第28話 ……男子会か……
久しぶりの銭湯は気持ちが良かった。
体の芯から温まることができ、体がポカポカする。
「銭湯には牛乳が売ってるんだな」
「お風呂あがりの牛乳って最高なんですよ」
着替えを終えたメアリーは銭湯に売っている牛乳に興味を持つ。
お風呂上がりに飲む牛乳ほど格別なものはないだろう。
「そうなのか。それなら飲んでみたいものだ。これを二ついただくよ」
月にオススメされたメアリーは小さな冷蔵庫から牛乳を取り出し、受付の方にお金を渡す。
「さすがに自分の分は自分で出しますよ」
「今日は付き合ってくれたお礼だ。飲め」
さすがに牛乳まで奢ってもらうのは気が引ける月がその分のお金を渡そうとするものの、メアリーに断られてしまった。
押しに弱い月はメアリーの勢いに呑まれて、ありがたく牛乳をもらった。
「瓶の中に牛乳が入っているとは珍しいな」
「銭湯に売ってる牛乳はほとんど瓶に入ってるんですよ。そっちの方がおいしき感じますし」
メアリーの言うとおり、確かにスーパーで売られている牛乳のほとんどが紙パックだから、瓶に入っている牛乳は珍しい。
それにこれは個人的な感覚かもしれないが、牛乳は紙パックよりも瓶の方がおいしく感じる。
「……確かに瓶の方が上手いな。温かい体に冷たい牛乳が染みわたって最高だ」
一気に牛乳を飲み干したメアリーはとても幸せそうな表情をしている。
「……うん、おいしい」
「良い飲みっぷりだな月」
体に悪いことは百も承知だがお風呂上がりの牛乳の一気飲みは最高においしい。
そんな月を見てメアリーも嬉しそうな表情を浮かべている。
メアリーと笑みを浮かべ合いながらこの時初めて、月は同性の友達も悪くないなと思った。
少し時間を遡り、放課後。
事故とは月の胸を触ってしまった罪悪感と、月の本心を知った静香は自分の気持ちが整理できずにいた。
月は異性だが、静香は月を友達だと思っていた。
全く意識していなかったと言えば嘘になるが、月が女の子ということはあまり意識していなかった。
でも月は自分だけ性別が違うことを気にし、異性であるがゆえに静香たちと距離を感じていた。
そんな月の葛藤も知らず、のうのうと生きていた自分に腹が立つ。
一日中ウジウジ悩んでいたら、いつの間にか放課後になってしまった。
何回か月からの視線を感じていたが、話しかける勇気が出なかった。
昨日まで、意識することなく月と話せていたのに今は月と同じ空間にいることさえ気まずい。
「静香~、元気ないね~、もしかして生理~」
「天音っ。もう少し言葉を選んでくださいっ」
静香を励まずために軽口を叩く天音を注意する帆波。
二人のいつも通りの会話に少しだけ心が救われる。
「私は男の娘だから生理なんてないよ」
天音のくだらなすぎる質問に静香は苦笑いをしながら答える。
馬鹿な質問をした天音はメアリーの方を向いて親指を立てなにかアピールをしている。
天音の変なアピールに気づいている静香を見ながら、メアリーは呆れながら首を横に振っている。
この三人でなにか企てていることを察した静香。
「……はぁ~、全く天音は」
苦労が絶えない帆波は頭を抱えている。
「それで静香君。君、今日は暇かい」
天音が変な上司キャラで話しかけてくる。
「……なんなのそのキャラ」
思わずツボにハマった静香はクスクス笑う。
「……あんなので笑うんですか」
なぜか帆波に引かれていた。
「別に用事とかはないよ」
「それなら~……」
「それは良かったです。いきなりで悪いんですが今日、天音の家で男子会をしませんか?」
「ちょっと~私が言おうと思ってたのに~、遮るなんてひどいよ~」
「あなたが話すとまた長くなるから遮ったんです」
基本、静香は帆波たちの用事以外ない。
静香に用事がないことを知った天音が話をしようとした瞬間、帆波が遮り話し始める。
言葉を遮られた天音は物凄く不服そうな顔をしていたが、帆波の言うとおり天音が説明するとすぐに話が脱線するので帆波の対応は正しい。
「……男子会か……」
「たまには男同士で集まり遊ぶのも良いでしょう。……月のことは大丈夫です。メアリーさんに任せてありますので」
初めての男子会に嬉しさが込み上げてくるのと同時に、月を仲間外れにする罪悪感が襲ってくる。
そんな静香の心情を察した帆波がフォローに入る。
月はメアリーがフォローしてくれるらしい。
同性だからこそ話せることもあるだろう。
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