第6話


 ある日、ジュディスの働く宿屋で珍しくキャンセルが重なった。お昼前、サリーから「ジュディス、もう帰っていいよ。明日まで臨時休業だ」と言われ、ジュディスはダンフォースと過ごせる時間が増えたと内心喜んだ。




 ジュディスはるんるんで帰ると、ダンフォースの工房から珍しく人の声が聞こえた。こっそりといつもの窓から覗くと、中には真っ赤なドレスを着た、少し気の強そうな美女がいた。美女は高価そうな装飾品を身につけており、それがよく似合っていた。二人は楽しそうに談笑しており、それだけでジュディスは胸が痛んだ。


 どこか逃げ出そうと思っても足が言うことを聞いてくれない。美女はダンフォースを気安く触り、ダンフォースも嫌がる素振りを見せなかった。



(やめて、触らないで!)



 胸の中の叫びは、言葉にはならなかった。胸の辺りを刃物で切り裂かれたような痛みを感じた。ジュディスは呆然と立ち尽くし、美女が帰ってもそこから動けなかった。




◇◇◇



「…ジュディス?」


 どのくらいの時間、そこに立ったままだったんだろう。ダンフォースが驚いた様子で名前を呼んだ。気がつくと雪がちらついていた。



「…あれ、ダンフォース?」


「何でこんなところに?」


「仕事が早く終わって、帰ってきて、それで…」


 体がぐらりとして、立っていられなくなったジュディスを、ダンフォースが慌てて抱き止める。


「ジュディス、ひどい熱だ。いつからここにいたんだ?」


 呆れたような声色にジュディスは涙が迫り上がるのを感じた。


「ごめんなさい…」


 上手く言い訳が思いつかず、涙目になって謝るジュディスに、ダンフォースの瞳が慌てたように揺れた。


「怒ってない、心配してるんだ。こんなに冷たくなってる。」


 ぎゅっと抱き締められて、いつもなら空も飛べそうなくらい幸せな気持ちになるのに、今はただ寂しいだけだった。

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