絶版本屋への魔本

葛鷲つるぎ

第1話

 蝋燭の火を灯し、遮光カーテンをきっちり締めて、僕は自分の部屋を振り返った。

 絶版した本を手に入れることが出来る魔本。そこに記された通りに儀式を行うと、絶版だけを取り扱う本屋への入口が開くという。


 この魔法陣を描くのには、とても苦労した。ちゃんと描けていないと魔本を円の中央に置いても、うんともすんとも言わないのだ。手順通りに描けると、魔本はほのかに装飾が紅く光る。


 こういう本に付き物なのは実は魂を対価にするとかあるけど「しない」と書いてある。

 絶版の苦しさを解消してくれるような魔本なだけあって、至り尽くせりだ。


 そう。僕には欲しい本があった。電子書籍しか配信されず紙の本がないまま絶版が決まった本だ。出版社が潰れたのでも人気がない古すぎる、でもない。不祥事。作者の裏切りによるものだ。


 悔しかった。恨めしかった。作品を好きでいるには作者のことを忘れるしかない。だけど、絶版になってしまった。

 とうしても過ぎってしまう。

 だから僕は魔本を手に入れた。苦節十余年。この時を待っていた。


 儀式が完成して、部屋の中に風が生まれて大きく渦巻く。空中の魔本はこの風を吸い込んでいくと最後に大きく怪しく光って僕の目を焼いた。


 目に痛みを感じながら、瞼を持ち上げる。そこには装飾が魔本と同じ扉があった。

 扉は部屋の中に宙を浮いていられるくらいには小さかった。でも、通れないわけじゃない。


「成功だ!」


 僕はおおいに喜び、ドアノブを回した。

 扉の向こうは、一面の書架。

 本当に、あったのだ。


 僕は目を輝かせ、本の海に飛び込んだ。





「衰弱した一名を回収。幻影を見せるタイプの偽物ですね」

「本物はその絶版本屋にあるのにねぇ。でも幻影タイプで良かったわね、きっと彼も裏切りの怨嗟に飲み込まれてたわ」

 

 本物の魔本にはもう一つ注意書きがあり、それはこう書かれてある。


 純粋に欲しいと思う心でなければ、扉は開きません。

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絶版本屋への魔本 葛鷲つるぎ @aves_kudzu

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