13-32.魔王シン(2)
サトゥーです。物語に成り上がりモノは色々ありますが、悪人が仲間を裏切って下剋上する物語の場合、成り上がった後に悲惨な結末が待っている事が多い気がします。
◇
さて、どうやってシン少年から魔王珠の影響を除去しよう?
そう頭を悩ませているところに乱入してくるバカがいた。
「殿下、眷属を引き連れて助けに来たザマス!」
亜空間の壁を突き破って、緑竜の姿をした緑魔族と様々な姿をした中級や下級の魔族たちが雪崩れ込んできた。
腕がドリルになった中級魔族が先陣を切っていたところを見るに、あいつが結界破りの能力を持っていたのだろう。
「よ、よくぞ救援に――」
シン少年が何か言おうとしていたが、その声はオレの上級光魔法「
さすがは上級魔法。
気持ち良いくらいに魔族が弾け飛んでいく。
ちょっと音が煩いし、周囲の空気がものすごい温度になっているが、この威力なら仕方がないだろう。
光耐性スキル持ちの中級魔族が一体だけ生き残っていたが、魔力過剰充填済みの
「ぐがぁあががが」
あまりに一方的な戦いに、シン少年の精神に悪影響が出てしまったのかと焦って振り返ってみると――。
「下剋上ザマス。魔を司る力があればミーも魔王になれるザマス!」
緑魔族がシン少年に憑依するのが一瞬だけ見えた。
シン少年の状態が「憑依」になっている。魔王なのに簡単に憑依されてしまったのは、レベル差のせいだろうか?
それにしても仲間割れとは……ある意味、魔族らしい。
おっと、暢気に構えていたら手遅れになる。
なんとかしないと。
光魔法の禁呪にある「
――まずい。
長々とした詠唱をしていてはシン少年が緑魔族に融合されてしまう。
――POPしてた宝箱の中にあったのよ。
ふと脳裏にアリサの声が浮かぶ。
「そうだ! あれがあった」
思わず独り言をもらしながら、ストレージから取り出した「魔封じの鈴」を振る。
シャリンと涼やかな音が波紋となって、乾いた空気に広がっていく。
ZWAAAMMMMAASWUUUUUUU。
一際大きな悲鳴を上げて、シン少年に溶け込んでいた緑魔族が剥離した。
オレは縮地で接近し、半透明の幽体状態の緑魔族を掴んでシン少年から完全に引き剥がして投げ捨てる。
そのまま空中にある内に聖剣で真っ二つに切り裂く。
緑魔族が消滅する前に、
やつの言動からして、緑魔族の
大海の中に沈む釣り糸を見つけるような気分で、魔素探知を広げていく。
――見つけた!
次の瞬間、オレは彼方にある緑魔族の本拠へと躍り出た。
我ながらどうやってココへ移動したのかよく判らない。
魔法かスキルか――そんな考察は後回しだ。
ザマスザマスと叫ぶ緑魔族の本体を空間魔法の「
おっと、ここで油断してはいけない。
こういうヤツはこれくらいで完全消滅したりしないのだ。
久々に「全マップ探査」の魔法を使って、このエリアを精査する。
マップの存在しないエリアと出るかと思ったが「腐淵の迷宮:遺跡」と出た。
どうやら、ここは枯れた迷宮の一つみたいだ。
エリア内に赤い光点を一つ見つけた。
鼠に憑依した緑魔族の分体らしい。
まったく、魔族というヤツはどこまでも命根性が旺盛だ。
枯れた迷宮なら被害も出ないだろうし、先ほどの「光子力線」をもう一度使って、迷宮の壁越しに緑魔族の最後の一欠けらを完全に消滅させる。
これで、もうザマスザマスと緑魔族に煩わされる事もないだろう。
戦利品の
ガラクタの山だった部屋が整理され、部屋の隅に緑色の球体がいくつか残されるだけになった。
――なんだろう?
近くに行ってみるとAR表示がその正体を教えてくれる。
どうやら、緑魔族が
手で触れると緑色の球体が割れ、中の生き物が姿を現す。
――KYEWWROUUUN。
緑色の幼竜が首を傾げる。
緑魔族の
トラックサイズの幼竜にクジラ肉を与えて餌付けしつつ、空間魔法の「
幼竜に続いて、幻獣や動物も球体から助け出して外に送り出す。
差別して悪いが、ワイバーンなどの魔物はサクサクと退治させてもらった。
問題は人間だ。
とりあえず、球体から助け出した後で水魔法の「
幹部娘の一人に世話をしておけと命じたので後は任せて大丈夫だろう。
もちろん、賞罰に重犯罪のある者は王都の監獄の中へとユニット配置で送りつけてある。
強制的に送りつけるのは初めてではないし、あそこの牢番は思考が柔軟だから、ちゃんと適切に処置してくれるに違いない。
◇
シン少年を置き去りにした亜空間へとユニット配置で戻る。
瀕死ながらも、魔王の生命力が彼を生者の側に繋ぎ止めている。
魔王だから余裕だと思っていたが、ちょっと見込み違いだったらしい。
猪王や狗頭と同じつもりでいるとシン少年を死なせてしまいそうだ。
オレは中級の治癒魔法を使ってシン少年の出血を止める。
完全に回復させてしまうと面倒なので、このままシン少年の魔王化を解除する手術を行おうと思う。
先ほどの緑魔族の融合が悪影響を及ぼしているのか、シン少年の体から紫色のオーラが零れ始めていた。
もう一度手を伸ばして試してみるが、やはりオレの手は紫色のオーラをすり抜けてしまう。
ストレージから取り出した神剣で紫色のオーラに触れる。
直接触れた箇所は神剣に吸い込まれ、その周囲の紫色のオーラは色水に油を垂らしたように散ってしまった。
今ひとつのようなので、速やかに神剣をストレージに収納する。
さて、どうしたものか……。
あまりのんびり構えるわけにもいかない。
といっても、神剣以外に紫色のオーラ、恐らくは「神の欠片」の一部に干渉できるものなど――。
……いや、あった。
オレはストレージの品目の中から、それを選ぶ。
自分の失敗を見せ付けられるようで嫌だが、そうも言っていられない。
漆黒の塊を紫色のオーラに突き出すと、薄いビニール膜に触れたような感触が返ってきた。
――行ける。
オレは綿菓子を作るような動きで、漆黒の塊――神気に冒されて切断したオレの黒腕を動かして紫色のオーラを絡め取っていく。
さすがイージーモード。
自分でやっておいてなんだが、本当にできるとは思わなかった。
やがて、ぐぐぐっと重い手ごたえがきた。
紫色のオーラが作る糸を切らないように気をつけて、魚釣りのようにくいっと引き抜くと、シン少年の胸元から紫色の光が飛び出てきた。
『りゃ、
暗紫色の光は明滅しながら、ブツブツと文句を零す。
『まったく、取り出されたと思ったら、未熟な子供に宿らされるし』
光は左右に揺れながら、プンプンと擬音が見えそうな声で愚痴を重ねる。
『帰ったら神様に苦情を言わなくっちゃ』
逃がす気はないので、オレはストレージから抜き打ちした神剣で「神の欠片」を斬り裂いた。
前と同じように神剣に暗紫色の光が吸い込まれる。
さて、欠片の始末はコレで良し。
オレはストレージに神剣を収納し、暗紫色の光が飛び出した時に血塗れになっていたシン少年に治癒魔法を使う。
二メートル以上の巨躯の青年の姿が徐々に縮んで、元の背丈の華奢な少年の姿へと変わっていく。
角も抜け落ち、髪や肌の色が元に戻っていくが、完全に元に戻るわけではないようだ。
白髪の内、前髪や揉み上げの一部が紫色のままだし、右腕も鉤爪状のままだ。
種族が「
このまま放置したら、種族が魔人になってしまう気がする。
他にも称号が「堕ちた勇者」になっており、隠し称号に「元魔王」「半魔」が増えていた。
ユニークスキルが失われ、レベルも50から20まで落ちていたが、元のレベルよりは高い状態を維持している。
スキル欄に「総合魔法」「魔法知識」「魔法耐性:総合」というのが増えていた。なかなか羨ましいスキルだ。
特に最後のはうちの子達に持たせたい。
シン少年が苦しそうな声でうめき声を上げる。
一瞬開いた目は片方が赤、もう片方が紫になっていた。
おそらく「瘴気中毒」とかの影響だろう。
早めになんとかしないと……。
そんな事を考えながら地系の状態異常回復の魔法を使ったところ、一発で「瘴気中毒」が解除された。
「案ずるより産むが易しってヤツだな――ん?」
拍子抜けしたオレの視界に、シン少年の状態が飛び込んできた。
確かに一度解除されたはずの「瘴気中毒」が復活している。
オレは首を傾げながら、水系や光系などの他の種類の状態異常回復の魔法を使ってみたが、結果は同じだった。
一度回復するモノの、しばらく経つと元の木阿弥に戻ってしまう。
しかも、回復させるたびに、シン少年の容態が悪くなり、現在では「衰弱」という状態まで追加されてしまった。
これは、神殿系の魔法でないと回復できないのかもしれない。
もっとも、今のシン少年を連れていったら、問答無用で退治されてしまいそうだ。
ヒカルが使うのは術理魔法だから、オレと大差ないはずだし、他に誰か……。
そこまで考えて、オレはとびっきりの人材を思い出した。
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