第18話 人じゃないだろお前は
「メアリ―さんは部活をしたいのですか?」
突然部活の話をしてきたメアリーに対し、帆波がそう思うのは不思議なことではないだろう。
「別にそういうわけではないのだが、少し興味があってな。体育の授業後、なぜか部活勧誘が頻繁に行われてな。勧誘されているうちに少しだけ興味がわいたのだ。だからもし部活に入るなら静香たちと同じ部活に入ろうと思っていたのだが、入っていないなら別に入らなくても良いかなと今は思っている」
そういえば先日までメアリーへの部活動勧誘が凄かったことは覚えている。
バレー部やバスケ部、バトミントン部、サッカー部、卓球部と上げればキリがないほど部活からメアリーは勧誘をされていた。
当時は部活というものを知らなかったため、ずっとメアリーは首を捻っていたが、その後インターネットで部活のことを調べたらしい。
体育の授業でも見たが、メアリーの運動神経はずば抜けていた。
メアリーを欲しがるのも無理はない。
それからメアリーは部活というものに興味を持ち、静香たちも部活に入っているなら同じ部活に入ることを画策していたらしいが、残念ながら静香たちは誰も部活には入っていない。
「そう言えばいきなりメアリーさんの勧誘がなくなりましたよね。どうやって追い払ったんですか」
今まであんなに激しかった勧誘がある日を境にピタリとなくなった。
一体どんな方法を使ったのか全く予想がつかない静香は疑問を口にする。
「それはなんだ。……断り続けたから諦めてくれたのだろう」
いつもはハキハキ話すメアリーだったが、今回は歯切れが悪い。
こういう時、メアリーはいつも嘘をついている。
「それ嘘ですよね。メアリーさんって嘘を吐くときいつも歯切れが悪くなりますよね。昔から変わらないですよね。バレバレです」
「……っ」
「昔からってどういう意味ですか静香。まるで前からメアリーさんを知っているみたいじゃないですか」
「……あれ、なんでそう思ったんだろう?」
メアリーが息を呑み、帆波は訝しそうに静香を見る。
帆波に指摘された静香は自分がどうしてそんなことを思ったのか分からず困惑する。
どうして、メアリーは嘘を吐くとき歯切れが悪くなると知っているのだろう。
「……しず……いや、もうその話はしないと約束したではないか」
メアリーは一人葛藤していたが、困惑していた静香は気づかなかった。
その様子を天音はニヤニヤしながら観察しており、状況についていけない月はキョロキョロして他の人の反応を待っている。
「メアリーのために部活見学しよう~。部活見学はただだから行ってみない?」
「そうだな。みんなで部活見学でもしないか?」
話題をそらすために天音は無理矢理話を断ち切る。
天音から助け舟を出されたメアリーはその流れに乗る。
特に反対する理由もなかったため、静香たちは部活見学へと向かった。
「大丈夫月ちゃん。さっきから元気がないように見えるけど」
「えっ、……ううん、別に大丈夫だよ」
「それなら良いんだけど、具合悪かったら無理しなくても良いからね」
廊下を歩きながら静香は月に話しかける。
さっきから月の口数が少なく、元気もないように見える。
月の体調不良を疑った静香だったが、本人に否定されてしまった。
本人に否定されてしまった以上、これ以上の追及は野暮だろう。
「ありがとう、静香ちゃん」
静香に心配された月はお礼を言う。
「もしかして生理じゃないの~。女の子って生理になるとホルモンバランスが崩れて体調が優れないって聞くし~」
「天音っ。デリカシーがなさすぎです」
「だって本当のことじゃ~ん」
静香たちの前を歩いている天音がデリカシーのないことを言い、帆波に怒られる。
天音は納得していないのか、口をとがらせている。
「別に生理じゃないよ」
「月も答えなくて良いですから」
別に恥ずかしいことだと思っていない月は首を捻りながらカミングアウトをし、帆波がツッコむ。
「月も体調が悪いならすぐに言ってくださいね。私たちの間で遠慮はなしですよ」
「う、うん。分かった。ありがとう」
帆波も月の口数が少ないことを心配しているらしく、月に気を遣う。
そんな帆波の気遣いに月は俯きながらお礼を言う。
「もしかしてメアリーがいるから口数が少ないんじゃないの。だって月ってだいの人見知りだし」
「我が悪いのかっ。別に我は月を仲間外れにした覚えはないぞ」
天音の冗談に、本気で弁明するメアリー。
天音の上段が潤滑油になり、月も少し笑みが戻る。
「そんなことないから。大丈夫ですからねメアリーさん」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。本当に天音はゴミだな」
「ちょっと~、いきなり人のことをゴミって言うなんてひどくな~い」
「人じゃないだろお前は」
「まさかの人間否定っ。さすがの天音ちゃんもショックのあまり涙で枕を濡らしちゃうよ」
真に受けているメアリーをフォローする月。
その言葉で安堵し、メアリーは天音に罵倒を返す。
最終的に人間を否定された天音は、誰が見てもわざとらしくショックを受ける。
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