第15話
次の日、朝から巡回が入っていたので街で昼飯を済ませて鍛練場に向かう。次の巡回が夜なので昼は自由だ。なかに入ると東良さんと…翔がいた。
「よう!」
「翔?」
「今日は翔と二人でやりあってもらう。輝政と翔の力を見るのを含めての稽古だ。俺はお前たちの防御に回るから遠慮なく振ってくれ」
「戦闘能力を図るということっすね」
「そうだ。後で隊長に報告もする。全力でやれ」
「はい」
「わかりました」
「じゃあ防具を着けてこい」
防具を身に付け木刀を腰に差して再び戻ってくる。鉢金、大袖、籠手、胸当て、脛当をつける本格的な立ち会い稽古だ。適度に離れて立つ。鞘に納められて腰に差されている木刀の柄に手を掛ける。俺が標準的な大きさの木刀なのに対して、翔は反りが深めで一般的なものより少しだけ短めのものだ。しかも少し刀身が細目でもある。速さに特化しているのか?となると……いや、まあいい。柄に手を掛けたまま、少しずつ前傾姿勢になる。相対する二人の呼吸があったそのとき、お互いに前に突進する。翔が選んだのは〈時雨虹流:吹き下ろし〉 上段からの振り下ろしだ。さすがだ。速い。そして速さを殺さないよう、振りかぶるのは最小限にしている。一方俺が選んだのは構えからわかる通り、居合だ。〈時雨虹流:閃光〉 強い踏み込みからの素早い抜刀。傷をつけることを目的としたこの技はとにかく速さが売り。翔もそれをわかっているので、腕と一緒に上半身を振り下ろすように曲げ、速度を上げる。交錯 翔の顔が目に映る。その顔には驚愕の表情。驚くのも無理はない。なにせ武器同士を衝突させたときの衝撃がほとんどなかったからだ。俺の視界の端で翔の木刀が俺の木刀の刀身を伝うようにして滑り落ちる。ガッ!!という音が耳に飛び込んでくる。止まらずに俺はその場でくるりと回転してその勢いで振るう刀に勢いをつける。木刀の刀身が翔の体をとらえーーーーなかった。刃先がわずかに背中に届かずに宙を切る。翔は刀を受けられた後、俺が回転する前に突進の勢いをそのままに背中側に飛び込んだのだ。そのまま翔はゴロゴロと床を少しばかり転がる。一方の俺も木刀を受けるときに完全に止まっていたのでこの好機に動くことは出来なかった。 一瞬の静寂、次は俺の方が少しばかり速かった。体全体に気を張り巡らせて身体を強化し、飛び出す。木刀を上に持ち上げながら気を刀にも注ぎ込む。一方の翔は俺の動きを見ると、身体を低めにとり、防御姿勢にはいる 。気を四肢の関節や骨、筋肉に注ぎ込み身体を強化する。同時に木刀にも気を流し、折れにくいようにして、俺を迎え撃つ。あと数歩、そこで俺は一つの技を選び、大上段に構えて上からへし切るように木刀を叩き込む。〈時雨虹流:隕突〉 ゴンッ!!と固いもの同士がぶつかる音が響く。一瞬の均衡。続いてピシッ!という音。その次には俺の手にかかる力はずいぶんと軽くなっていた。俺か翔の木刀が折れたのだ。果たして、折れたのは翔の方だった。刀身の切っ先側半分がくるくると回転しながら横に飛んでいく。そして俺の木刀が翔の肩に吸い込まれ…東良さんの気の強化付の防具に当たって止まった。
「そこまで!」
東良さんの声が響き渡り、俺たちは距離をとる。最初の位置に戻り、例をする。この辺りは武道として一般教養になっている剣道と同じだ。
「そのままでいいぞ俺がそっちへ行くから」
東良さんのがそういってこっちに歩いてくる。俺たちは刀を鞘へしまってそちらの方を向く。
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