第8話 魔女の約束

「イソトメ様さえ居なくなれば、あんな神様さえ居なければ、私もフレタも死ななくても済むんです。アランナ様、ご存知ですか? ジバの村には、七十歳や八十歳を超えているご老人達がたくさん居るんですよ。私よりずっとたくさん生きている人が居るんです」

 一度口にすると、止まらなくなってしまった。

 アランナはジバの村の大人ではない。魔女の本屋の店主だ。突然訪れたミレイに、親切にしてくれた魔女だ。

 だからこれはただの八つ当たりだとわかっていた。わかっていても、止められなかった。

「私とフレタは十八歳になったら殺されるのに、七十年も八十年も生きている人が居るんです。なんであんな人達のために、私達が死ななくちゃいけないんですか。なんであんな人達のために、私とフレタが殺されなくちゃいけないんですか!」

 ジバの村の大人達は、生贄の娘達は家畜と同じだと言った。病のために死んだカレンを悼むこともなく、ただイソトメ様に捧げる生贄の数が減ったことだけを嘆いていた。

 そんな連中のために、何故ミレイやフレタが死んでやらなければならないのか。

「ジバの村なんかどうでも良い! 災いのせいで滅びるならさっさと滅べば良いんですよ! あんな人達のための生贄になんかなるもんか、あんな人達のために、殺されてたまるもんか!」

「そう。そうだね。その通りだよ」

 握りしめた拳を、柔らかな女の手が覆った。

 ミレイの握り拳を包み込むように、アランナが両手を被せている。

「そんな連中のために、君が死ぬなんてありえない。あってはならないことだ」

 それから、魔女アランナは静かな声でこう言った。

「大丈夫だよ、ミレイちゃん。私が何とかしてあげる」

「何とか……って」

「私が、そのイソトメとやらを封印してあげよう」

 ミレイは目を大きく見開いた。アランナは笑っている。

「そんなにびっくりしないでよ。大丈夫だよ。私は世界を滅ぼす魔王を封印した魔女なんだから」

 ミレイの目を真っ直ぐに見つめて、魔女アランナは宣言した。

「魔女アランナの名に掛けて約束しよう。必ずイソトメを封印する。ミレイちゃんもフレタちゃんも、生贄になんかさせない。私が助けてあげる」

 魔女の約束。それは魔法の言葉だ。己の名前に掛けて誓った約束であれば、魔女は必ずそれを守る。

「本当··········本当ですか、アランナ様」

「本当だよ。絶対だ。だから、もう大丈夫」

「ありがとうございます…………ありがとうございます! アランナ様!」

 ミレイはそれを知らない。それでも、この魔女の言葉なら、信じられると思った。

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