第29話 人を殺しちゃ、メっ、だよ。メっ
「ほらほら静香~、男子会やるから溜まってるもの全部吐き出しちゃいなさいよ~。でも精〇は出しちゃダメだぞ~……いてっ」
ニヤニヤしながら下ネタを言う天音を帆波は無言で叩いた。
これは天音が百パーセント悪い。同情の余地なし。
「いきなり叩くことないじゃん」
「……もうどこからツッコめば」
「私にツッコンじゃダメだからね、キャハ」
「静香、この人殺しちゃダメですか。やはり人間には生きていてはいけない人もいると思うんです」
いきなり叩かれたことに抗議する天音に頭を抱えている帆波。
そして叩かれたことに凝りていない天音はさらに下ネタを言う。
いつも通り馬鹿な天音に呆れるのと同時に、そのいつも通り変わらない天音を見て安心している自分がいた。
「少し落ち着こう帆波ちゃん。人殺しだけは絶対にやっちゃダメだよ」
馬鹿すぎる天音を相手して錯乱している帆波を落ち着かせようとする静香。
どんな事情があっても人を殺すことは許されないことだ。
「そうだよ帆波。人を殺しちゃ、メっ、だよ。メっ」
静香に正論を言われた帆波をさらに茶化す天音。
完全におちょくっている。
「……怒りを抑えるのですよ帆波。もっと大人になるのです」
帆波の体が小刻みに震えている。
これは怒りだ。爆発しそうな怒りを体を震えることによって抑えているのだろう。
天音がからかい、それを注意したり我慢する帆波。
いつも通りの光景。
そのいつも通りの光景がなぜか心に染み、自然と静香から笑みがこぼれた。
その後、三人は天音の家へと向かった。
今日は男子会をするので、帰り道にあるコンビニでお菓子やアイスや飲み物を買って下校する。
「天音ちゃんってもう一人暮らししてるんだよねー。寂しくなったり不安とかないの?」
「ぜんぜーん。もう慣れたし~」
実家暮らしをしている静香からすると、高校生でもう一人暮らしをしている天音は大人っぽく尊敬に値する。
例え、お金があったとしても静香なら不安だし、寂しい。
「一人暮らししている点だけは素直に凄いと思います」
帆波も一人暮らしをしている点は尊敬しているらしい。
「狭いところですが、ゆっくり休んでいってね~」
アパートにつき、天音は鍵を開け二人を中に入れる。
まず玄関がありその先に細長い廊下があり、奥にワンルームがある。
広さも八畳のフローリングで狭くもなく広くもない普通の広さだ。
その後、夕飯を食べ順番にお風呂に入る。
時刻は八時。
「良い湯でした」
最後にお風呂に入って来た帆波が出てきた。
お風呂上がりということもあり、髪の毛もドライヤーで乾かしたとはいえまだ湿っている。
それは静香も天音も同じである。
お風呂上がりということもあり帆波の体は上気しており、トリートメントやボディーソープの匂いが漂ってくる。
小さなローテーブルの上には、コンビニで買ってきたスナック菓子やチョコ菓子、飲み物などが置かれている。
男子会の準備は万端である。
「なんか普通の平日の夜なのに友達といるとなんだかワクワクするよね~」
二人のパジャマ姿を見ながら天音は話す。
なにもない夜に友達と集まっていると、まるで修学旅行の夜みたいに非日常的で気分が高揚する。
ちなみに静香は緑を基調としたスウェットを着ており、天音は白と水色とピンクがグラデーションのように混ざり合ったようなモコモコのパジャマを着ている。
見た目と反して……いや見た目通りだが中身に反して天音はガーリーなパジャマだった。
帆波はピンクを基調としたオフショルダーのパジャマだった。
むき出しの肩がエロい。
いつもはお堅い帆波もプライベートの服装は、思いっきりファッションを楽しんでいた。
「帆波ってパジャマ姿は全然真面目じゃないんだね~」
「別にパジャマは良いじゃないですか。こういうのが好きなんですから」
「別に悪いって言ったわけじゃないよ~。ただ意外だったから~」
天音にからかわれたと思った帆波がムスッとした表情を浮かべながら唇を尖らせる。
天音もからかっていないのにからかわれたと勘違いされたことが嫌だったのか間延びした声でやんわりと誤解を解く。
「二人のパジャマ可愛いな~。私も今度買おうかな~」
「買っちゃえ買っちゃえ。絶対楽しいから~」
二人の可愛いパジャマ姿を見て、静香も可愛いパジャマが欲しくなった。
今まで寝巻なんて着れれば良いと思っていたが、オシャレな二人を見て少し考えが変わった。
天音も静香の背中を後押ししている。
「静香は可愛いからなにを着ても似合うと思いますよ」
「えへへ、そうかな~。帆波ちゃんも可愛いからとても似合ってるよ」
「……そ、そうですか。ありがとうございます」
静香にも背中を押された静香は恥ずかしさと嬉しさのあまり笑みをこぼす。
静香に褒められた帆波も満更でもなかったのか、俯きながらはにかんでいる。
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