SS:タマと悪者退治

「夜のお散歩~?」


 お出かけするご主人様を見つけたので、緊急タイホなの。

 だって、アリサとミーアに頼まれてるから。


「ああ、見つかっちゃったか。皆には内緒だよ?」

「あい」


 ご主人様に翼靴ウィングブーツを穿かせてもらって一緒にお出かけ。


 ミーアやアリサは「ご主人様が一人で出かけようとしたら捕まえて」って言ってた。

 でも、今はタマと一緒だから、大丈夫。


 ――大丈夫だよね?


 隣のお屋敷の天辺から、ぴょ~んと飛んで出発!

 ご主人様の黒いマントが風に揺れて楽しそう。白い仮面も笑ってる。


 タマは上手く飛べないから、ご主人様にだっこしてもらう。


「どこまで~?」

「もうすぐ――ほら、あそこだよ」


 ストンと尖塔の天辺に着地。

 マントは風に揺れてるのに、ご主人様はぴくりとも揺れない。


 ――さすが、なの。


「ほら、あの悪者を退治するんだよ」

「悪者~?」


 ご主人様の指差す方を見ると、黒ずくめ達が武器を持って路地裏に潜んでる。


「ウチの従業員の実家を襲ったらしいんだ――って、そんな話は後だ」


 ご主人様がタマを顔の前に持ってくる。

 見つめられると、恥ずかしい、にゃん。


「いいかい、あいつらは迷宮の魔物より遥かに弱いから、手加減を忘れずにね」

「あいっ!」


 シュタッのポーズでお返事。


「さあ、忍者の時間を始めよう」


 ご主人様の言葉に、コクリと頷く。

 だって、ニンジャは喋らないから。


 ご主人様がタマを抱えたまま黒ずくめ達の正面に着地する。


「なんだ、キサマらは!」

「お前達の敵さ」


 着地と同時にタマは影に潜む。


「なんだ? ピンクの塊が消えたぞ?」

「それより、こっちの怪しい仮面を殺せ!」

「「「応!」」」


 黒ずくめ達が、一斉にご主人様に襲い掛かる。

 タマは助けに行かない。


 だって、必要ないから。


 ――しゅごい!


 ご主人様が6人に増えて、6方向から襲ってくる黒ずくめ達を攻撃してる!

 みんな剣を振り下ろすヒマもなく、打ち倒されて地面に転がった。


 タマも覚えなきゃ!

 だって、ニンジャだから。



 見とれてばかりじゃ、叱られちゃう。タマも仕事をしなきゃ――。


「向こうが騒がしいな」

「衛兵に見つかったのかもな」

「オレ達だけでも、さっさと奪って、殺して、逃げようぜ」

「だな」


 悪者発見。

 しゅりけん、しゅっ、しゅっ、しゅ~?


 ――あれ?


「ふん、なかなかやるようだが、元赤鉄の俺様には通じないぜ?」


 手加減しすぎちゃった。

 オジサンが大斧で襲い掛かってきた。


 居合い一閃なの。

 ニンジャトーをしゅぱんと抜いてシュシュッと振ると、斧なんて真っ二つ。


「うぉ、なんだ? 赤い刃が飛んできた?」


 うにゅ、魔刃砲が出ちゃった。

 ――あっ、ご主人様が向こうで魔刃砲をキャッチしてくれてる。


 タマは手を振ってご主人様にありがと、ってする。


 あれ? でも、さっきまで向こうで戦ってたのに?

 振り向くと、そっちでもご主人様が戦っていた。


 残像! アリサが魔王ごっこでよくやってる「それは残像だ!」にゃん!

 さすがはタマのご主人様。


「魔法の武器か。この卑怯者め!」


 オジサンがぷんぷんって怒ってる。


 卑怯じゃないもの。

 それに卑怯って言った方が卑怯なの。


 だって、ニンジャは正義のミカタ、だから。


 タマも、残像、するっ。


「くっ、瞬動か!」


 オジサンの斧をクナイで受け止めながら、距離を取る。

 う~ん、ちょっと違う。


 オジサンが短剣を投げてきたのをひょいひょいと避けながら、向こうで戦うご主人様をよく見る。


 う~ん、難しい。

 ちょっと動いて、ぎゅん、って動くのかな~?


「ちっ、簡単に避けやがって、これなら、どうだ! 『炎よ』」


 オジサンが火石の付いた短い杖をこっちに向けてきた。

 小さな火の弾が飛んでくる。


 無駄にゃん。

 これは、ここを、斬・れ・ば――解決っ。


「なんだとぉ! こいつ魔法を切りやがった!」


 今度は、タマの番。


 ちょっと動いて、ぎゅん、って動く。


「な、増えた、だと?!」


 成功したみたい。

 でも、勢い余ってオジサンのお腹にぶつかっちゃった。


 口から血を吐いて死にそうなオジサンに、ご主人様が回復魔法を掛けてくれた。

 ご主人様、ありがとなの。


「タマも倒し終わったみたいだね。衛兵の人達も来たみたいだし、こいつらを引き渡したら帰ろうか」

「あい!」


 ご主人様が、えーへーの人に悪者を渡した後、お屋敷に帰る。

 途中で変装を解いて「ぴーぷー」って鳴るお店に寄って「ヨナキソバ」を食べた。


「まさかラーメンの屋台があるなんてね」

「美味しい~」


 今度はポチや皆も一緒に「ヨナキソバ」を食べに来たい。


「そうだね、今度はポチ達も連れて食べに来ようか」

「あい!」


 だから、ご主人様の言葉が嬉しくて、シュタッのポーズで元気良くそう答えた。


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