第22話




「ダンフォース、ジュディス、おめでとう。」



 ジュディスは、ダンフォースと婚姻届を出した後、サリーとエドガーに挨拶するために宿屋へ寄った。サリーとエドガーは満面の笑顔で祝福してくれた。


「ジュディス、良かった。本当に良かった。」


 サリーは涙を滲ませ、ジュディスを優しく抱き締めた。


「ダンフォース、ジュディスをしっかり守ってやれよ。頼んだぞ」


「はい。必ず幸せにします。」


 エドガーの激励に対し、ダンフォースがはっきりと答えた言葉に、ジュディスは頬を赤く染めた。ダンフォースがこんな風に誰かに語るのは初めてだ。自分達が新婚であると、じわじわと実感が湧いていく。


「あら、ジュディス照れているの?」


 揶揄うようにサリーが言うと、余計に顔の熱が上がっていく。


「もし、夫婦喧嘩したら家にいらっしゃいよ。実家なのだから。」


「・・・っ!はいっ!」


 当たり前のように、サリーとエドガーの家を実家だと言ってもらい、ジュディスは温かなものが心に流れていくのを感じた。二人にたくさんお祝いして貰い、帰ろうとする時、エドガーがダンフォースへ声を掛けた。



「ダンフォース、もう行けるな?」


 力強く頷くダンフォースを、ジュディスだけが不思議そうに見ていた。




◇◇◇



「もう一ヶ所、挨拶したい所があるんだ。」


 ダンフォースに連れられ、到着したのは町の外れにある霊園だった。道中、ダンフォースは初めて、自分を育ててくれたサミュエルのことを、ぽつりぽつりとジュディスに語った。姉のことすらつい最近まで話していなかったのは、姉の話をしたら、どうしても両親のこともサミュエルのことも触れなければならないからだ。ダンフォースは、今までサミュエルのことも、両親のことも、上手く心の整理がついていなかった。



「亡くなってから、一度も来れなかった。」


 墓参りなんて来てしまったら、サミュエルの死に向き合わなくてはならない。ダンフォースには、それが恐ろしかった。


「私も、お祖父ちゃんたちのお墓行くの辛かったな。今も、行くと悲しくなるよ。」



「俺も、まだ向き合えていないと思う。だけど、向き合えていなくてもいいんだって、最近ようやく思えるようになった。ジュディスのおかげだ。」



「え・・・?」





「向き合えていない俺でも、ジュディスは好きでいてくれるだろう。」


 視線を逸らしたダンフォースの耳は赤く染まっていた。ジュディスは繋いだ手に力を込めた。



「今日はサミュエルにジュディスを紹介するから、近いうちジュディスのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに俺のこと紹介してくれる?」


 ダンフォースの素敵な提案に、ジュディスは息が苦しくなるほど幸せな気持ちに包まれた。

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