SS:ルルと食材買出し
「あれ? ルル、朝早いんだね」
「おはようございます、ご主人様」
着替えの手を止めてご主人様に朝の挨拶をする。
早いと言っているけれど、夜中に起きた時もご主人様はベッドに居なかったから、今日も寝てらっしゃらないかもしれません。
過労で倒れるご主人様が想像できないけど、母だって急に倒れたもの。
私が言うのは僭越だけど、心を鬼にして睡眠を取るように言わないと!
「ご主人様――」
「ルル、着替えの途中だよ? 目のやり場に困るから、下着だけでもちゃんと着てくれないかい?」
――え?
シタギ?
ギギギと音が聞こえそうなぎこちない動きで視線を下げる。
アレハ、サッキ、キヨウトシテタ、ぶらじゃー。
私は胸を押さえて床にしゃがむ。
ああ、顔が熱い。
ご主人様に、私みたいな醜女の裸を見せちゃうなんて……お目汚しにもほどがある。
「ご、ごめんなさい。ご主人様、こんなものみせちゃって」
「ああ、すまない。ちょっと寝不足で反応が遅れちゃってね。それに眼福だったから、謝るならオレの方だよ」
後ろを向いたご主人様が、優しくそう言ってくれた。
私は慌ててブラジャーを着ける。最近バストアップ体操が効いてきたのか、少し大きくなってサイズが合わなくなってきた。
今度アリサに頼んでサイズを調整してもらわないと。
「ルル、アリサが起きたら、この包みを渡しておいてくれ。危ないから子供達が包みを開けないように注意してね」
「はい、分かりました」
ご主人様から受け取った包みを、一時的に自分の妖精鞄に入れる。
アリサの鞄に入れておきたいところだけど、自分の妖精鞄以外は出し入れができないから仕方ない。
私に手を振って部屋を出ていくご主人様。
――あっ! もしかして、お腹が減ったのかも。
通いのメイドさんが来る時間はもう少し後だから、私が作らないと!
私は急いでエプロンを掴んで、ご主人様の後を追った。
◇
「本当に梅粥で良かったんですか?」
「ああ、胃に優しいし、何よりルルの料理は美味しいからね」
えへへへー、誉められちゃいました。
「そうだ、この時間なら王都の正門近くの通りで朝市をやってるんだけど、行ってみるかい?」
ご主人様のお誘いに、壁に掛かったご主人様お手製の時計を確認する。
皆が起きてくるまで二時間あるから――大丈夫よね?
「はい! 行ってみたいです」
「じゃあ、これを食べたら出発するから、ちゃんとした服を着ておいで」
――え?
あああ……。また、やっちゃいました。
下着姿にエプロンだけなんて、はしたないにもほどがあります。
これじゃ、痴女です。
私は反省しながら、慌てて部屋に駆け戻って着替えを済ませました。
◇
「やっぱり王都だけあって、品数が豊富だね」
「はい! 目移りしちゃいます」
調味料もいっぱいあるし、見たことのない食材がいっぱいで、どう使うか考えるだけでうきうきしてくる。
できれば、エルフの里に行く前みたいに、ご主人様と二人で色々と料理を研究できたらいいのに……なんて、贅沢ですよね。
「あっ、ご主人様、あれって小さいけどマグロじゃないですか?」
「本当だ、見に行こう、ルル」
ご主人様が嬉しそうに微笑んで私の手を引いて走り出した。
ご主人様ってば、本当にマグロが好きなんだから。
私はだらしなく緩む頬を繋いでいない方の手で押さえて、束の間の幸せを堪能しました。
◇
買い物を済ませ、ご主人様と屋台の横のベンチに腰掛けて軽食を戴きます。
沢山歩いたせいか、挽いたばかりの蕎麦の香りが食欲をそそります。
「蕎麦掻は初めて食べたけど、意外に美味しいね」
「はい。前に食べたお蕎麦と違って頼りないですけど、これも美味しいですね」
私は初めてだったけど、物知りなご主人様はご存知だったみたいです。
王都にはまだまだ私の知らない料理がいっぱいみたい。
迷宮都市で戴いたお小遣いが使い切れないほど溜まっているので、食べ歩きしてみるのもいいかもしれません。
ご主人様と二人っきりで、なんて贅沢はいいません。
皆一緒に美味しいお店をいっぱい探検して、楽しみたいです。
色んな土地の色々な料理を食べて、今度はその料理を別の土地の誰かに振舞ってあげる。
最近、そんな事を夢見る時があります。
奴隷の身には過ぎた夢かもしれないけど、いつかお金を貯めて実現できたらいいな。
そして、その時、私の横には――。
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