第9話 ……あはは……それは勝手に人間たちが作ったイメージなんだけどな……
「「「ごちそうさまでした」」」
「別にこれぐらい大したことはないさ。今日は我のために付き合ってくれてありがとう。これはそのお礼さ」
メアリーに奢ってもらい、静香たちは店の外に出る。
いろいろと吹っ切れたおかげか奢った方のメアリーの方が清々しい表情をしている。
「メアリー、ちょっと良い?」
「どうした天音」
「ちょっと耳貸して」
天音はメアリーに用事があるらしく、耳元でなにか話している。
静香たちには聞かれたくない内容を話しているのだろうか。
天音と話している時、一瞬強張った表情を浮かべたのは気のせいだろうか。
「良かったですね静香。誤解も解けたのでこれ以上付きまとわられることはないですよ」
「そうだね。付き合ってくれてありがとう、帆波ちゃん、月ちゃん」
「これぐらい大したことありません」
「問題解決できて良かったね、静香ちゃん」
帆波の言うとおりメアリーの誤解が解けた以上、メアリ―には付きまとわられることもないし、本人もしないと約束をしてくれた。
そこまで事を進めることができたのは三人のおかげである。
自分一人ではきっと、メアリーから逃げ回ることしかできなかっただろう。
改めて帆波と月にお礼を言うと、二人とも特段、気にしてはいなかった。
「分かった。約束しよう」
「ありがとう~」
メアリーと天音も話が終わったようで、こちらに戻ってくる。
「今日はありがとう。静香たちと話せて楽しかった。それじゃー」
静香が静江の生まれ変わりではない以上、メアリーがこの集団と一緒にいる意味はない。
メアリーは軽く手を上げ、静香たちと別れる。
少しずつ遠くに行くメアリーの背中はとても小さく、哀愁が漂っていた。
「それじゃー私たちも帰りますか」
メアリーと別れた以上、静香たちもここにとどまる理由はない。
静香たちも帰路につく。
「「「「……」」」」
メアリーと別れた後は、静香も含め四人全員が無言で歩く。
別に悪いことをしたわけでも、悲しいことがあったわけでもないのに若干空気が重い。
「いや~、ただでフライドポテトとか食べられるなんてサイコーな一日だったな~」
「ホント天音はがめついですね」
「いや~照れるな~」
「褒めてません」
空気が重いことを察したのか、それとも能天気なだけなのか分からないが天音は軽口をたたき、帆波はそれにツッコむ。
そんないつも通りのやり取りを見た静香と月は、頬を緩ませる。
天音の軽口のおかげで空気が軽くなった。
「でも見つかると良いな。メアリ―さんの思い人。生まれ変わりとかは百パーセント信じているわけじゃないけど、三百年も待ち続けているなら出会ってまた結ばれてほしいな~」
「思い人を待っているのは嘘ではないと思いますが、さすがに三百年は誇張しすぎたと思います。それにいい年にもなってまだ中二病が抜けていないんですかね。自分のこと吸血鬼と自己紹介するなんて。そこは頭がおかしいと思いますけどね」
心がピュアな月は、メアリーの言ったことをなに一つ疑問に持たず、メアリ―の約束が叶うことを夢見ている。
逆にリアリストの帆波はあまりメアリーのことを信じておらず、メアリーのことを疑っていた。
帆波の言うとおり、この世に吸血鬼なんているわけないし、人間、三百年ものの間生きていることなんてできない。
なんであんな嘘を静香に言ったのか、静香は理解できなかった。
「もしかしたら本当に吸血鬼はいるかもしれないよ~。ほら、ここにとか」
「はいはい、とても小さくて可愛らしい吸血鬼さんですね」
「それ絶対信じていないよね。適当にあしらってるだけだよね。いつか帆波にギャフンって言わせてやるだから~」
「はいはい、期待してます」
メアリーに感化された天音は自分のことを吸血鬼だと軽口を叩く。
そんな冗談、真に受けるわけもなく帆波は軽く受け流す。
それが気に食わなかった天音は抗議するが、それすらも帆波は受け流す。
本当に天音は冗談を言うのが好きな男の娘である。
「メアリーさんは吸血鬼って言ってたけど、確か吸血鬼って太陽の光ってダメだよね」
「そうだよね。メアリーさんって普通に太陽の下歩いていたし」
「それに鏡ではないですが、ガラスにもちゃんとメアリーさんの姿は反射してましたし。きっと吸血鬼はあの人のジョークでしょう」
吸血鬼の特徴として日光が苦手とか鏡には写らないとかがある。
他にもニンニクや十字架が苦手とか流水を渡れないとかがある。
そう思うとメアリーは、一般的に伝承されている吸血鬼の特徴とはかなりかけ離れている。
静香が思い出したかのように呟くと、月と帆波も同調する。
「……あはは……それは勝手に人間たちが作ったイメージなんだけどな……」
三人の話を聞いていた天音は一人、苦笑いを浮かべていたが静香たちは気づいていなかった。
「まっ、メアリーさんが吸血鬼でも人間でももう問題は解決したのですから関係ありません。もう遅いですし早く家に帰りましょう」
帆波の言うとおり、メアリーが吸血鬼だろうが人間だろうが、もうメアリーと関わり合うことはないだろう。
それにもう夜の七時を過ぎている。
あまり夜遅くまで徘徊していると補導されてしまう。
それは面倒なので嫌だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます