第9話


 

 ジュディスは帰宅すると、ポストにいくつか郵便物が入っていた。ダンフォース宛の物も中身を確認していくのがジュディスの仕事だった。ダンフォースは事務処理が苦手で、書類を置きっぱなしになりがちだったので、ジュディスが買って出たのだ。


「あれ?これって・・・」


 ダンフォース宛の郵便物のほとんどは、馴染みの業者から送られてくるものばかりだ。しかし一つの封筒の差出人が見慣れない女性の名前だったのだ。ダンフォースへ個人から送られてくる手紙なんて今まで無かった。




「ジュディス!」


 恐る恐る封筒を開けようとペーパーナイフを当てると、ダンフォースの怒った声で制止された。


「ダンフォース・・・?」


「あ・・・大きな声を出してごめん。これは良いんだ。」


 封筒をジュディスの手から取り、隠すようにしてポケットに入れてしまった。今までにダンフォースが郵便物を触ることを嫌がることはなく、むしろ喜んでくれていた。それを拒否されてしまい、ジュディスの目には涙が溜まり始めた。


「ジュディス、ごめん。せっかく整理してくれたのに、大きな声出したりして。ごめん。」


 ダンフォースはジュディスを強く抱き締めた。だけど、ジュディスはダンフォースが大きな声を出したことで悲しかった訳ではない。ジュディスに何か隠していることがはっきり分かったことでショックを受けていたのだ。ジュディスの頭にはダンフォースに会いに来ていたあの美しい女性が散らついていた。ダンフォースの謝罪の言葉も、どこか遠くで聞こえていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る