SS:アリサと悪巧み

「ご主人様、ルルの成人祝いなんだけど、白と黒どっちがいい? あ、赤もあるわよ」


 アリサが絹の布地を見せながら問うてきた。


「どっちって、ルルなら白が似合うんじゃないか?」

「そうよね。やっぱ純白がいいわよね」


 ルルの黒い髪に似合いそうだ――。


 ――って、純白? 白と言わないあたり微妙に不穏当な印象がある。


「待て」

「何よ?」


 オレはアリサを呼び止める。


「聞きたい事が二つある」

「わたしの秘密は高いわよ?」


 変な悪女みたいなポーズを取るアリサをスルーして、聞くべきことを優先する。


「成人の祝いって、ルルの誕生日が近いのか?」

「あら? 言ってなかったっけ? こっちには誕生日を祝う国はほとんどないのよ。大抵は七歳と十五歳の時の新年にお祝いをするだけね」


 ふむ……と、メニューの日付を確認する。

 今が十月二十八日だから、あと二ヶ月ほどか。それだけあれば振袖くらい作れそうだ。

 安堵するオレを嘲笑うようにアリサの言葉が続く。


「一年は十ヶ月だから、あさってね」


 ――なっ!


 そういえば前にアリサから、一年は十ヶ月だと聞いた事がある。


「……後二日か」

「まさか、本当に何も用意してなかったの?」


 一応、料理大会でルルが優勝した時に着せる晴れ着はあるが、成人式でチャイナドレスはマズイ気がする。

 アリサと冗談で作ったバニースーツを渡したら泣かれそうだし……。


 ――考えろ! サトゥー!


 ストレージのアイテムを流し読みつつ、作れる物を脳裏に浮かべる。


 ――その無駄に高いINT値の力を見せてみろ!


 女性の喜びそうな品と言えば、甘味か自分を飾る品や化粧品、他には旅行とかか。


 甘味はさすがに隠し玉が無い。

 装備品も、ドレス類やメイド服なんかは試作するたびに与えているから、今更感が強い。

 ここは賢者の石をふんだんに使ったティアラとか……はダメだな。贈り物は金額じゃない。


 化粧品なら幾つかレパートリーがあるが、ルルの美貌をかえって損ねそうだ。

 ならば、香水とか――そうだ、口紅がいいかもしれない。


 オレの幼馴染も誕生日プレゼントをねだってきた時に口紅をやったらやたらと喜んでいた。

 金欠だったので百均の口紅を与えたのだが、安物の口紅に小躍りする幼馴染の様子に居た堪れなくなって、後日バイト代が出た後にちゃんとした口紅を買ってやったのは良い思い出だ。


「口紅でもプレゼントするよ」

「あー、それは喜ぶかもね。後日ご主人様の唇に付いてても見なかった事にしてあげるわ」


 アリサがそう言って色っぽい表情を作って笑う。

 ……それはルルにキスされた場合の事を言ってるんだよな? オレに女装趣味はないぞ?


 ――あれ? さっきアリサが色を聞いていたけど、二日で晴れ着なんて作れるのか?

 そう思ってアリサに確認した。


「ああ、もちろん、勝負下着に決まってるじゃない! ご主人様はサイドはヒモがいい? それともレース派?」


 ぐへへと笑うアリサにお仕置きをして、さっきの白い絹布を半分貰ってルルのドレスを作ってやった。

 裏布にドレスアーマーでも使っているクジラのヒゲを解した糸を使ったので、普通の金属鎧よりよほど防御力が高い。


 なお、セクハラになるので、アリサが本当に勝負下着を作ったのかは確認していない。



 ……後日、オレが贈った口紅を付けて白いドレスを着たルルの晴れ着姿は素晴らしかった。

 あまりの攻撃力の高さに眩暈がする程だ。

 アーゼさんがいなかったら、その場で求婚しそうな眩しさだった。


「私は三年後よ。その時は絶対、ぜったい今みたいな顔させてやるんだから!」


 腕を組んで仁王立ちしたアリサがムッハーと鼻息荒く、そう宣言をした。

 風車に挑む騎士の様なアリサの無謀な目標に、心の中だけでエールを贈っておいた。


 ――がんばれ、アリサ。

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