第16話
「始めに翔の方だが、一発目、自分の利点を生かした突進は良かったぞ。そのつぎの輝政の受けだが、天河流の技か?あの動きで攻撃を受け流せたのはすごかったぞ」
「ありがとうございます。あれは天河流ですね」
「やっぱりそうか。つかいこなせているようだ。ただ、民が沢山いる前では自らが受け止めなければならない時もあるから次は受けを見せてくれ」
「はい」
「翔の方だがあの受け流しの後の前に飛び込んだのは良かったぞ。あの場面でたたらを踏むと次撃の的に為る。背中側に気を少しではあるがとっさに集めて防御に入ったのも評価できる」
「ありがとうございます」
「それで次だが、少し厳しく言うぞ。輝政。回転するのはいいが、足を閉じるな。少し開いておけ。でないと次に動くのが少し遅くなる。その‘少し’が被害に直結する。あとわかってるかもしれないが、回転するときは常に相手と自分の居場所を把握しておけ。それと翔。刀への気の通し方が少し下手だな?粗いから気を練る訓練を積んでもらおうか。身体への気の通し方についても同じだ。後受けるときに刀に添える左手が切っ先側に寄りすぎている。強い衝撃が加わったときに居れるかもしれないからもう少し真ん中側に寄せるとがいい。」
「はい… テル、一緒にやろうぜ」
「おう」
「ついでに言っておくと輝政は胴が、翔は足元ががら空きだ」
「……気を付けます」
「図星だな。まぁ金烏隊全体で立ち会い稽古とか苦手の克服とかはサポートするからあまり気にしなくてもいい。今日の立ち会いはそのためのものでもあるからさ」
「そうなんですか。助言をもらえるのは嬉しいですね。なぁ、翔」
「あぁ、自分だけじゃ気づかない部分も多いからな~」
「じゃあもう一回行くぞ。次は一方が俺を守るように立ち回れ」
「はい」
「いや~疲れた!」
「腕いたい」
その後三時間以上拘束されて立ち会い稽古をした俺たちは疲労困憊で飯を食っていた。この後直ぐに夜半すぎまでの巡回があるためあまりゆっくりとはしていられないのだが、かなり疲れていたので箸を動かす速度も遅い。
「にしても強かったな~」
「だな~」
「東良さんと俺たちじゃ一撃一撃の重さが違うんだよなぁ」
「俺たちはガッ! あの人はゴッ!! って感じだな。動きがコンパクトで素早い」
「ちょっと俺らは大振り過ぎるのかもな」
「かもな」
「今週の土日が朝以外が空いてるから鍛練しようぜ」
「わかった。後ついでに俺の気の五芒星を見てもらってもいいか?」
「いいぜ。その代わり〈天河流〉を見せてくれ」
「おう」
「ふぅー、食った食った。じゃあ行くか」
「そうだな」
二人でごちそうさまをして、食器を返してから部屋に戻り鎧を身に付ける。ドアを空けて外へ出ると、白川さんとばったり出会った。
「おう、輝政か。これから任務か。頑張れよ」
「はい。白川さんは終わりですか」
「あぁ。朝昼と働いたから今日はゆっくり寝るよ」
「そうですか、お疲れ様です。では行ってきます」
「あぁ、気を付けてな。最近は魔物が強くなってきているから」
白川さんに手を振りながら別れる。…熟練の騎士でも強いと感じるほどか。いつまで生き残れるか分からなくなってきたな。こりゃあ防御から直しに行った方がいいかもな。
星龍騎士団金烏隊駐屯地正門に行く。翔は既に着替えていたようで、これから正門の前で気を練って身体中に回しているところだった。いわゆる準備体操みたいなもんだ。気を練ることで集中力を高め、それを身体に通すことで、身体に気が通りやすくなるようにほぐしていく。
「待たせた」
「先に始めたぜ」
「構わない。直ぐに終わる」
そういって俺も気を練り、それを身体に通していく。
「テルのは通りやすそうな気だな」
と翔。
「細く細かく練るのは得意なんだよ」
と俺。それから三分ほど無言の時間が続く。翔は既に全身に軽く気を巡らせて準備を完了させていた。俺も巡らせていた気を放出して体の周囲を渦巻かせるようにして昇華してから、最後に気をスッと練り、身体に通して立ち上がる。
「待たせた」
「大丈夫だ。騎士になって七年間たつまでは義務付けられているからな」
騎士としての一人前は五年、そこからさらに二年とって、七年だ。
「7時前か。じゃあ行くか」
「おう。また後でな」
そういって俺たちは別れ、持ち場へと駆けていく。
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