第12話
工房に着くと、見慣れない大きな箱がいくつも置かれていた。
「ジュディス、開けてごらん。」
優しく微笑むダンフォースに促され、訳の分からないまま近くにある箱を一つ開けてみる。そこには。
使い古された、お皿。
年季の入った、花瓶。
色褪せた、絵画。
薄く染みがついた、テーブルクロス。
多すぎる、カトラリー。
他の人には、古ぼけた、塵のようにも思える中古の品々。だが、それを見て、ジュディスの目には涙が溜まり、すぐに溢れてきた。
「・・・こ、れ、おじいちゃんとおばあちゃんのレストランのもの・・・どうして。」
ジュディスは、祖父母が亡くなって、家を追い出されるとき、どうか祖父母の物を持たせて欲しいと叔父に懇願した。しかし、非道な叔父はジュディスに皿ひとつ持たせなかった。ジュディスの祖父母との思い出は、ジュディスの心の中に残っているものしかなかった。それすら、時と共に色褪せていくことが、ジュディスには恐ろしかった。
「ジュディスから叔父さんの話を聞いてから、どうにかしてジュディスにお祖父さんたちの物を取り返してやりたかった。」
「ダンフォース・・・。」
「あの人は俺の姉だ。弁護士をしていて、叔父さんのことを相談したんだ。それで何度か工房に来たり、手紙のやり取りをしてた。」
「お、お姉さん…じゃあ何で紹介してくれなかったの?」
「•••俺は子どもの頃から風変わりだと言われてて、その頃のことをジュディスに言いふらされそうで怖かったんだよ。」
ダンフォースに抱き寄せられる。耳元で「ジュディスに嫌われたら生きていけない•••」と囁かれ、ジュディスは身体の力が抜けてしまった。するとダンフォースがまた抱き締める腕に力を込めた。
「それから、姉が調査した結果、ジュディスにはお祖父さん達の物やお金を相続する権利があることが分かって、一緒に叔父さんの所へ行った。」
「えっ!叔父さんの所に•••?」
「ジュディスに黙っていてごめん。だけど取り返せるか分からなかったし、あの叔父さんに会わせたくなかった。それに・・・お祖父さん達の物はほとんど売り飛ばされていたんだ。」
「じゃあ、これは・・・。」
「売り飛ばした質屋に行ったんだよ。そしたらジュディスのお祖父さん達をよく知っている人のお店だった。」
叔父は、祖父母のレストラン近くの質屋に売り飛ばした。だが、祖父母の物だと気付いた質屋の店主が、いつかジュディスが来た時に渡してやりたい、と売らずに保管していてくれたらしい。
「質屋の人も、他の近所の人たちも、ジュディスのことを心配していた。力になってやれず、申し訳ない、とも。」
ジュディスのことを祖父母の代わりに心配してくれていたのは、サリーやエドガーだけでは無かったのだ。胸が締め付けられる思いだった。
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