第4話 ……子供ですか……
「汗かいてるなら早く拭いて来た方が良いと思うよ。冷えたら風邪引いちゃうかもしれないし」
「そうだね。ちょっと更衣室に行って汗拭いてくるね」
「私が拭いてあげようか? 静香」
「汗ぐらい自分で拭けるから大丈夫だよ」
「あらら~、振られちゃった~」
「なに馬鹿なことを言ってるんですか天音は」
「……そっか、三人は男の娘だからずっと一緒にいられるけど、私は女の子だからな~……」
月に体が冷えて風邪を引かないか心配された静香は、汗を拭きに行くために一度教室を出る。
天音にからかわれた静香は軽く受け流し、帆波に怒られている。
もちろん、マイペースな天音は全く反省をしていない。
月がなにか呟いていたが、声が小さすぎてなにを言っていたのか静香は聞こえなかった。
その後、更衣室で汗をしっかり拭き、念のために持ち歩いている新品の下着に着替え授業を受けた。
シャワーを浴びれなかったのは残念だったが、それでも新品の下着に変えたことで汗の不快感はかなり軽減され、汗で濡れた下着を来ている時とは比べ物にならないぐらい過ごしやすかった。
その後、放課後になるまであの吸血鬼女が現れることはなかった。
メアリ―のことだから、すぐに静香の居場所を嗅ぎつけてやってくると身構えていた静香の心配は杞憂に終わった。
「あぁ~、やっと学校が終わった~」
勉強嫌いな天音は開放感よりも疲労感の方が強いらしく、くたびれていた。
「勉強嫌い」
「学生の本分は勉学です。勉強しないと良い大人にはなれませんよ」
「ぶーぶー、別に勉強できなくても良い大人にはなれますよーだ」
「……子供ですか……」
静香の席の近くに来て文句を言う天音に真面目な帆波が苦言を呈する。
それに子供のように文句を言い、天音は頬を膨らませる。
あまりにも子供じみた言動に帆波は頭を抱えた。
「勉強するのは大事だけど、勉強すれば良い大人になれるのかな……」
勉強は大事だと思う。
でも大事なのは勉強だけではないと静香は考えている。
友達とこうして遊ぶ何気ない日常や、部活、恋も勉強と同じぐらい大事だと静香は思う。
今しかできないことだってたくさんある。
それに静香だって年頃の高校生だ。
恋に興味がないわけではない。
むしろ、恋に興味があり、叶うなら彼女を作ってデートしたりイチャイチャしてみたいとも思っている。
「それは私もそう思う。勉強すれば良い大人になれるとは思わないな……。べ、別に帆波ちゃんの言っていることが間違っているというわけではないからね」
「それは分かってますよ、月」
「それに先生たちはもう進路の話しているけど、まだ実感がわかないというか……、だってまだ高校二年生になったばかりだし、いきなり大学のことを言われても、全然自分が大学生になっている未来とか想像できないし」
帆波のことを否定をして傷つけないように月は気を遣う。
帆波もそれが分かっているからこそ、特に気にしている様子はしていなかった。
高校二年生になると、よく先生たちから進路のことを聞かれるようになる。
まだ四月。
まだ高校生活も二年ぐらい残っているのに、もう大学進学のことを説明される。
月の言う通り、自分たちが二年後、大学生になっている姿なんてまだ想像できない。
「大学生といえば、やっぱりキャンパスライフだよね~。私服での登校やサークルとかも楽しそう~」
「その前に受験に合格しないと大学生にはなれませんよ」
「なんとかなるでしょ」
「……はぁ~、あなたのその楽観的な思考は羨ましいものです」
「やだっ、褒められたっ」
「褒めてませんから。それでよく褒められていると思いましたね」
キャンパスライフに夢見ている天音に現実を突きつける帆波。
帆波に言う通り、キャンパスライフを送るためには大学に合格しなければならない。
しかし、天音はよほど自信があるのかそれとも受験を舐めているのかかなり楽観的だった。
きっと後者だと静香は思う。
二人のじゃれ合いを見ていると、面白くて安心してしまうのはきっとこの二人に毒されたからだろう。
「良い大人になる前に大人になること自体まだ想像できないよね」
「そうだね。私たち、まだ高校生で子供だし、自分が大人になる想像すらできないよ」
「というか十八歳になったら大人なんですから、高校生のうちどんどんみんな大人になるんですよ」
あと二年後には静香たちも十八歳を迎え大人の仲間入りを果たす。
「高校生で大人かっ。高校生なのに大人って不思議だよね」
「天音の気持ちは分かります。来年には続々同級生が大人になっていくのかと想像すると不思議な気持ちです」
高校生なのに大人。
つまり、今の高校三年生は次々と大人になっていく。
それは静香も他人事ではなくて、来年静香たちも順に大人になっていく。
天音や帆波の言うとおり、なんだが不思議な感覚だ。
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