第6話 可愛い最強さん

「まぁーまぁー立ち話もあれだから~ファミレスに行って少し話さない? もしかしたら、静香が前世の記憶を思い出すかもしれないし、メアリ―の勘違いということも分かるかもしれないしね~」


 静香の異変に目敏く気づいた天音はとんでもない提案をする。


「なにを馬鹿なこと言ってるんですかー。見ず知らずの人といきなりお茶するなんて危険すぎます」

「まぁーまぁー大丈夫だよ帆波。いざとなれば私がみんなを守るから~。シュッシュッ」


 あまりにも危険すぎる提案に帆波は間髪入れずに天音に噛みつく。

 噛みつかれた天音はいつも通りのほほんとした表情を浮かべながら、みんなを守るアピールのためその場でシャドウボクシングを始める。


 でもそのパンチはあまりにもフニャフニャで頼りがいはなかったが、天音なりの気遣いが伝わって来て嬉しかった。


「静香と話ができるのは我としても好都合だ。我は良い」


 そんなに静香と話したいのか、苦悶の表情が一変してメアリ―は嬉しそうな表情を浮かべている。


「……分かった、私も良いよ。ただしこれでメアリ―さんの勘違いだということが分かったらもう二度と関わらないでほしいです。迷惑だから」


 本当はあまりメアリ―とは話したくはないのだがいつまでもつき纏わられる方がもっと嫌である。


 それに今回は朝の時と違ってみんながいる。


 その分、心強い。


「……分かった。約束をしよう」


 そう言うメアリーは渋い表情を浮かべていた。

 メアリ―からすれば静香と二度と話せないのは死活問題らしい。


「静香がそれで良いなら私からはなにも言うことがありません。しかし、友達として心配ですので私もついて行って良いですか?」

「もちろんだ。静香の友達の話を聞けるのは我にとっても好都合だからな」


 帆波は静香の気持ちを尊重する。


 しかし、静香とメアリーだけで話をさせるのは心配らしく自分もついていくことを明言する。


 メアリーは嫌がるどころか静香の友達からも話が聞けることが嬉しいのか声が弾んでいる。


「それで月はどうする?」


 メアリ―に会ってから一度も口を開いていなかった月に天音が話しかける。


 その瞬間、全員の視線が月に集まる。


 人見知りが激しい月は一気に注目を浴びたことにより、慌てふためきながらも自分の意見を言葉にする。


「……わ、私も行きます。静香ちゃんが心配だから」


 月も静香のことが本当に心配だったらしく、静香の腕を抱いて静香を守るアピールをする。


 月もメアリーのことが怖いのか、腕から月の体温と震えが伝わってくる。


 この時静香は、自分が良い友達に恵まれたことを実感し、嬉しくなった。


「……ってごめん。いきなり抱き着いちゃって。私、すごく破廉恥」

「ううん大丈夫だよ。ありがとう月ちゃん。心配してくれて」


 いきなり抱き着いてしまったことを謝罪する月。

 静香は別になにも気にしてないし、人見知りの月が勇気を振り絞って守ってくれて嬉しかった。


「それじゃー決まりだね~。大丈夫、私最強だから、メアリーが暴れても私がみんなを守ってあげる。シュッシュッ」

「我も貴様とは戦いたくはないな。骨が折れそうだ」


 フニャフニャパンチをしながら天音は中二病みたいな発言をする。

 全然最強には見えないが天音の中では自分が最強らしい。


 可愛い最強さんである。


 そんな中二病の発言にメアリ―も乗ってくれたことが意外過ぎて、静香は驚いた。


「それじゃー最強の天音に守ってもらうことにしましょうか」

「なによー、その言い方絶対信じてないなー帆波。私は最強なんだぞー」

「はいはい、最強ですね」


 帆波的にはかなりツボったらしく、自称最強の天音を面白がっていじる。

 自分のことを最強だと信じている天音からすれば不服らしく、最強アピールを行うがそれが面白いらしく帆波は小さな子をあやすように宥める。


 その後、五人は当初の目的を思い出し、ファミレスへと移動した。




 まだ夕食を食べるのには早い時間。


 そのため、学校終わりでお腹を空かせている学生たちがたくさんいた。


 店員にメアリーが人数を伝えた後、席へと案内される。


 ドリンクバーや揚げ物の匂いが鼻腔をくすぐり、食欲がそそられる。


「メアリーは奥に座って私が横に座るね。防犯のために」

「静香と話せるなら別にそれでもかまわない」


 メアリーから静香の安全を守るべく、天音は静香をメアリーから遠ざける。

 静香と話せるなら少し距離が遠くても問題ないらしく、メアリ―も了承する。


 その後静香たちも、奥から帆波、静香、月の順で座る。


「……どうしました? そんなにも私と静江さんは似てますか」

「そうだな。凄く似ているよ。まるで一卵性の双子のようにな」


 ずっと視線を向けられていたので、静香がメアリ―に声をかけると、メアリーは本当に嬉しそうに話す。


 その様子はまるで久しぶりに母親に会えた子供のように慈しみに満ち溢れていた。


 そんなに静江に似ていると言われると、その静江のことが少しだけ気になってしまう自分がいる。

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