13-6.王立学院(2)

 ミーアと二人で魔法学舎の門を潜る。


「ミサナリーア様、お待ちしておりました」

「おはよ」


 校舎の入り口で待っていた学院長が、あれよあれよと言う間にミーアを連れていってしまった。

 それを為す術無く見送った後、学院長の横にいた三十前後のハンサムな教師がわたしの方に歩み寄ってきた。


「タチバナ卿は、こちらへ。主任教授をしているヘビンだ。私が案内をさせてもらう」

「よろしくお願いいたします、ヘビン先生」


 憂いのある表情にベストマッチな渋い声。

 ゆったりとした独特の抑揚がステキね。


 翻訳版だったら、「猫なで声」って訳されそうな感じ。


 そんなバカな事を考えている間にも、校舎の中へと案内される。

 ヘビン先生は酷薄そうな顔とは裏腹に気配りができるタイプらしく、ちゃんとわたしの歩く速さに合わせてくれた。


「魔力量を測定する器具を持ってくるので、そこに腰掛けていなさい」

「はい、先生」


 応接間のような立派な部屋に通され、ふっかふかのソファーを勧められた。

 お淑やかに浅く腰掛けつつも、わたしの心は「魔力測定」という言葉に穏やかではいられなかった。


 やっぱ、魔力測定をする水晶を破裂させて「なんて、魔力量だ!」なんて驚かせちゃうのよね。

 くっふっふっふ~、やっぱり、学園モノは魔力TUEEEから始めないとね!





「星四つだな。かなりの魔力量だ。ミサナリーア様の友人だけはある」


 ヘビン先生は水晶型の測定器の値を読み取って、入学書類に記入していく。


 ――ありゃ? 測定器の許容量大きすぎない?


 わたしのそんな疑問に答えるようにヘビン先生が呟く。


「ミサナリーア様が新入生用の測定器を壊してしまったので、城から王祖様がお作りになったオリジナルの魔力測定器を借りてきておいたのだよ」


 あっちゃ~、ミーアが先に壊してたのか~。

 そりゃそうよね。ミーアの方がわたしの5割増しくらいの魔力あるし、当たり前か。

 まったく、普通は常人を超えるレベルの魔力を順番に上げていって驚かれるのがセオリーなのに、ミーアが一番先じゃ埋没しちゃうじゃない。


 こ、ここはうちのチートなご主人様を連れてきて、オリジナルの魔力測定器を壊すくらいの魔力量を見せ付けて――って無理よね。

 そんな目立つ事をうちのご主人様がする訳ないか。


「そんな顔をせずとも良い」


 黙っていたせいか、ヘビン先生がちょっと優しい声でフォローしてくれる。


「普通の新入生は星一つから星二つだ。教師でも星四つ行くのは私と学院長の二人だけだ。誇っていい」

「ありがとうございます、ヘビン先生」


 学院長のレベルが43で、この先生はレベル41ほどある。

 私のMPが890だから、おそらく1000を超えたら星5つなのだろう。


 なお、ミーアの評価だけど――。


「ミサナリーア様は星五つだ。王祖ヤマト様や過去の偉人達に続く歴代七人目の記録だよ」


 ――と、チート主人公みたいな評価を貰っていた。

 うちのご主人様の非常識さと比べたら普通だけど、ミーアも十分すごいもんね。


 あと、この手のお約束の属性判定はなかった。

 ヤマト石があるからだってさ。まったくロマンが足りないわよね~。


 で、今度は場所を移して実技の試験。


「ではあの的を魔法で破壊してくれたまえ」


 よっしゃーっ! 名誉挽回のちぁーんす!


 ここはあの的どころか、この実技室の魔法障壁を破壊する「火炎地獄インフェルノ」の一撃で、アリサちゃんの実力ジツリキを見せてあげようかしら。


 無詠唱の空間魔法で周辺被害が出ないようにすれば無問題よね。


「念の為に言っておくが、制御の緻密さも見るので的以外を破壊したら減点なので注意するように」


 ――くぅ、既に誰かがやらかしていたかぁ。


 仕方ない。

 テクニカル・アリサちゃんで行こう。


「■ ■■ ■■■ ■■ ■ 細火多弾演舞マルチプル・ファイア・ダンス


 爪の先ほどの小さな火弾が長杖の先に次々に生まれる。

 全部で16発の弾が私の精密なコントロールに従って的に飛んでいく。


 それぞれの弾が途中でさらに4つに分割し、合計64個の火弾の雨となって的を撃つ。

 暴徒鎮圧用にご主人様に作ってもらった魔法なので、一つ一つの弾丸の威力は最低。デミゴブリンさえ倒せない。


 でも、64個の弾丸はわたしの意図したとおりに的を穿った。


「見事。的に弾痕で桜の花びらを描くとは――」


 ヘビン先生を唸らせた甲斐あって、エリートの集まる特別選抜クラスで授業を受ける事になった。

 確認していないけど、きっとミーアもそこだろう。





 ヘビン先生に連れていかれた教室は生徒が10人しかいない。ここに来るまでに見た教室の平均生徒数の半分以下だ。

 生徒の年齢は大体10歳から18歳と幅広くて、平均は16歳くらい。

 この国の子達は12歳くらいからオッサン化し始めるので、貴重なショタは1人しかいない。


 レベルは平均9で、最大が炎魔法使いの子のレベル19。次点が雷魔法使いの子のレベル15だ。

 騎士学舎と違ってレベルが高めなのは、安全な後方から経験値稼ぎができるからだろう。


 部屋の中にミーアはいない。

 代わりに見知ったピンク髪の王女が座っていた。


 ニコリと笑顔を送ってきたので、軽く会釈を返しておく。

 このクラスにいるって事は男関係の素行に問題があっても優秀らしい。


 ――くぅ、このリア充めっ。


 ヘビン先生に促されて自己紹介を行う。

 名前と得意属性を言えばいいらしい。


「アリサ・タチバナです。火魔法を嗜みます――」


 インパクトのある自己紹介で印象付けるのは過去の痛い痛い思い出がブレーキをかけるので、凄く無難な内容で終わらせた。


 クラス内から「なんだ火魔法か」と呟く炎魔法使いの少年や雷魔法使いの青年がいたが華麗にスルーしておいた。どこのクラスにもこういう輩はいるみたい。

 それに炎や雷は一部の攻撃魔術の威力が突出しているだけで、上位魔法というわけではない。

 ちなみに、クラス内では基本属性の魔法を使える子が半数ほど。

 地爆水氷炎風雷、術理、召喚、死霊の10種で、地の子が被りで、氷の子が死霊魔法も使えるみたい。


 ヘビン先生が「魔法に優劣は無い」と問題発言をした少年を叱っている。

 少年は甘やかされて育ったのか叱られた事自体が不満なような顔で悔しそうに謝罪の言葉を口にしていた。


 わたしは劣化した元少年の事よりも、眼鏡を掛けたショタ少年の方が気になる。

 教室の空席は二つ。どちらかがミーアの席なんだろうけど、空席の片方が最前列に座る彼の横にあるのだ。

 たぶん、こっちがミーアの席で私は一番後ろの炎魔法使いの少年の横だろう……。


 ところが、ヘビン先生は最前列の席を指差した。


「タチバナ君はその席を使いたまえ」


 ――マジっすか!


 思わぬヘビン先生の言葉に、心の中で三下口調で喜ぶ。

 もちろん、表面はお淑やかに取り繕った。


「はい、先生」


 眼鏡ショタに「仲良くしてくださいね」とニコリと微笑んだら、彼は恥ずかしそうに頬を朱に染めて小さく頷いた。


 くぅ、これぞ、ニコポ!

 伝説の技なりぃいいいいい!


 やっぱ、学園編はこうでないとね!


「あ、アリサ君? 何があったか知らんが落ち着きたまえ」

「す、すみませんっ」


 くっはぁあ……失敗した。

 つい高ぶって立ち上がってしまった。もしかしたら声に出てたかも。


 せっかくいい感じだった眼鏡少年が引いている。

 慌ててお淑やかぶってごまかすが、あまり効果は無かった……。ちくせう。





 汚名返上の案を考えていると廊下の方からがやがやと人の声が聞こえる。

 がらりと教室の扉を開けて入ってきたのは、学園長と何人かの研究者風の男女数名。


 ――そして、彼らに囲まれるようにミーアがいた。


「アリサ」


 わたしにミーアが小さく片手を挙げて声を掛ける。

 教室中の視線がわたしに集まった。驚いていないのは学園長とヘビン先生、それからピンクさんの3人だけだ。


 わたしがミーアに手を振り返している間に、学園長がわたしとミーアが知り合いだと皆に説明する。


 その間に学院の職員っぽい男達が5組ほどの机と椅子を教室の隅に配置して去っていった。

 学園長達や研究者風の男女がその席に着く。


「では、ミーア先生・・

「ん」


 ――先生?


 学園長が促すとミーアが教壇に立って授業を始めた。

 どうやら、ミーアは優秀すぎて生徒ではなく教師枠になってしまったらしい。


 ミーア……恐ろしい子っ。


 さて、お約束も終えたところでミーアの授業を眺める。気分は授業参観だ。


 学園の授業は現代日本のように黒板に板書して行うみたい。

 ただ黒板は王祖ヤマトが発明した魔法道具で、杖で魔力を流すとチョークで書いたように白い線が残る物らしい。生産コストが高いので王立学院にしかないそうだ。


 ミーアの授業はやっぱり単語だった。


 板書が終わったら「読んで」の一言。

 生徒達が読み終わった頃を見計らって、長杖で指し示して「基礎」「定石」「安定回路」「収束」「発動」と単語で説明していく。


「ミーア様、その箇所は何を?」

「猶予」


 白衣の男の質問にミーアが答える。

 男は王立研究所の所員らしく、その一言で納得して何やらノートを取っている。


 大多数の生徒が解らないようだったので、ヘビン先生がミーアに耳打ちしている。

 こくりと頷いたミーアがわたしを見て手招きする。


「アリサ。きて」


 もう、ミーアったら仕方ないわね~。

 わたしはヤレヤレ系の主人公のような気分で立ち上がり、うきうき・・・・と教卓へ向かう。


「それじゃ、ミーアに代わって説明するわよ」


 わたしがそう切り出すと、色々な視線が集まった。


「まず、この猶予って言ってたヤツだけど、これは魔法行使時に術者によって魔力の供給量や思考制御に反応して効果を変化させる為に必要なの。呪文の効率化を目指してここをカットしている魔法書を見かけるけど、ここをカットしちゃうと実行時制御コードを増やす余地がなくなって汎用性に欠けちゃうので注意してね。あと知っているかもしれないけど、ジブクラウド博士の魔法解説事典にこの猶予についての解説があるから初めて聞いた人は読んでみて。賢者トラザユーヤの魔法書にも書かれていると思うけど、ジブたんの事典が一番詳しいから――」


 わたしの詳しい説明に生徒達が耳をそばだてて必死にノートを書き込んでいる。

 さっきの炎魔法使いの子だけが驚いたような顔で呆けている。アリサ先生は厳しいから聞き逃したりしたら、後で説明してやんないわよ?


 その説明が分かり易かったのか、ミーアが板書してわたしが解説する授業が確立してしまい、生徒ポジションで学園TUEEEする機会を喪失してしまった。

 授業後も研究者達に囲まれて呪文の解説や改良案を語り合う輪の中に巻き込まれてしまい、眼鏡ショタ少年と仲良くなる事はできなかった。


 教師や上級生用の豪華な学食がタダで食べ放題だったのは嬉しいけど、ご主人様やルルの超絶究極料理に慣れたわたしの舌を唸らせるほどじゃなかった。





「上級魔術の魔法書ですか?」

「ん」


 授業は午前で終わりだったので、学院長に学院の魔法書を閲覧させてもらえないかお願いしてみた。

 もちろん、心証を考えてミーアからのお願いという形にしてある。


「本来なら、生徒への閲覧は許可していないのですが、他ならぬミサナリーア様のお願いとあらば――」

「感謝」


 長くなりそうだったので、ミーアに目配せして話を強引に終わらせた。


 わたしたちは学院長に案内されて、図書館の奥の扉へと向かう。

 学院長によると、この扉は複雑な魔法の結界で守られているので、専用の開錠用の魔法道具を使わない限り開かないそうだ。


「■■ 開錠オープン・ロック


 分厚い金属の扉が開くと黴臭い古い本の匂いが鼻腔を擽った。

 この身体に生まれ変わってから鼻の粘膜が薄いので、ハンカチで素早く鼻と口を守る。


 後ろでミーアが「くしゅん」と可愛いくしゃみをしていたので、妖精鞄から取り出したちり紙とマスクを手渡してあげる。


「はい、ミーア」

「ありがと」


 扉の向こうは三十ほどの書架が並ぶ窓の無い部屋になっている。

 そして、閲覧机には先客がいた。


「学院長様――」


 お姫様のような女性が侍女っぽい娘を二人連れている。


 どこかの上級貴族の令嬢かな?

 ――なんとなく鑑定した結果、彼女は本物のお姫様だとわかった。


 シガ王国の第六王女でシスティーナさん。レベルは17、称号は「禁書庫の主」、スキルは「礼儀作法」「算術」「錬成」「術理魔法」の四つ。

 お付きの二人はレベル30前後の護衛を兼ねたメイドさんっぽい。


 学院長が王女に挨拶して、ミーアとわたしを王女に紹介している。


「そう、貴方が――」


 王女が興味深げな視線をわたし達に向ける。


「わたくし、タチバナ士爵とはぜひお話をしたいと思っていたの」

「光栄に存じます」


 てっきりミーアって言うかと思ったのに、どうしてわたしなんだろう?

 彼女の様子を見る限り、どう見ても社交辞令で言っているとは思えない。


「失礼ですけれど、タチバナ士爵は本当に見た目どおりの年齢なのかしら?」


 ――ま、まさか前世と足して、ん十歳なのを見抜かれた?!


「……は、はい。王女殿下のご質問の意味が分かりませんが、わたしが中央小国群で生まれたのは12年前です」


 もって回った言い方をしたのは、嘘を見抜く魔法道具を王女や侍女達が持っていないか警戒したからだ。


「そう――では、たった数年で貴方達はその高みにまで昇り詰めたのね……」


 たぶん、年始の「謁見の儀」で鑑定スキル持ちの誰かが、わたし達のレベルと年齢を確認したのだろう。スキルなんかはチートなご主人様の作った認識誤認アイテムで、無難なモノが見えるようにしてあるから大丈夫のはずだ。


「殿下、彼女は促成栽培の者ではございません。力を得るに相応しい知識と礼節を兼ね備えております」

「まぁ、学院長がそこまで生徒を褒めるのは初めて伺いましたわ」


 微妙に会話に置いていかれたけど、どうも王女はわたしがパワーレベリングで促成栽培されたと発言して、学院長がフォローしてくれたという流れみたい。

 パワーレベリングは事実なんだけど、そこは訂正しないでおこう。

 レベル50までパワーレベリングするなんて話は聞いた事がないもんね。


「タチバナ士爵、非礼をお詫びいたします。わたくしの無礼を許してくださいますか?」

「はい、王女殿下。宜しければ、わたしの事はアリサとお呼びください」


 ピンクさんやのじゃ姫みたいな小国の王女ならともかく、こんな大国の王女様が素直に非礼を詫びるとは思わなかった。ぴろりろりん、と心の中で好感アップの効果音を鳴らして、王女に微笑みかける。


 そのまま談笑する流れになりそうだったが、ミーアが「本」と呟いてくれたので、本来の目的に戻ることができた。

 私は火、ミーアは水の上級魔術の書かれた魔法書を読む。


 斜め読みを終えて、大まかな概要を帳面に書き込んだ。

 ふと、顔を上げると学院長と王女の会話が耳に飛び込んできた。


「――それは果汁を一滴垂らした水甕みずがめから果汁をより分けるようなものです。神聖魔法や水魔法で果汁を不純物として浄化する事は可能ですが、分離できるような魔法はございません」

「そう、ですか……」


 実験とかで重宝しそうなのに、存在しないのかな?


 イオン化傾向とか浸透率の違いを利用したら分離できそうな気がする。

 こっちにはそんな概念が無いかもしれないけど、便利な魔法なら概念を知らなくてもできそうなものよね。


 そんな事を考えていると王女と目が合った。


「アリサ、何か良い呪文をご存知?」

「いいえ――」


 わたしの否定の言葉を聞いて、期待に満ちた王女の瞳が曇る。


「――ですが、水魔法の『浄水ピュア・ウォーター』の『水に含まれる不浄』を検出するコードを流用して、浄化ではなく分離を行う魔法を新しく作られてはいかがでしょう?」


 分離はちょっち面倒だけど、うちのご主人様なら一晩で組み上げちゃいそう。


「新しく、ですか?」

「はい、無いのなら作れば良いのです」


 王女のびっくりした顔に、ちょっと得意になりながら頷き返す。

 でも、そこに学院長の現実的な意見が水を差す。


「お待ちください。新規の呪文開発ともなれば、研究開発費に金貨千枚は必要となるでしょう。学院の資料や王国の禁書庫の資料が閲覧できる殿下なら、多少は節約できるかもしれませんが――」

「そんなに……」


 学院長の提示した金額に、王女が驚きの声を上げる。


 わたしはミーアと顔を合わせ、今までにご主人様に作ってもらった呪文の数々を脳裏に浮かべる。

 有益なモノからくだらない呪文まで、合計100個くらい作ってもらった気がする。


 ……ま、チートなご主人様だから、いいか。


 さすがに大国の王女様でも、そこまでの大金を右から左に動かせないみたい。

 貴族や商人に出資させるにしても、回収の見込みの無い用途の限定された魔法では出資者を募るだけ無駄だと学院長が補足した。


「でも、新しく呪文を作るなんて発想が出るなんて素晴らしいわ」

「タチバナ卿はミサナリーア様に匹敵する魔法の大家ですから」


 王女の称賛の声に学院長が応える。

 なぜか、私よりもミーアが褒められている気がするが、別に構わない。


 その後、ミーアも混ざって魔法理論や魔法書の話題で日が傾くまで語り合った。

 王女とは身分の違いがなければマブダチになっていたかもしれない。その勢いのまま王女のお茶会という名目の研究室ご訪問の約束までしてしまった程だ。





 そろそろお開きという段になって、王女がこんな事を尋ねてきた。


「そういえば、大晦日の日に空を飾った『花火ファイアワークス』の魔法はペンドラゴン子爵が公都の貴族たちに伝授したと伺っていますけど、あれはもしかしたら、アリサが作ったのではないかしら?」

「いいえ、あの魔法は私たちの主人のサトゥー・ペンドラゴン子爵が作ったものです」


 王女の誤解を即答で解く。


 うちのご主人様は目立つのを不思議なくらい忌避するけど、すでにやらかした事を肯定するのは問題ないはず。

 オーダーメイドの巻物が嬉しかったからって、新魔法をガンガン作ってシーメン子爵の工房に持ち込んでいたもんね。


「――本当に?」

「ん」


 信じられないという顔の王女にミーアがこくりと頷いて「天才」と言葉を足した。


「でしたら、今度のお茶会にはペンドラゴン子爵もお招きいたしますわ。あの美しさを追求した遊び心のある魔法を作った方と、一度お話ししてみたかったのです」


 ――やっちまったぁ。


 恋する乙女のような王女のキラキラとした顔を見て、自分の迂闊さを呪った。

 まさか、自分の手でフラグ建設を補助してしまうとは!


 わたしの横ではミーアがライバル出現を予感して眉を寄せる。

 唯一の救いは、うちのご主人様が権力闘争に巻き込まれる危険性がある王女に恋慕する可能性がゼロという事くらいだろう。


 はぁ、脈無しのアーゼたんをさっさと見限って、わたしやルルに手を出してくれないかなぁ~

 ま、無いよね……。


 ああっ! 早くご主人様を悩殺できる大人な身体が欲しいっ!


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