第15話 ダンフォースside




 学校を卒業してから、サミュエルの元で陶芸家としての仕事をするのは大変ながらも充実していた。サミュエルは言葉数は少ないが、たくさんのことを丁寧に教えてくれた。俺の作ったものを見る、穏やかな目は今でも忘れられない。



 だが、そんな穏やかな日々は唐突に終わってしまった。ジュディスの祖父母の命を奪った流行り病で、サミュエルも同じように亡くなってしまった。あっという間のことだった。




 それからは、全ての色を失ってしまったかのような、真っ暗な穴に落ちてしまったような、悲しみを奥底に仕舞って、ただただ時間が過ぎるのを待つ日々が始まった。サミュエルは、親らしいことはあまりしてくれなかったけれど、それでも俺を大切にしてくれていた。姉以外で、俺を大切にしてくれる人はサミュエルが初めてだった。



 サミュエルを思い出すことで悲しみに暮れるのが恐ろしくなり、陶芸の仕事に没頭することしか出来なかった。ジュディスが働いている宿屋のエドガーやサリーは、サミュエルの旧友でもあり、残されたダンフォースのことを気にかけてくれ、サミュエルがいなくなっても注文を欠かすことはなかった。・・・ただ、エドガーやサリー以外の従業員が商品受け取りに来るときは、嫌々来ているのも感じてはいた。



 だから、初めてジュディスが来たとき、また下っ端が押し付けられて来たんだろう、としか思えなかった。俺はいつもそっけなく、挨拶すら返さない嫌な男だった。それなのにジュディスは、いつも訳もなく嬉しそうに、にこにこして、元気に挨拶して、名残惜しそうに帰っていく。



 ある時から、「差し入れ持ってきましたよ!」と、焼き菓子や軽食を持ってくるようになった。お金を出そうとすると「エドガーさんに、工房まで山登りしているご褒美のお小遣い貰っているんです。内緒ですよ!」と悪戯っ子のように笑っていた。それが可愛くて仕方なかった。


 俺は、少しずつジュディスが来るのを心待ちにするようになった。



 ジュディスの話を聞くのが楽しかった。ジュディスの話は、美味しいパン屋の話、楽しいお客さんの話、近所で子犬が生まれた話・・・本当に他愛ない話で、だけど、ジュディスから聞く世界は、色鮮やかだった。


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