第14話
不覚をとった。まったくだ。自分の世界があるのは良いことだがこういうときにちと困るんだよなぁ。しかし何はともあれ目の前の料理を食べるのがさきだ。キノコのスープをスプーンで掬い、口に運ぶ。うめぇ。スパゲッティを食べる。うめぇ。和風ドレッシングがほどよくかかった新鮮な野菜を食べる。うめぇ。うめぇしかてでこない。
夕食を済ませて店を出てからコメットバックスに因ってカプチーノを買う。うめぇ。現代に産まれてよかった。だが悲しいかな、騎士の宿命が俺を引き寄せる。魔物だ。すっかり暗くなっているが電灯によってはっきりと視認できる。仕方なく持っているカプチーノを横に置いて駆け出す。気を溜め込んだ足が地面を蹴る。通行人への被害をできるだけ減らすために、その勢いのまま魔物に肩から突っ込む。そのまま最寄りの広場まで突き進み、右手の一発で魔物の体を浮かす。人狼のような大きな体躯が宙に浮く。そのまま零距離で居合の型で一閃。防御のために生成されていた盾ごと体を両断する。霧になって消え行く魔物を見届けてから納刀する。こういったことは新緑部隊の時から良くあったことだ。
さっきのところに戻ると道の両端に寄っている民に対して討伐完了の旨を伝える。道の両端に寄るのは、騎士が戦いやすくするためのマナーみたいなもんだ。そのために道も広くとられている。民の安堵の表情を見てから、カプチーノを置いてあったところに向かい、それを飲む。そのまましばらく巡回をして、俺は本部に戻った。
本部に戻り隊長室に入る。
「報告します。本日夜、大通りにて魔物と遭遇。無事討伐完了の旨を報告します」
「おう、お疲れ、んで、お前さんもお疲れ様だ」
隊長室にいるのは俺と隊長だけではなかった。もう一人いた。
「紹介しておく。武田翔一等士だ。お前と同時期にあと二人、こっちに来ることになっていた。ただ到着が昨日の予定だったんでお前が来たときにはいなかったっていうことだ」
「武田翔だ。気軽に翔と呼んでくれたら嬉しいよ」
「あ、あぁ。俺は星川輝政だ。よろしくな、翔」
「こちらこそよろだよ、テル」
「打ち解けてるようで何よりだ。同期がいると気が楽になるからな」
部屋を出る。
「なぁ、テル。もう飯食ったん?」
「ん?あぁ、外で食ってきたな」
「あー、まぢかー」
「まだなのか?」
「そうです…」
「まぁちょうど魔物との戦闘でちょっと腹が減ってきたから俺も行くよ」
「うい~。やっぱり一人で行くのはなんか嫌だからな~。助かるよ」
「おう。じゃあ行くか」
食堂に行き、近くの席に座る。拉麺、炒飯、八宝菜とかなりの量を持ってきた翔に対して俺は唐揚げと野菜スープのみ。
「そんだけなん?」
「がつがつ食べるほどは腹は減ってないかな。まぁ‥なんだ、ゆっくり食えよ、待っとくからさ」
「ありがと。じゃあいただきまーす」
「いただきます」
「翔はここに来る前はどこにいたんだ?」
「朝焼隊だね。それも地方だよ」
「地方かー。強いんだな」
「まぁね。けっこう自信はある。今度手合わせしてみる?」
「やってみたいな」
「テルはどこからなん?」
「皇都の新緑部隊からだよ。三年間そこにいたよ。」
「へぇ~。三年間か。てことは16になる年から配属だから、今年で19になるのか?」
「あぁ、九月にな」
「俺は一年間新緑にいて、そこから二年、朝焼にいたよ。それで、強い魔物が皇都で増えてるってんで、隊長が推薦状を書いてくれたんでここに配属になったんよ」
「地方は人手不足にはならないのか?」
「そこまで心配はないみたいだぜ。地方のはそんなに強くないし頻度も少ないからちゃんと回していけるみたい」
「皇都だけか…… 狙われてるのか?」
「黒い球のこと?聞いたよ、何でもそいつから魔物が出てきたって」
「あぁ、けど俺と須夜崎さんが、着いたら消えたんだよな」
「消えた?………でもまぁそんなこと考えてもしゃーないよなぁ。上がなにか手を打つだろ」
そういってまたがつがつ食べる翔だが、その顔は少し険しい。皆そうなるし俺自身もそうなっている。けど、よくないものであるのは確かなことだ。
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