第27話 ようやく月の本音が聞けたよ

「でも静香たちとは違う性別だから苦しいのだろう」

「……」


 メアリーに図星を突かれた月は押し黙る。


「何百年人間を見てきたが、人間という生き物は性別に固執しすぎだ。男だろうが女だろうが仲良くしたい人と仲良くすれば良いだろう」


 メアリーは本当に理解できないらしく、言葉が少し荒々しい。

 メアリーの言っていることは正しい。


 仲良くなるのに男も女も関係ない。


 でもそれは理想論だ。


 現実はそうではない。


 人間、多かれ少なかれ性別を意識する生き物だ。


 そして、自分と同じ性、つまり同性の方が親近感をわきやすい傾向になる。

 それは心理学で類似性の法則と呼ばれており、性別が同じという類似性をその人に見出しているからである。


「……そんなに簡単なことじゃないんですよ。私だって女の子なんですから静香ちゃんたちがいくら仲の良い友達でも男の娘だって意識しちゃいますよ。だってそれはしょうがないじゃないですか。いくら仲が良いと言ったって異性なんですから。意識しない方が無理です」


 高校生にとって、性別はかなり意識するものである。


 むしろ、意識しない人の方が珍しいだろう。


 特に高校生は思春期真っ盛りを迎えるため、特に異性に対して意識するようになる。


 月は女子更衣室や女子トイレで女子たちが男子の話で盛り上がっているのを何度も見ている。


 その男の娘が可愛いかとか格好良いとか、早く彼氏が欲しいとか嘆いている。


「逆にメアリ―さんは意識しないんですか」

「我はほとんど意識しないな。あっ、子孫を残したい時だけは意識するな。我は女だから男とセ〇クスしないと子供は産めないからな」

「……」


 子孫を残す時しか性別を意識しないというメアリーの発言に、月は恥ずかしさのあまりなにも言えずに顔を赤らめる。


 さすがに表現が直接的すぎではないだろうか。

 銭湯に誰もいないとはいえ、周りに聞こえる声で『セ〇クス』と言うのは隣にいる月ですら恥ずかしい。


「つまり、メアリーさんって静香ちゃんとそういうことになりたいんですかー」


 月は思わず大きな声を上げてしまった。

 静香と出会った当初、メアリーは静香のつがいになりたいと言ったらしい。

 恥ずかしさのあまり直接的な表現は避けたが、つまりメアリーは静香と子孫を残したい。


 セ〇クスがしたいということだ。

 長身でモデル並みに美しく鍛えられた身体。

 胸とお尻は大きく、腰はモデルのようにくびれている。

 妖艶で高校生には醸し出せない色気を纏っている。

 こんな人に告白されたらきっと男の娘は誰だって嬉しいだろう。

 女の月ですらメアリーの美しさには見とれてしまうのだから。


「半分正解で半分不正解だ。我が静香を、いや静江を好きになったは静江に救われたからだ。もし静江に会っていなかったら我は自暴自棄になって日本を滅ぼしていたかもしれん。我の話は今はどうでも良い。また別の機会にでも話をしよう」


 月だって女の子だ。


 恋バナは結構好きである。


 静江を好きになり、その生まれ変わりが静香だと信じ込み恋焦がれているメアリー。


 月はとても気になったが、口調的にこれ以上追及してもメアリーは話してくれないだろうと察し、その話はひとまずそのまま流した。


「少し話が脱線したが月と静香たちは女か男の前に同じ人間だろ。月が性別を意識するのはしょうがないことだとしても、それを理由に静香たちと疎遠になるのはもったいなくはないか。月だって静香たちのことが好きなんだろう。好きなら一緒にいるのが良い。死んだらもう二度と一緒にはいられないんだからな」


 男だの女だの意識しすぎて疎遠になる。そんなのは絶対に嫌だ。

 だって静香たちは初めてできた友達なのだ。


 失いたくない。


 静香たちがいてくれたおかげで、高校は毎日が楽しい。


 月は友達といることの幸せを知った。


 だから、もう二度とあのボッチの頃には戻れない。


「……うん、静香ちゃんたちと一緒にいたい。一人で過ごすのはもう嫌だ。私も静香ちゃんたちと一緒に高校生活の思い出を作りたい」

「よく言った月。ようやく月の本音が聞けたよ」


 月はため込んでいた感情を吐き出す。


 それを待っていたかのようにメアリーは月のことを正面から抱きしめる。


 メアリーの胸に月の顔がうずまる。


 月の胸はまるでマシュマロのように柔らかく気持ちが良かった。


 月を抱きしめるメアリーの声はまるで聖母のように慈愛に満ち溢れていた。

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