本屋で彼女が気になっていた。
介裕
本屋で彼女が気になっていた。
本屋で彼女が気になっていた。
毎月の用事の帰りに寄る本屋は、地域でも一番の販売数を誇っていた。
漫画や参考書などを買いに行く度、特集コーナーの見たことも聞いたこともない作品を、買うでもなく興味深く眺めるのが好きだった。
ある日に目当ての漫画の新刊が出る事を思い出し、漫画コーナーへ向かうと、身長の高い少女が熱心に新刊棚を眺めていた。
少女とわかったのは、僕と同じように学生が着るべき制服を着ていたからだ。
僕の学校とは違う制服を着た少女は、平積みされた新刊や棚に置かれた新刊の背表紙を順に眺めている。
僕が目当てにした新刊はその人の真正面にあるため、なんだか手を出しづらくなって、そばで買うはずもない他の新刊を見るふりをしていた。
やがて女性が一言、
「あった」
と声を出して、一冊の新刊を手に取る。
横目で見た限り、WEB小説で見るようなタイトルの、転生物のコミカライズだった。
しかし表紙には可愛い女の子があられもない姿になっている、というと誤魔化している感じがする。要は胸がデカくて、肌が露出していて、顔が紅潮しているものだった。
端的にいえば、え○ちなコミカライズだった。
それを手に取る少女の顔が、やけに無邪気な様子で、なんだか僕の方が恥ずかしくなるまであった。
その日はそれだけ。しかし、それから1ヶ月後、動揺に本屋へ付いた僕は、彼女が表紙が危うい別のコミックを買って帰るところとすれ違った。
なぜそれがわかったのかというと、彼女は昨今のエコ事情から袋をもらっていないようだった。だったら手持ちのカバンに入れればいいなと思いながら、彼女は抜身の刀のようにエ○をエコの店を後にした。
それからというものの、僕が本屋に行く際にはほぼすべて彼女に見つけることが多かった。
当然ながら向こうは一切気にしていない。いやもしかしたら多少はよく会う人間と思われているかもしれないが、僕の方はそうでもなかった。
彼女が次はどんな本を買って帰るのか。最初の本を、タイトルの一部を参考にネットで調べてみたが、どうも性的描写の強い転生物だった。
今の時代、探せばどこにでもそういった類のものはあるけど、コミックスや小説で一般の書店に売られているのは、僕にとって衝撃だった。
書籍版とネット上では内容は異なるものの、試し読みだけでも男子高校生も多感な男子高校生にとっては過激な内容に思えた。
そしてそんな内容をコミカライズするということは、あんなシーンやこんなシーンを、絵の状態で見れるということだろうか。
自分で買う勇気はないものの、しかし同年代らしき少女が買う様子は、僕にとって衝撃的でもあった。
以来、拗らせてしまった僕は彼女が買う様子を見るストーカーと化してしまい、しかし彼女に話しかけたり追いかけたりは最大級のご法度として、実行することはなかった。
彼女が買うその系統の本は、少しだけ見えるタイトル通りなら異世界、転生、現代、人外など多岐にわたっていた。
特にジャンルとしての趣味はないとは思うが、共通することとしては、いわゆる男女やモンスターとの、そういったシーンが挟まった、ほとんどエ○本のようなものだった。
やがて一年が経ち、僕が進級しても彼女に囚われ続けている状態も長期にわたっていた。
ただ僕が見るだけの関係、そんな物に意味は無いのだが、月イチのログインボーナスのように習慣となっていた。
いつものように彼女の居る新刊コーナーへ行くと、彼女が急に話しかけてきた。
それは想定外の事実であるけど、彼女の発した言葉ですべてを察した。
「今日は、一緒に読みませんか?」
本屋で彼女が、気になっていた。
本屋で彼女が気になっていた。 介裕 @nebusyoku
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