15-9.夢幻迷宮


 サトゥーです。夜這いという言葉を初めて知ったのは平安貴族を題材にした漫画だった気がします。少女マンガの主人公が痴漢と叫んで貴族の頭を蹴る姿と、蹴られて唖然とする貴族の表情が印象に残っています。





「こんばんは、泥棒です」

「余計な事は言わなくていい」


 怪盗ファッションのアリサの頭をぽかりと叩き、オレはベッドで眠るウィーヤリィ嬢の傍らに歩み寄る。

 なんとなく、夜這い男みたいで背徳感がある。


 深夜に女性の部屋を訪れたのはエッチな目的ではない。

 勇者の仲間達の部位欠損を修復する為だ。


「上級の精神魔法ってすごいわね。イタズラし放題じゃない」


 深い眠りについたウィーヤリィ嬢の長い耳をつんつんと指で突きながら、アリサが不埒な事を呟く。

 眠っているのはウィーヤリィ嬢だけでなく、勇者一行を含む宿の宿泊者従業員全てだ。


「それにしても、『強制ギアス』で他言無用ってすれば、眠らさなくても良かったのに」

「こっちの方が面倒がないだろ?」


 それに、オレの目的は彼女達の手足を復元してやる事であって、彼女達に恩を着させる事ではない。


「始めるぞ――」


 オレはそう断ってから、ウィーヤリィ嬢を「理力の型マジック・モールド」で作った透明なベッドに移動させ、アリサに頼んで彼女の服を脱がせる。

 もちろん、不埒な目的じゃないので、服を脱がせ終わった彼女の身体には布を被せてもらった。


「まずは瘴気を解く」


 オレは「瘴気視」を有効にして、ウィーヤリィ嬢の欠損部分を視る。

 黒くまがまがしい靄が欠損部位を基点に、ウィーヤリィ嬢の身体を縛っているのが見えた。


 全体を見るために布を剥いだが、瘴気視を発動中は、視界がモノクロになる上にネガポジ反転画像のように見えるので、エロさはまったく感じない。


 オレはもつれた糸をほぐすように、魔王の呪いと称されていた瘴気の靄を剥がしていく。

 なかなか強固な上に複雑に絡み合っていたが、10分ほどで除去に成功した。


「サンプル採取」


 ウィーヤリィ嬢から採取した血液から、欠損した腕や足などの部位を再現する。

 現代科学に詳しい者からはうろん・・・な目で見られそうだが、上級術理魔法によるクローニングは本人のものであれば万能細胞でなくても問題ない。さすがはファンタジーだ。


「傷復元」


 オレは指先に伸ばした魔刃で欠損部位の傷痕を切り裂いて傷を復元する。

 出血しすぎると危ないので、傷口は術理魔法の「理力の型マジック・モールド」で作った透明なカバーで押さえておく。


「欠損部位、結合」


 先ほど作製した部位を傷口に押し付け、エリクサーを振りかけると、ぴたりとくっついた。

 オレは上級死霊魔法の「完全憑依パーフェクト・ポゼッション」で、ウィーヤリィ嬢に乗り移り、結合した腕が動く事を確認する。


「成功だ」

「うわっ、起きたかと思った」


 無事に成功した喜びのあまり、ウィーヤリィ嬢に乗り移ったまま喋ってしまった。

 オレは元の身体に戻り、アリサに驚かせた事を詫びた。


「――すまん、戻るのを忘れていた。続けるぞ、アリサ」

「おっけー!」


 オレはウィーヤリィ嬢の残りの手足を結合し、続けてルススとフィフィの部位欠損を修復して回った。

 もちろん、フィフィの目も一緒に治してある。


「あとは手紙を残せば良いだろう」


 文官ノノの枕元に、勇者ナナシの署名で部位欠損を治癒した事と治癒後のリハビリについて記した手紙を置いておく。

 自分たちの部屋に戻ったあと魔法を解除し、孤島宮殿に退避していた仲間達を宿に呼び戻し、その晩は大きなベッドで仲良く眠った。





「サトゥー! 大変だ!」

「起きろ! 大変なんだ!」


 朝っぱらから部屋に飛び込んできたのは半裸のルススとフィフィだ。


 ローライズのパンツとおヘソの見える丈の短いシャツしか着ていない。

 ノーブラらしく、躍動感溢れるダイナミックな動きだった。


「おはようございます。ルススさん、フィフィさん――お二人とも、その手足はどうされたんですか!」


 オレは驚いた振りをしながら、ベッドから降りて二人のもとへ歩み寄る。

 ベッドの上ではナナや子供達が目を擦りながらむくりと頭をもたげていた。


 なお、既に起きていたリザは庭で槍を振っており、ルルはその横で朝の体操をしているようだ。


「それが朝起きたら、治ってたんだ!」

「お前が何かしたんじゃないかって、思って」


 ハイテンションの二人がオレの手を掴み上下に振った。

 腕と一緒に揺れる質量のせいで、目のやり場に困る。


「ふ、二人とも早いぞ!」


 そんな二人の後ろから、ウィーヤリィ嬢が姿を現した。

 四肢に力が入らないのか、ふらふらと頼りない姿だ。


 よろめいた彼女に手を伸ばし支えてやる。


「ありがとう、サトゥー」


 落ち着いた雰囲気のウィーヤリィ嬢も、欠損部位が治った事がよほど嬉しいのか、こぼれるような笑みを振りまいている。


「ところで、この奇跡はサトゥーがしてくれたのか?」


 そう言うと、オレの答えも聞かずにウィーヤリィ嬢が抱きついてきた。

 勇者パーティーの中で唯一肉感が薄い彼女だったが、どうやら着やせするタイプだったようだ。


「ちょ、ちょっと! ご主人様になにしてるのよ!」

「むぅ、ぎるてぃ」


 鉄壁ペアが阻止しようとベッドから這い出てくるが、寝起きで上手く動けないようだ。


「朝から何をしているのです」


 キリッとした表情で文官ノノが三人娘を窘めてくれる。

 早朝だというのに、彼女は制服をピシッと着こなして――あれ?


「ノノ、スカート」

「忘れてるよ?」

「ふむ、ノノも若者を誘惑するような歳になったか」


 三人娘の言葉がとっさに理解できず、頭にハテナマークを浮かべそうな顔をしていたノノが、視線を下に向けて真っ赤になった。


「す、すみません、出直してきます」


 ノノが悲鳴を上げて飛び出していった。

 どうやら、彼女もポンコツ属性を持つようだ。


 しばらくして戻ってきたノノが、三人娘の部位欠損を治したのが勇者ナナシだと皆に告げて、朝の騒動は終息した。





「もったいないわよね~」

「まだ言っているのか?」

「だって、ご主人様のシンパが増えたかもしれないのに」


 夢幻迷宮のある島へ向かう渡し船の上でアリサがぼやいた。

 そもそも、シンパを増やしてどうする。


 迷宮へ向かうのはペンドラゴンチームにカリナ嬢を加えたメンバーのみだ。


 ルスス達は街の外れにある訓練所でリハビリをしている。

 勇者が戻ってくるまでに、本調子に戻してみせると言っていた。


「アリサ、その辺にしておきなさい」

「ん、らいばる不要」


 リザがアリサを窘め、ミーアがこくこくと頷く。


 そんな会話を交わしている間に、渡し船は迷宮島の波止場に辿り着いた。


「さかな~?」

「ちっちゃな魚がいっぱいなのです」


 波止場から見える海中に、イワシのような小魚が群れをなして泳ぐのが見えた。

 サビキでもしたら、沢山釣れそうだ。


「おい、そこのお前ら、見ない顔だな?」


 漁師風の厳つい中年男性が、オレ達の方へとやってきた。


「ご主人様に無礼ですよ」


 リザが魔槍を男に向ける。


「おっと、怖い姉ぇちゃんだ。槍を下ろしてくれ、イチャモンを付けに来たわけじゃない」


 中年男性はリザの剣幕に降参のポーズで、一歩後ろに下がった。


「迷宮の入り口はあそこだが、初めての人間はそっちの冒険者ギルド会館で手続きをしておく必要があるんだ」


 男は迷宮島の中央にある火山を指差したあと、港の端にある灰色の建物の方に顎をしゃくった。


「迷宮前の簡易受付けでごねる・・・冒険者志願者が多いからな、初見のヤツが来たら教えてやってるのさ」


 なるほど、両者の距離は結構離れている。

 クレームを付けるヤツもそれなりにいそうだ。


 オレは男に礼を告げ、親切のお礼とリザの早とちりの詫びに銀貨相当のスェン紙幣を握らせておいた。


「おおっと、兄ちゃん分かってるねぇ~。坂の途中にいる黄土色の外套を着た狸人に話しかけてみな――やつは元冒険者で上層の魔物に詳しいぜ」


 そう言った男は、上機嫌にスェン紙幣を振りながら近くの酒場へと突撃していった。

 





「やー、テンプレだったわね」


 アリサが満足した顔で、ギルド証片手に冒険者ギルド会館を振り返る。


「FからAに上がっていく冒険者ランクに、美人受付嬢の長い行列、おっさん受付は案の定ギルドマスターだったし、掲示板にはたくさんの依頼票! やっぱ冒険者ギルドはかくあるべきよね~」


 歌うように告げるアリサに、仲間達は温かい視線を向ける。

 アリサ以外で興奮した様子なのはカリナ嬢だけだ。


「サガ帝国の冒険者ギルドを模しているようですわね」

「へー、そうなの?」

「ええ、お父様の著書にありましたわ」


 カリナ嬢とアリサが迷宮への山道を登りながら、そんな会話をしていた。

 カリナ嬢の父であるムーノ伯爵は勇者研究の 第一人者だいいちにんしゃなので、初代勇者が興したという冒険者ギルドも研究対象だったのだろう。


 迷宮へ向かう坂道の途中に黄土色の外套を着た狸人がいた。

 港の男の紹介だと告げると、狸人は迷宮の主な魔物の話を聞かせてくれた。


「――まあ、そんなところだ。最初の何度かは様子見に徹しろ。帰還棒と攪乱玉を持っていくのを忘れるなよ。地図は当てにならんからな」


 オレは彼の情報にスェン紙幣を支払い、親切な忠告に礼を言ってその場を去った。

 上層は魔核以外に稼げる物が少ないらしい、リビングドールやアイアンゴーレムが出始める上層終盤からが本番だそうだ。


「いも~?」

「魚の塩焼きなのです」

「迷宮前なのに肉はないようですね?」


 獣娘達が迷宮前に並んだ食べ物屋台を覗き込んでいる。


「そこの貴族様! 地図はどうだい? 20枚組の地図が今なら、たった1000スェンだよ!」


 物売りの青年が紙束を片手に売り込んできた。


 デジマ島の「夢幻迷宮」は毎回通路構成が変わるので、売られている地図は初心者から金を巻き上げるためのモノが多い。


「出来によっては買ってもいいかな」

「へっへー、うちの地図はすげぇぜ」


 自信満々にみせる地図はフェイクとは思えないくらい書き込んであった。

 通路のつながりだけでなく、部屋の場所や危険地帯、水場などの情報もある。


 詐欺にしても、ここまでやるのは凄い。


 仲間達がオレの考えを問うような視線を向けてきたので、アイコンタクトで考えがあると伝える。

 アリサがへたくそなウィンクを返してきたが、とくに突っ込まずに話を続けた。


「なんせ、サガ帝国で地図屋マッパーをやっていたB級冒険者が書いたもんだからな」

「良さそうだし、買うよ」

「まいど!」


 オレは買い上げた地図を格納鞄経由でストレージへと収納した。


「どうして、詐欺って分かっているのに買ったの?」

「通路以外の情報は使えるかもしれないからね」


 もし詐欺だったとしても、イタチ帝国以外で使い道のない1000スェン紙幣がなくなるだけだ。


「攪乱玉を買ってくれ! 火山灰から作っているから格安だぜ!」

「魔物避けはあるか? ないと休憩も碌にできないぞ!」

「夢幻迷宮の初心者なら、帰還棒は絶対持っていけよ! 帰れなくなるぞ!」

「ボース魔法店の出張所だよ! 魔法薬が今なら300スェンだ!」


 オレが地図を買ったせいか、屋台の売り子が商品を持って殺到してきた。

 せっかくなので、色々と現地の品を買い集めておく。


 ボッタクリ価格だったので、アリサとルルがサクサクと値切っていた。


 なお、帰還棒というのはゲームによくある迷宮入り口までの転移アイテムではなく・・・・、出口の方に向けると光るだけのアイテムらしい。


「この帰還棒以外は迷宮都市セリビーラと一緒じゃないの?」

「たぶんね」


 アリサの問いに首肯する。

 これはエチゴヤ商会の職人達へのお土産だ。


 もしかしたら、技術向上のヒントが眠っているかもしれないからね。




「どう?」

「勇者は無事みたいだ。彼の仲間も深刻な怪我はないみたいだね」


 入り口で記帳し、迷宮の門を潜ったオレ達は狭い下り坂を進む。


 全マップ探査の魔法で調べたところ、勇者一行は最下層から中層の補給基地へ戻るコースを辿っていた。

 ややこしい言い方になったが、この夢幻迷宮は木の根に似た構造を持つ。

 獣娘達と脱出したセーリュー市の「悪魔の迷宮」と同じような感じだ。


 木の根と違うのは、中層まで枝分かれと合流を繰り返しているところと、所々地下茎のような大空洞がある事だ。

 全体的にゴーレム系やアンデッド系の敵が多く、オレが観察している間にも通路が塞がったり、壁が崩れて通路に変わったりしていた。


 なんとなく、一定時間で通路が変わる「トラザユーヤの迷路」をイメージしていたが、どこか機械的なブロック構造だった迷路と違い、ダンジョンマスターものの物語にでてくるような迷宮の構造変更だ。

 ここの迷宮の主ダンジョンマスターになったヤツは、ダンジョンマスターものの物語が大好きだったのかもしれない。


 DPダンジョン・ポイント的なモノで、この前手に入れたフィギュアをゲットしていたのなら、ドラドラマガジンの最新号が手に入らないか尋ねてみたいものだ。

 連載中の「軍オンリーの金色レジェンド」や「冴えてる彼女のトリニティ」の続きを読みたいんだよね。


 ――おっと、思考が横道に逸れてしまった。


 マップ検索で探してみたが、迷宮の主ダンジョンマスターは見付からなかった。

 セーリュー市の「悪魔の迷宮」やセリビーラの迷宮でも、見付かった事がなかったので想定の範囲内だ。

 きっと別マップのダンジョンマスター部屋にでも隠れているのだろう。


 そして本命の魔王だが、満身創痍ながらも生存しており、勇者が戻ってくるのとは違う最下層にいる。

 レベルは64とやや低く、アリサと同様のスキル隠蔽によって「スキル:不明」と表示されていた。

 称号は「魔王」というオーソドックスなのに加えて、「追われる者」「虐げられる者」「小さな反逆者」「芸術家」という隠し称号があった。


 こいつは虐げられた挙げ句に魔王への道を歩んでしまったのだろうか?

 少しだけ魔王の出自が気になった。





「混んでるわね」

「セリビーラも一緒だろ?」


 狭い下り坂の通路を抜けた先の広場では、幾つもの冒険者パーティーが魔物と戦っていた。

 灰泥ゴーレムや黙灰ゴーレムというマッド・ゴーレムの一種が序盤の敵らしい。


 この迷宮は恒常的に濃淡を変化させる霧がでており、大部屋でも視界が悪い。

 しかも、濃い霧に投射された幻影が、リアルな映像からぼんやりしたシルエットまで千差万別なので、夢幻迷宮に慣れた冒険者達でも幻影を見て驚いたりしている。

 たまに、足音のしない黙灰ゴーレムが霧に紛れて襲ってくるので、かなり嫌らしい迷宮と言えるだろう。


 オレはレーダーがあるから、どこから敵が来るか判るが、普通の冒険者は大変そうだ。


「ふぁいや~?」

「魔法使いがいっぱいなのです」


 タマとポチが霧の向こうに見えた火線を指差す。


 冒険者の中には魔法使いもいるらしく、ときおり赤い炎が薄暗い洞窟を照らしていた。

 スキルに火魔法を持つ者が少なかったので、あの炎使いのほとんどは火杖によるもののようだ。


「フレンドリーファイヤー上等な感じね……」

「ん、危険」

「あっ、盾役の人が後ろから飛んできた小火弾に撃たれました」


 入り口付近のせいか、慣れていない者が多い。


「はいそ~?」

「こっちに逃げてくるのです」


 壊走してくるパーティーを見かねたリザがこちらを振り向く。


「ご主人様、介入してもよろしいですか?」

「いいよ」


 オレが頷くと、リザが足下の石を尻尾で真上に跳ね上げ、ポチが鞘に入ったままの剣で落ちてきた石を打つ。


 石は一撃で灰泥ゴーレムを打ち倒し、貫通した石をいつの間にか回り込んでいたタマがキャッチした。

 タマが「すとらいく~?」と宣言していたが、どちらかというとデッドボールだと思う。


「ご主人様~?」


 タマが小さな魔核と黄土色の玉を持って帰ってきた。


「うわ、創魔魂ゴーレムソウルだ……」

「こんな浅い場所でもでるのか!」

「よし、次は俺達も出すぞ!」


 タマの持つ玉を見た冒険者達が騒然とし、交戦相手の灰泥ゴーレムへの攻撃をいっそう激しくした。


 オレ達が助けた冒険者パーティーはとっくに部屋を抜けていった後だったので、謎アイテムの創魔魂ゴーレムソウルの所有権について揉める事はなかった。


「あ、ありがとうございます、エルフ様」

「ん」


 フレンドリーファイヤーで背中を焼かれた盾役の熊人女性が、治癒魔法をかけてくれたミーアに礼を告げていた。

 どうやら、さきほどのパーティーに見捨てられたようだ。


 ちょっとだけ彼女に同情したので、半年ものの水増し回復魔法薬をお守りに進呈しておいた。

 使い道がなくてストレージ内で死蔵していたヤツだが、彼女のレベルなら瀕死の重傷からでも回復できるだろう。





「足音~?」

「ドカドカ音がしているのです」

「冒険者を追いかけて敵が来るみたいだね」

「げっ、トレインなんてマナーが悪いわね」


 二つほどの冒険者パーティーを追って、大小様々・・・・な魔物がやってくるのがレーダーに映った。

 灰泥ゴーレムを倒しながら通路を進むと、前方から身軽そうな斥候の男が回廊の向こうから姿を現した。


「あんたら逃げろ! 鋼鉄アイアンゴーレムが来るぞ!」


 彼の後ろからは、彼の仲間らしき剣や杖を持った中年冒険者達が駆け抜けていった。


「ダメだ、追いつかれる」


 二つ目のパーティーは重武装の騎士風冒険者達のようだ。

 重武装で移動速度が遅いため、鋼鉄ゴーレムに追いつかれそうになっていた。


 鋼鉄ゴーレムは高さ三メートル強もある通路に身をかがめるほど大きい。

 内部から赤い駆動光がうっすらと漏れている。


「くそう、せめて一太刀!」

「ばか! 止まるな!」

「ちっ、あのバカ!」


 鋼鉄ゴーレムに仲間の一人を踏みつぶされた重武装パーティーが、足を止めてゴーレムを振り返った。

 巨大な戦斧や火杖で挑んだが、為す術なく先の仲間と同様に踏みつぶされる。


 まだ息があるようだし、見捨てる事もないだろう。


「リザ」

「承知」


 最後の重武装冒険者が踏みつぶされる前に、リザの放った魔刃砲が鋼鉄ゴーレムの頭部を撃ち抜く。


 ここのゴーレム製作者は真理ネタを知らないらしく、一文字を消すだけで倒せるようなお手軽仕様ではない。

 もちろん、リザの魔刃砲なら、どこに当たろうが一撃だが――。


「カリナァ――キィィィイイイイイイック」


 青い光を曳きながら駆けたカリナ嬢が、鋼鉄ゴーレムの胸元に必殺の蹴りをめり込ませた。

 ゴーレム内部の赤い駆動光が消えていく。


「ぐっじょぶ~?」

「カリナ、偉いのです」


 実はオーバーキルだったのだが、タマとポチは気にせず口々にカリナ嬢を称賛する。

 カリナ嬢が満更でもなさそうな顔で振り向いた。


「先ほどの技について尋ねてもいいかしら?」


 鋼鉄ゴーレムの向こうから現れた声の主に、カリナ嬢の笑顔が凍り付いた。

 はてさて、どう切り抜けたものやら。


 不敵な笑みをみせるリートディルト嬢一行に、オレも爽やかに微笑み返した。


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