第5話 こんなのは残酷すぎないか

「二年後は大人か……。大人になっても四人でいたいよね」

「う、うん。私もみんなとずっといたい」

「私も私も。みんなとずっと友達でいたい」

「……わ、私もみんなと同じ気持ちです」


 大人になってもこの四人でずっといたいというのは静香の我がままではなかったようだ。


 月も天音も帆波も、みんな同じ気持ちだった。


 それがとても嬉しかった。


 もし、高校を卒業して進路がバラバラになってもたまには四人で遊びに行きたいし、そもそもバラバラになる未来なんて想像できない。


「なに恥ずかしがってるの~、帆波。照れてる帆波も可愛いよ」

「ばっ……。なにを馬鹿なことを言ってるのですか天音は。からかうのもいい加減にしてください」


 いつものように帆波をからかい、帆波に怒られている天音。


 それを傍からクスクス笑いながら見守る静香と月。


 この三人と一緒にいる時が人生で一番楽しい。


 だから、静香は忘れていた。


 吸血鬼女こと、メアリ―の存在を。


 その後、四人で昇降口まで降り靴を履き替え、校門へと向かう。


「見て、校門前に派手な女性がいるよ」

「……ゲッ」

「おぉ~、凄く大きい。身長もおっぱいも」

「セクハラですよ天音。お、おっぱいが大きいと言うなんて」

「だってあれはビックリするほど大きなおっぱいだよ。私が女の子だったら真っ先に揉みに行ってるね」


 最初に気づいたのは月だった。


 それにつられて校門前を見ると、今朝静香のことを静江だと勘違いしてナンパして来たメアリ―が佇んでいた。


 メアリ―の美しさと派手な真っ赤な赤いドレスを着ているせいで、校門前を通過する生徒は誰しもがメアリ―に視線を奪われながら通り過ぎる。

 メアリ―に会いたくなかった静香は思わず苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


 天音が思いっきりセクハラ発言をし、それを帆波が注意する。

 静香もあのおっぱいには色気を感じるが、メアリ―がヤバい女だと知っているので全く色気も性欲も感じない。


「……綺麗だな……」


 同じ女の子として羨ましいのか、月は羨望の眼差しでメアリーを見つめている。


「どうしたの~静香。もしかして、知り合い?」

「べ、別に。全然知り合いじゃないよ」


 静香の異変に天音は目敏く気づく。


 いつもはなにも考えていないような顔をしているのに、こういう時だけは異様に聡い。


 静香はメアリ―と赤の他人を装うものの目が泳いでしまう。


「今朝静香が話した人にずいぶん似てますね。もしかしてあの人ですか」


 真面目で頭の良い帆波は校門前に経っている女性が今朝静香が話した変質者だということに気づく。


「まぁ……うん」


 認めたくはないが事実なので歯切れは悪いが肯定する。


「だからあんな嫌そうな顔をしたんだね~。納得納得」


 天音はウンウンと頷き納得する。


「帆波ちゃん、天音ちゃん、月ちゃん。バレたくないから後ろに隠れさせて」

「もちろん、良いですよ」

「当たり前だよ」

「静香ちゃんのお願いだもん。大丈夫だよ」


 メアリ―とこれ以上関わりたくなかった静香は三人に強力を申し出る。

 もちろん、三人とも嫌な顔一つせず了承する。

 帆波たち三人が静香がメアリ―から見えないように壁を作り、突破を試みる。

 ちなみに静香たちが通う高校は、ここの正門しか出入りができないため、裏門から帰ることはできない。


「やぁ、静香。待っていたよ。今朝はいきなり驚かせてすまなかった。我も少し焦りすぎていたようだ。三百年ぶりに君に会えたんだ。我はどれほどこの日を待ち望んでいたことか。すまない、我の話ばかりしてしまったな。もう学校は終わりだろ。これからゆっくり我と話をしないか。そして少しずつ我を知ってほしいし、我も静香を知りたい」


 静香たちがメアリ―の前を通った瞬間、一瞬でメアリ―にバレてしまった。


 メアリ―は今朝のことを反省しているらしく、今朝の傲慢さは少し薄れていた。


「あなたが静香とどういう関係か分かりませんが、静香はあなたに怯えています。お引き取りください」

「……そうだ~そうだ~」


 真面目で正義感の強い帆波は臆することなくメアリ―に注意をし、天音も小声で抗議する。


「我と静香はつがいなんだ。静香は生まれ変わっているせいで我との記憶はないから混乱しているだけかもしれないが、我にとって静香は大切な人なんだ」


「生まれ変わりって……妄想も大概にしていただけませんかっ。あなたも良い大人なんですから現実と妄想の区別は付けてください」




 メアリ―は朝、会った時と変わらずに静香を静江の生まれ変わりだと主張する。

 現実と妄想の区別が付いていないメアリ―にかなりイライラしたらしく、帆波の怒りが爆発する。


「……せっかく静江に会えたのに……。こんなのは残酷すぎないか」


 全く傷ついていないように見えたメアリ―も何度も拒否られたせいで、かなり精神的にこたえているのか辛そうな表情を浮かべている。


 静香にはメアリ―の記憶なんて一切ない。


 でも、メアリ―の困った表情を見た瞬間、なぜか胸が苦しくなった。

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