美しかった。

 なぜか分からないが、なににメアリーは思いを馳せていたのか気になった静香はメアリーに尋ねる。


「……そうだ。静江のことを思い出してな」


 あまり静香の前で静江のことを話すなと言われているメアリーは歯切れが悪い。


「前に静江さんのことを話さないでくださいと言うのは撤回します。その、静江さんとメアリーさんのこと教えてくれませんか。なんだか気になるので」


 虫の良い話だということは分かっている。


 あんなにも自分と静江のことを比べられたり、静江のことを話されるのが嫌だったのに、最近では静江とメアリーのことが気になってしまう。


「静香が気になるなら話そうか。我も静江のことを誰かと共有したいと思っていたしな」


 静江に興味を持ってもらえて嬉しかったのか、メアリーの頬が緩む。


 メアリーも誰かに静江の思い出話を話したかったらしい。


 こうしてメアリーは静江との物語を話し始めた。

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