第7章 潜入

エルナ村で起きた事件から3日が過ぎた。

あれからギルド西風、ギルド東雲のメンバーは慌ただしい日々が続いた。

王からの依頼でエルナ村に発生したオークやオークキングの原因を究明するよう指示があったからだ。

一番の情報源を持っている、俺とセシリー、村の人たちの意見を参考に調査が実施された。が、いまだに原因は解明できていない。

第二のエルナ村を出さないためにも、一刻も早い対処が必要になるが手掛かりすら得られていなかった。

そして、エルナ村の人たちはというと、村の建物は半分以上が崩壊し、住む場所を失った人がたくさんいた。

中には自分の家族を失った人もおり、結局、あの事件では5人もの人が亡くなったらしい。

ヴェルナーがギルドに頼んで用意してもらった宿舎で受け入れてはもらったものの、村人全員に支援を続けることはギルドだけでは困難だった。

しかし、現場で実際に村の人たちの苦しみを感じた俺は、何とかできないかと思い、せめて最低限の保護だけでもできないかと、父さんと一緒にライゼン王に直談判しにいったのだ。

結果、村が復旧するまでは支援をしてくれることになり、村の人たちもとても感謝していた。

そして、いま俺はというと、リーサと一緒にギルドに向かっている途中だった。


「はあ、まさか王に直談判していたなんて……聞いた時は本当に腰を抜かしそうになっちゃったんだからね?」


隣で一緒に歩いている、リーサは今でも信じられないと言った顔をして言った。


「悪かったって。俺も駄目元で頼んだわけだし」

「それでも普通、一般人が王に直談判しようなんて思わないよ……セシリーだってすごい驚いていたし」


実は王とのやりとりはリーサとセシリーにだけ話した。

二人なら信頼できるし、どうせいつかは知られる気がしたので事前に言っておいた方がいいと思ったからだ。

ただ、その話を聞いたリーサとセシリーは今までに見たことのないような驚き方をしていて、普通じゃない、ありえないと、まるで異常者を発見したかのような態度を俺に見せてきた。

まったく……失礼極まりない。


「あ、ちなみにリーサとセシリーの話をしたら、今度会いたいって言っていたぞ?」


王に会いに行った時にユウリィとも話をする機会があった。

……まあ、正確には部屋に連れていかれたのだが。

その際、リーサやセシリーの話もしたため、会って話してみたいと言っていたのだ。

そのときのユウリィの微笑みがリーサの冷たい怒りに似ていたのは気になったが。


「ええっ!姫様が!?無理だよ!そんな簡単に会えるものじゃないでしょ!?」

「いや、でも本人が言っていたわけだし……それにリーサは一回会ったことがあるだろ?」


王都で黒づくめの人物を対処した後日、俺が王やユウリィと謁見した後にリーサも呼ばれていたはずだ。


「たしかに会ったけど!でも、そんな気軽に会って話すような人じゃないでしょ!」

「いや、だから本人がいいって言ってるのに……」


その後、俺がリーサをなだめているうちに、ギルドに到着したため中に入った。

中に入ると、エリスさんと話していたセシリーがこちらに気づき、駆け寄ってきた。


「二人ともおはよう!……って、もしかして二人一緒に来たの!?ずるいっ!」

「ずるいも何も、お前の家は逆方向なんだからしょうがないだろ?」

「そうだけどさ!……むぅ」


セシリーは頬を膨らまして不機嫌になってしまった。

エルナ村で見せていたあの真面目な感じはどこにいったのやらと俺は思った。


「そう拗ねるなよ。今度、一緒に飯でも行ってやるから」


俺はそう言って、セシリーの頭に手を乗せた。


「う、うん。わかったよ……約束だからね?」


すると、セシリーは顔を少し赤らめ、照れている様子を見せた。

ただ、そんな俺たちのやりとろを近くで見ていたリーサは、不気味なほど静かに微笑んでいた。

俺はそれに気づくと、咄嗟にセシリーの頭から手を離した。


「そ、そういえば、リーサやセシリーはギルドマスターに会ったりしたことはあるのか?」

「……私はないよ?」

「ボ、ボクは一回だけあるかなー」


リーサの静かな怒りに俺もセシリーも未だに恐れを感じてしまう。

ちなみに、なぜこの話題を出したのかというと、そのギルドマスターに俺たち三人が呼ばれたからだ。

ギルドマスターはその名の通り、ギルドをまとめる立場……つまりは長だ。

だが、西風のNo,2でB級のセシリーですら一回しか会ったことのない人に、なぜかD級の俺すらも呼び出したのだ。


「やっぱり、シンが王様に直談判したからじゃないかな……?」

「ああ……ボクもそう思うよ……」

「お前ら……」


二人揃ってこちらをジト目で見てきた。

そもそも、それが理由だったら呼び出されるのは俺一人なんじゃないのか?


「皆さん、お揃いのようですね」


すると、俺たちの元に近づいてきたエリスさんが話しかけてきた。


「おはようございます、エリスさん。助けてください」

「え?あ、おはようございます。痴話喧嘩しているところ悪いですが、ギルドマスターがお呼びですので、着いてきてもらえますか?」

「あ、はい……」


エリスさんは俺の助けをスルーするかのように用件を伝えてきた。

俺は少し寂しい気持ちになりながらも、リーサ、セシリーと共にエリスさんの後に付いていく。


「……こちらになります」


俺たちはギルドの従業員以外は立入禁止のエリアを歩き、普通の部屋の扉二枚分の大きさがある扉がある部屋の前へと案内された。

そして、エリスさんはその扉をノックする。


「ギルドマスター。例の3名をお連れしました」

「……ああ、中に入れてくれ」


すると、部屋の中からは若そうな男の声が聞こえてきた。


「それではどうぞ。失礼のないようにお願いしますね?」

「はい……失礼します」


俺たちはエリスさんに扉を開けてもらうと、中に入っていく。

部屋の中はかなり広めで、壁際にには大きめの本棚や本がいくつか置かれていた。

部屋に入ってすぐ手前に机やソファも置かれており、6人は座れそうな大きさだった。

そして、部屋の奥の大きめの机に一人の男が座っていた。

俺たちが部屋に入ってきたことを確認すると、男は椅子から立ち上がり、机の前に立った。


「よく来てくれたな。私がギルド西風のマスター、セイン・クラークだ。セシリーくんとは一度だけ会ったことがあったかな?君たちのことはよく報告で耳に挟んでいたよ」


セインと名乗った男は俺たちに向かって優しく微笑む。

ギルドマスターというくらいなので、勝手に年寄り、もしくは大人の人を予想していたのだが、目の前にいる男の見た目は若く、俺と同じ年に見えるぐらいだった。


「えっと、俺は……」

「ああ、自己紹介は大丈夫だ。シン・フェレールくん?」


俺が名乗ろうとする前に、遮られてしまった。


「まあ、まずはそこに座ってくれ」


俺たちはセインさんが手で指し示した先にある椅子を見ると、顔を見合わせたあと座った。

リーサが左に、俺が真ん中で、セシリーが右に座っている。

すると、セインさんはも俺たちの近くに来ると対面に座った。


「さて、早速だが本題に入らせてもらうよ?」


そして、セインさんは真剣な表情になり、話を始める。


「まず、エルナ村の件は本当にご苦労だった。君たちのおかげで村人たちの被害は最小限に減らすことができただろう……しかし、根本的な問題がまだ解決していないのは知っているな?」

「……オークやオークキングの発生原因ですね」


俺が答えると、セインさんは頷いた。


「ああ。ギルド東雲の情報を合わせても、未だに原因は不明だ。そこで報告は上がっているが、実際に現場にいた君たちの意見を直接聞かして欲しいと思ってな。何か思いあたることはないか?」


俺たちは顔を見合わせる。

リーサとセシリーは分からないといったように首を振る。

だが、俺は一つだけ、とある可能性を導き出していた。


「仮説にはなりますが、一つだけ思ったことがあります」

「……なんだ?なんでもいいから言ってみてくれ」

「……オークキングが現れたとき、地面に魔法陣のようなものが描かれていたことは報告にも上がっているかと思います」

「ああ、そのように聞いている。だが、それが何か関係があるのか?」

「ええ。実はあれから気になって魔法に詳しい人に聞いてみたんです。すると、それは召喚系の魔法であるかもしれないと」


先日、王都に行った際に、俺はソフィアに話を聞いていたのだ。


「え!?でも、召喚魔法なんて存在しないんじゃ……?」

「ああ、していない。……少なくとも今はな」


聞いてきたセシリーに俺は答える。


「今はって……どうゆうこと?」


今度はリーサが俺に聞いてくる。


「……聖女の話を聞いたことはあるか?」


俺はリーサとセシリーの二人に問いかける。


「うん、もちろん。300年前に世界を救ったっていう英雄の話でしょ?」

「私も知っているけど。でも、それがどうかしたの?」

「実はな……そのときには存在していたらしいんだ。召喚魔法……いや転移魔法が」


俺の言葉を聞いて、二人は驚く。


「じゃ、じゃあ、何!?まさか、300年前の魔法を誰かが使えて、しかも、わざと村を襲わせたってこと!?オーク達を送りこんで!?」


驚いて席を立ったセシリーは大きな声で俺に問いかける。


「いや、あくまで現実離れした仮説に過ぎないさ。だけど、そう考えると辻褄は合うきがするんだ。それに転移魔法かどうかはともかく、第三者か干渉している可能性は十分高いと思ってる」

「……ふふ」


俺の言葉を聞いて、なぜかセインさんは少しだけ笑い出した。


「どうしたんですか?」

「ああ、すまないね。いや、まさか個人でそこまで調べ上げていたとは思いもしなかったのでね。驚きを通り越して笑ってしまったのさ」

「……まさか、初めから気づいてたんですか?魔法陣の件も、第三者が絡んでいるであろうことも?」

「ああ、あまりにも不自然な現象だったからな。転移魔法の件はソフィアから聞いたのだろう?」

「え?ソフィアと知り合いなんですか?」


俺はセインさんがソフィアを知っていることに驚く。


「ああ。ソフィアとは旧友でね。実はシンよりも先に話を聞いていたんだよ」

「そうだったんですか……通りですぐに答えてくれたと思いました」


俺が話を聞いた時にすぐに答えが返ってきたので、不思議に思っていたが、まさかここで解決するとは思いもしなかった。


「あの、ソフィアって、もしかして王都魔法師団の団長のソフィアさんのことですか?」

「ああ、そうだよ」


リーサの問いかけにセインさんは答えた。

そして、俺はその事実を聞いて、驚く。


「え!?魔法師団の団長!?ソフィアが!?」

「まさか、知らなかったの?……というか、なんでそんな慣れ慣れしく呼んでるの?ねえ?どうして?」


リーサは冷たい怒りを放ちながら聞いてきた。

その状況はまるで首を絞められているかのようだった。


「あ、いや、これはソフィアにそう呼べって言われたから……」

「こんな時でもぶれないね、リーサ……」


それにしても、ソフィアが魔法師団の団長だったとは……

書庫の館長としか聞いていなかったからさすがに驚いた。


「ごほん。そろそろいいかな?」


俺たちの様子を見ていたセインさんは咳払いをする。

俺とリーサは先程までの態度を謝罪すると、再びセインさんの話に耳を傾け始める。


「さて、本当は一から話そうと思っていたんだが、そこまで把握しているなら話は早い。実は君たちに私から直接、依頼を申し込みたいと思っている」

「っ!?ギルドマスターからの依頼……!ってことは、A級ランク相当の内容ってこと!?」


セシリーが驚いてその場から立ち上がった。

そして、俺とリーサも、セシリーの言葉を聞いてその重大さを理解した。


「その通りだ。依頼内容はエルナ村で起きた事件の原因を暴き、そして解決してほしい。おそらく、災害級の魔物が絡んでくるだけじゃなく、裏で糸を引いている何者かがいるはずだ。危険な依頼にはなると思うから強制はしない」

「でも、セシリーはともかく俺やリーサにその依頼は受けられないんじゃ……?」


A級相当の依頼というのだから、最低でもB級のランクが必要になるはずだ。


「ああ、わかっている。だが、話はもう一つあってね」


そう言って、セインさんは立ち上がった。


「セシリー・アスベルをA級に。そして、リーサ・レーニスとシン・フェレールをB級に昇格とする!」

「なっ!」

「「ええっ!?」」


俺たちは揃って驚きの声を上げた。

そして、思わず俺とリーサもその場から立ち上がってしまった。


「特例ではあるが君たちの実力とこれまでの成果を判断し、ランクアップをさせてもらった。」

「ボクがAランクに……?」


セシリーは現状を受け止めきれないような様子を見せている。

だが、それは俺やセシリーも一緒だ。


「こ、こんな簡単にランクアップさせていいものなんですか?」


俺はあまりの出来事に動揺しながら聞いた。


「だから特例と言ったんだ。君たちは西風の中でも上位の実力者だ。今回の事態の解決には君たちの力が必要になるからね」


セインさんはそう答えると、真剣な表情で俺たちを見据えた。


「あらためて、言おう。今回の事件の元凶を探り、解決してほしい。もう一人の人物と協力して」

「もう一人の……人物?」


そして、リーサが声に出した瞬間だった。

途端に部屋がノックされる音が聞こえた。


「セイン、俺だ。入ってもいいか?」


部屋の外から聞き覚えのある男の声が聞こえた。

それは俺が尊敬して、感謝している人の声だった。


「ああ、入ってくれ」


セインさんが部屋に入るよう促すと、部屋の扉が開かれた。

そして、中に入ってきたのは、赤毛の長身の男だった。


「「エリクさん!?」」

「エリク!?」

「よっ!久しぶりだな」


そこにいたのは俺がレッドオーガにやられそうだったのを助けてくれて、ギルドにも入れる手助けをしてくれた、ギルド西風のA級であるエリクさんだった。


「まさか、もう一人の人物って……!」

「ああ、そうだ。三人にはエリクに同行してもらう形で事件を解決してもらいたい」


セインさんの言葉に、俺たち三人は驚きを隠せなかった。

セシリーはともかく、俺とリーサがエリクさんと一緒に依頼をおこなう日がこんなにも早く来るとは思ってもいなかったからだ。

そして、エリクさんは俺たちの元へと近づいてきた。


「しかし、ただものじゃ無い奴らだとは思っていたが、ここまで化けるとはな。さすがの俺も驚いたぜ?」


俺たちを見たエリクさんはそう言って、嬉しそうに微笑んだ。


「では確認させてもらいたい。私からの依頼は間違いなく危険が待ち受けているだろう。協力してほしい気持ちはあるが、強制はしない。もし、降りたいと思うのであれば言ってくれ。もちろん、ランクは昇格したままだから安心してくれ」


セインさんの言葉を聞いて、俺たちは顔を見合わせる。

俺たちは三人揃って、頷いた。


「私は困っている人たちを守るために強くなりたいと思い、そして、ギルドに入りました。もし、また危険な目に合う人がいる可能性があるならば、その原因を放ってはおけません」

「ボクも同じかな。エルナ村みたいな悲劇はもうごめんだよ。それにA級になったなら、責務を果たさなきゃね」


リーサとセシリーはそれぞれ自分の意思を伝えた。

俺もそれに続くように口を開く。


「俺は、目の前に救える命があるのならばそれを助けたい。そのために俺は強くなって、今、ここにいます。ギルドに入った時から危険は承知の上です」


俺たち三人の意志を聞いたセインさんとエリクさんは驚いた顔を見せた。


「そうか……ありがとう。君たちみたいな人材が西風にいて、とても心強く思うよ」

「へっ……心まで強くなったんだな。頼りになりそうな奴らだぜ」


セインさんとエリクさんの言葉を聞いて、俺は感極まって泣きそうになってしまった。

今まで頑張ってきたことが、認められた気がしたからだ。

それから、俺たちは全員が椅子に座って情報を共有し始めた。

どうやら、エリクさんが王都郊外にある森の奥深くに、地下へとつながるような階段を見つけたらしい。しかも、その階段を守っているかのように強力な魔物たちが徘徊していたらしい。


「あきらかに怪しいですね、それ」

「ああ、ギルドの上位ランカーでも近寄らないような場所だが、根城には持ってこいの場所だろうな。危険だが探ってみる価値はあると俺は考えてる」


エリクさんの言葉を聞いて、セインさんは考える様子を見せる。

そして、考えがまとまったのか顔を上げた。


「なら、そこの調査を頼む。エリク、リーダーは任せたぞ」

「おお、任せとけ。よし、それじゃあ行くか」


俺たちはエリクさんに返事をすると、後に付いていき部屋を後にした。

そして、ギルドに置いてある机に向かうと、俺たちは椅子に座って、作戦会議を始めた。

エリクさん曰く、チームで動くとなれば戦い方を決める必要があり、そのためにも全員の実力や使う技、魔法の系統などをしっかりと知っておきたいらしい。


「なるほど。大方、把握はした。それにしても、シンとリーサに関しては魔法も多才だな。回復魔法が使える奴が二人もいるのはかなり助かるぜ」

「そうだね。回復魔法は適正があるから覚えようと思っても覚えられないもん」


セシリーの言う通り、魔法には適性がある。

逆を言えば、適性がない属性の魔法は使用することはできない

そして話し合った結果、エリクさんとセシリーが前衛で切り込み、俺とリーサがそれを後衛でサポートするというスタンスになった。


「よし、戦闘隊形に関してはこれでいいだろう。じゃあ、各々準備も必要になるだろうし、出発は明日の早朝、正門に集合だ。何が待っているかもわからないから、今日はしっかりと英気を養っておけ」


そして、俺たちは一度、解散することになり、俺は自宅へと戻った。

家には母さんがいて、俺がB級にランクアップしたことを伝え、ギルドマスターからの依頼について話をした。

とても心配していたが、必ず無事に戻ってきてほしいと言われ、見送ってくれることになった。

そして、夜を迎えて夕食を食べ終わって部屋で休んでいた俺は、アーニャの顔を見に、部屋へ向かった。

アーニャはすでに眠っていたため、起こさないように静かに部屋へ入る。

近くにある椅子に座ると、俺は天使のような寝顔を眺める。

……明日には村一つをほぼ壊滅させた騒動を引き起こした元凶と対決することになるかもしれない。

きっと今まで一番過酷な戦いになる可能性があり、怖くないといえば嘘になる。

だが、もしかしたら俺の身の回りの人にも、被害が及ぶ可能性があると考えたら放っておくわけにはいかない。


「……もう少しだけ待っててくれよ。俺が必ず、お前を縛りつけている呪いから自由にしてやるから」


俺は覚悟を決めて、小さな声で言い残すと、アーニャを起こさないように静かに部屋を出た。



そして、次の日の早朝。

俺が正門に着くと、まだ集合時間の10分前だが、すでに俺以外の全員が揃っていた。


「お、きたか」

「お待たせしました。すいません、待たせてしまいましたか?」

「いや、俺たちもさっき来たばかりだ」


エリクさんは俺たちを見渡す。


「……よし、それじゃあ向かうぞ」


俺たちは一斉に頷くと、王都郊外にある森に向かった。

森の中へと足を踏み入れると、昨日、打ち合わせた通り、前衛にはエリクさんとセシリー、後衛には俺とリーサがいる隊形を取っている。

目的の場所へ向かう途中、何度か魔物には遭遇したものの、難なく対処できるレベルだったのでいまのところは問題なく進むことができている。


「災害級がたくさん出てくるかと思っていたけど、そんなことないな」

「そうだね、私もそう思っていたけど」


俺の言葉にリーサが反応する。


「……」

「エリク?どうかしたの?」


セシリーがエリクさんに問いかける。

見てみると、エリクさんは険しい表情をしながら何かを考えているようだった。


「……おかしい」

「おかしい?何がですか?」


エリクさんの発言に俺は反応する。


「お前たちの言う通り、魔物が少なすぎる。昨日、偵察に来た時は魔物にあまり会わなかったから運が良かっただけかと思ったが、そもそもこの辺りには手強い魔物がいるはずだ」


エリクさんは真剣な表情で言った。

魔物が減っているのは悪いことではないけれど、そう言われると違和感を感じる。


「まあ、いないならいないで助かるからいいんだけどな」

「……そうですね」


若干、違和感を感じながらも、俺たちは再び歩き始めた。

その後も、魔物に遭遇することは少なく、俺たちは体力をほとんど消耗することなく目的地に到着することができた。


「着いたぞ、ここだ」


そこにはあからさまに怪しい地下へとつながる階段があった。


「どう見ても怪しいね、これ」

「うん。でも、隠す気がない感じがして、これはこれで不自然な感じがするけど」


リーサの言う通り、少しあからさまな気はする。

もしかしたら罠の可能性も高い。


「エリクさん、突入しますか?」

「ああ。何が待っているかは分からないから全員、注意しておけ」


俺たちはうなずくと、エリクさんを先頭に、セシリー、俺、リーサの順で階段を下っていった。

階段を下った先は、明かりがないため、真っ暗で何も見えなかった。


「うわ、真っ暗で何も見えないよ!」


地下だからか、セシリーの声が響いた。


「待ってろ……ファケル!」


エリクさんがそう発すると、目の前に複数のかがり火のようなものが出てきて周りを照らした。

周りを見てみると、どうやら一本道が続いているだけのようで入り組んだ構造にはなっていないようだった。


「どうやら、一本道が続いているだけみたいだな……よし、注意して進むぞ」


そして、俺たちは警戒しながら先へ進んでいく。

すると、最初から明かりが付いている、広い空間の部屋へと出た。

俺たち4人がここで試合を初めても十分すぎるくらいの広さだろう


「広い場所に出たけど、何もないし、行き止まりみたいだね」


セシリーの言う通り、周りには何もなく、明りを発している魔法石が壁に埋め込まれているだけだった。

先へと進む道も見当たらず、行き止まりなのか、もしくは別の道があるのか。


「ん?あれはなんだろう?」


リーサが何かに気づいたようで、前方を指差した。

俺たちはその先を見てみると、王座みたいなものが置かれていることに気づいた。


「玉座みたいだけど、なんでこんなところに置かれてるんだ?」

「それはこの世界の王である私が座る席だからですよ」


俺が疑問に感じて、言葉を発した時だった。

それに答えるかのように、男の声が部屋に響き渡る。

すると、突如、玉座の前に魔法陣が出現した。


「あれは……!?オークキングが現れたときと同じ魔法陣!?」


俺が驚いていると、魔法陣から男が一人現れた。


「急に人が現れた、だと……?まさか、あれが例の転移魔法か?」


この現象を見たことのないエリクさんは、目の前で起きたことに驚きを隠せないようだった。

だが、俺やリーサ、セシリーは別の意味で驚いていた。

なぜなら、魔法陣から現れた男には見覚えがあったからだ。


「マルコ……さん?」


そう。そこにいたのは以前、エルナ村までの護衛を依頼してきた商人のマルコさんだった。


「ふふ……数日ぶりですね。お一人は初めましてになりますが」

「なんで、マルコさんがここに……?それにその格好は……?」


セシリーが混乱しながらも、マルコさんに問いかける。

見ると、マルコさんはローブを身に纏って、いかにも魔術師のような格好をしていた。


「ああ、目の前の状況が理解できていないようですね。無理もありませんか。」


そして、俺は一つの可能性が頭によぎった。

ありえないし、信じたくないが、それを言葉にしようとする。


「まさか……あなたが、今回の事件……エルナ村にオーク達を放った犯人なんですか?」


俺の言葉を聞いた皆が驚いた様子を見せる。

それはマルコさんも同じだった。


「ふふ……驚きましたね。なぜ、私だと?」


そう言ったマルコさんは不気味な表情をしながら笑った。


「今、あなたが見せた魔法、300年前にあった転移魔法ですね?なぜ、それをあなたが使えるのかは分かりませんが、その魔法を使用してオークたちをエルナ村に送った……違いますか?」


マルコさんは俺の言葉に再び驚いた表情を見せる。


「ほう……仮にそうだとしても私はあなたたちとずっと一緒にいたのですよ?そんなものを発動する時間はなかったと思いますが?」

「た、たしかにマルコさんはずっとボクたちと一緒にいたわけだし……」

「……村に着く前、一瞬ですが魔力を感じました。その時に使用したんじゃないですか?」

「え……?でも、そうだったら私たちも気づいてたはずじゃ?」


リーサの言う通り、なぜかそのときの魔力は俺だけが感知できた。

だが、それしか俺に出せる答えはなかった。


「ふふふ……」


すると、マルコさんは含んだ笑い方をすると、狂ったような形相をしてこちらを向いた。


「あっはっはっ!いや、驚いた!まさかとは思ったが、あの魔力に気づいていたとは!?どうやらあなたは他の人間とは違うようだ!」


さっきまでとはまるで別人かのような表情でマルコさんは言った。


「じゃあ、やはり……!?」

「その通り……!全部、あなたが言った通りですよ。村に着く前、私は転移魔法を使用してオーク達を村に送り込んだ。しかし、現代の魔法使いには認知できないので、気づくはずがないと思っていましたがね。まさかアリバイをつくるために頼んだ護衛に気づかれるとは、さすがの私も予想外でしたよ」

「うそ……じゃあ、本当にマルコさんがエルナ村を……?ボクたちと話していたあの姿も全部嘘だったってこと……?」


セシリーは衝撃の事実に動揺を隠しきれないようだった。

よく見ると、リーサも同じようだった。


「それにしても興味深い!あなたは一体何者ですか!?まさかあの方と同類なのですか!?」


マルコさん……いやマルコはセシリーの言葉など気にも留めないように、俺に聞いてくる。

あの方……?いったいそれは……?


「……おい、一つ聞かせろ」


すると、唐突にエリクさんが冷たい声でマルコに問いかける。

まるで怒りを必死に抑えているような感じだった。


「……なんでしょうか?」

「何が目的でオーク達をエルナ村に送り込んだ?」


俺たちはエリクさんの言葉にはっとする。


「ああ、それですか?……実験ですよ」

「実験だと……?」


そんなことか、といったような顔をしながらマルコは答えた。


「私は転移魔法を使って、各地に魔物を送りこむつもりなんですよ」

「なっ……!?」


俺たちは一斉に驚いた声を上げる。


「各地に魔物を送り、国を混乱させる……それが私の使命なのです。ただ、転移魔法は術者がイメージした場所、つまり訪れたことのある場所にしか転移できない。なので、商人を装い、各地を訪れた。赤の他人が村や街の中まで入ることは難しいですからね。あの村を選んだのは、何度か訪れたことがあったから手始めにちょうどよかっただけですよ。まさか、貴重なオークキングを二体も倒されるとは思いもしませんでしたがね。さすがは王都の実力者ということでしょうか」

「そんな、理由で……!」


俺は徐々に怒りが込み上げてきた。


「そんな理由?私にとっては何よりも優先すべきことですよ」

「……とにかく、お前がいかれた人間だってことだけは分かった。いや……その非道さは人間じゃねぇな。その企みもここでおしまいにしてやるよ」


そう言ってエリクさんは手に持っている大剣をマルコに向けた。


「ほう……それはあなたたちで私を止めるということですか?」

「ああ!そのとおりだ!」


エリクさんがそう言うと、マルコは下を向いて可笑しそうに笑い出した。


「ふふ……それは無理なお話ですね」

「なんだと……?」


そして、マルコが途端に指を鳴らした。

すると、転移の魔法陣が発生し、そこから魔物が発生する。

その数はおよそ20体を超えており、どれもCランクが相手にするような上級の魔物たちばかりだった。


「これは……森にいるはずの魔物たち……!?そうか……!あいつが魔物達をどこかに転移させていやがったのか!」

「ふふ、その通りです。さて、たかが4人でこれだけの魔物達を相手にどこまでやれるか見せてもらいましょうか?」

「エリク!どうするの!?」


セシリーが慌てた様子で、かつ冷静にエリクさんに問いかける。


「上級の魔物が数十体……さすがに数も多いが……」


エリクさんは俺たちと目を合わせる。

それに俺たちもうなずいて反応した。


「あいつはここで捕らえる!いくぞっ!」

「うん!」

「「はい!」」


そして、俺たちは一斉に返事をすると、武器を構え、魔物たちに立ち向かう。

エリクさんは炎を大剣に纏わせ、強力な広範囲の攻撃を放ち、魔物たちを一斉に焼き払う。それで生き残った魔物たちをセシリーが俊敏な動きで倒していく。

俺とリーサは二人が技を放ち、わずかにできた隙をフォローするように魔物達に攻撃する。

初めて組んだパーティとは思えないくらいの連携で俺たちはなんとか、魔物達を全て倒すことに成功した。


「ほう……さすがは災害級を倒せるだけありますね。この程度では時間稼ぎぐらいにしかなりませんか」

「ああ。俺たちを倒したければ少なくとも災害級でも連れてくるんだな」

「……ふふ、じゃあそうさせてもらいますね」

「なに……!?」


そう言って、マルコは再び転移魔法陣を二つ展開させた。

すると、そこからはオークキングとレッドオーガが一体ずつ召喚された。


「はっ……マジかよ……」

「うそ……災害級が二体も……!」


魔法陣から現れたオークキングとレッドオーガはこちらを認識すると、咆哮を上げて襲いかかってきた。


「シンとセシリーはオークキングを!リーサは俺と一緒にレッドオーガを相手にするぞ!絶対に生き残れ!」

「「はい!」」

「うん!」


エリクさんに応えた俺たちは、二組に分かれて災害級に二体に立ち向かう。


「いくぞ!セシリー!」

「うん!」


俺とセシリーはエルナ村でも相手にしたオークキングに攻撃を仕掛ける。

俺は太刀に雷の魔力を纏わせると、縮地でオークキングの真下に入る。


「ニの太刀……“雷渦”!」


俺は自分を中心にして回転しながら太刀を振るうことで、オークキングの両足を切り裂く。

すると、オークキングはバランスを崩し、その場に倒れようとしたところにセシリーが駆け寄る。


「四の型……“七葉烈風”!」


セシリーは風の魔力を纏わせた剣により、七回の斬撃をオークキングの顔面に与える。

そして、苦痛の叫びを上げながら、オークキングはセシリーに殴りかかろうとする。


「させるかっ!四の太刀!」


俺は再び雷の魔力を太刀に纏わせ、斬撃を飛ばす構えを取る。


「"飛電”!」


雷の魔力を纏った斬撃が放たれ、オークキングに直撃した。

すると、オークキングはそのまま力尽き、その場に倒れた。


「はあ……リーサとエリクさんは……!?」


俺はレッドオーガと戦っているはずの二人の方を心配そうに見た。

だが、レッドオーガはすでにその場に倒れており、無事そうな二人を見て俺は安堵する。


「これは驚きましたね……まさか、災害級2体をも倒してしまうとは。まあ、体力はもう限界に近そうですがね」

「問題ねぇ。あとはお前を捕まえるだけだからな。大人しく投稿しろ」


エリクさんがそう言うと、マルコは下を向いて、肩を震わせ始めた。


「ふふ……はははははは!」

「なにがおかしいんだ……!?」


急に笑い出したマルコにエリクさんは怒りの感情をあらわにしていた。


「いえ……なぜ私を捕まえることができるのかと思っているあなたたちを見ていたら、おかしくなりましてね」

「まさか、まだ魔物を……!?」


リーサは恐れを隠せないような表情を見せる。


「いえ、残念ながら転移魔法を使用する魔力もなければ、魔物もいませんよ。それに、あなたたちには災害級の魔物でも勝てなさそうですからね。……なので、あなた方には特別に見せてあげますよ。私の本当の姿を!」


そう言ったマルコの体が突然、光り出した。

すると、人の体をしていたマルコの体は徐々に形を変えていき、まるでオークのような体型になっていった

しかし、その体はさっき俺たちが倒したオークキングよりも大きく、そして強靭そうだった、


「なんだ……あの姿は……?」


俺はマルコの変貌した姿を見て、呆気に取られる。


「ふふ、これが私の本当の姿……魔物化ですよ」

「魔物化……だと…?」

「うそ……自分を魔物にしたってこと……?」


他の三人も俺と同じように呆気に取られていたようだった。


「ええ、その通りです。人間と魔物の融合……それこそが私の求めていたものですよ。まあ、王都で市民を襲わせたような失敗作もありましたがね」


すると、マルコは気になることを言い出した。

王都で市民を襲わせた……?まさか、あの黒ずくめの……?


「まさか……あの時の……?」

「ええ、そうです。あなたが戦っていたあの失敗作ですよ。あのあと、自我が保てなくなってそのまま死にましたがね」


つまり、あの犯行もこいつのせいだったのか……!

……でも、待て。さっきこいつは何て言った……?


「さっき、人間と魔物を融合させたって言ったか……?」

「ええ、言いましたが?」

「……じゃあ、あれは……あの子は最初、何者だったんだ?」


俺の言葉にリーサとセシリーははっとした様子を見せる。


「ええ。元は人間の子供だったものですよ。どこの子かは知りませんがね、何せ私がその辺で適当に拾ってきたものだったので」

「は……?」

「う、そ……?」


俺たちは驚愕な事実に耳を疑うしかなかった。

リーサは口元を手で抑え、セシリーとエリクさんもその場で呆けるように立ち尽くしていた。

そして、俺は徐々に込み上げてきた怒りを抑えきれず、マルコに向かって走り出す。


「きさまぁ!」


もはや、心も見た目も人とは思えないマルコに俺は切りかかる。

だが、一心不乱に突き進んでくるだけの俺をマルコはいとも簡単に殴り飛ばした。


「ぐはっ!」

「シン!」


咄嗟に防いだものの、走り出した位置よりも後ろに拭き飛ばされてしまい、その威力に俺はその場から動けなくなるほどだった。

すぐさま駆け寄ったリーサは俺に回復魔法をかけ始めた。


「はははっ!やはり、すばらしい力だ!」

「くそっ……!」


回復魔法をかけてもらい、痛みが引いた俺はその場から立ち上がる。


「これでわかったでしょう?人の力などちっぽけなものなのです。武器を持たなければ、人は魔物どころか肉食の動物に勝つこともできやしない!なのに、人は強くなったつもりでいる!なんと愚かなことか!」

「あんただって、同じ人間じゃないのか……!?」


俺は意識がはっきりとしない中、マルコに言う。


「いまは元人間、ですよ。そして、今の私は災害級の魔物よりも強い力がある。人間……いや、魔物の頂点の存在になったのですよ!」

「さっきから狂ったことを言いやがって……」


エリクさんは歯を噛み締めながらマルコを睨みつける。

「さて……お喋りはこれまでです。あなたたちを全員ここで殺し、王都……いや、他の国も合わせて混乱に陥れるとしましょう!全てはあの方のために!」


再び、あの方という言葉を聞き、俺は気になる。

だが、今はそれよりも目の前の化け物を止めることが先決だ。


「そんなことさせるか……!」

「うん……!誰も傷つけさせなんてしない!」


俺とリーサは一歩、前に出てマルコに向き合う。


「うん!ボクたちで皆を助けるんだ!」

「もう、お前は人じゃない。ここで俺たちがお前を倒す!覚悟しやがれ!」


そして、セシリーとエリクさんも俺たちと並ぶように前へ出た。


「まだ歯向かうというのですか?いいでしょう。なら、一思いに殺してあげましょう!」

「いくぞっ!」

「「はいっ!」」

「うん!」


エリクさんの掛け声を合図に俺たちはマルコに向かって走り出す。


「おらぁ!」


エリクさんは炎を纏わせた大剣でマルコに斬りかかる。

だが、それをマルコは片手で簡単に受け止めた。


「なにっ!?」


そして、握った大剣をエリクさんもろとも持ち上げると、振り回して投げ飛ばした。

エリクさんはそのまま壁に叩きつけられると、その衝撃で壁がへこんだ。


「ぐはっ……!」

「エリクさん!っ……リーサ!」

「うん!」


すぐさま、リーサが回復魔法をかけようとエリクさんの元へ駆け寄ろうとする。

だが、マルコは途端に俺とセシリーの前から一瞬で消えると、リーサの目の前に移動していた。


「え……?ぐっ……!?」


そして、マルコに殴られたリーサはそのまま地面に叩きつけられながら、転がるように吹き飛ばされてしまった。


「リーサ!」


俺が動かないリーサに声をかけると、マルコは再び俺たちの前にやってきた。

そして、俺に向かって殴りかかろうとしてきた。


「シン!」


しかし、殴られかけた俺をセシリーが突き飛ばすと、代わりにマルコの打撃を受けてしまった。

リーサと同じように地面に叩きつけられながら転がっていき、倒されてしまう。


「セシリー!……はっ!」


すると、マルコは俺に向かって衝撃波みたいなものを繰り出してきた。


「ぐっ!」


衝撃波により、俺はリーサの近くまで吹き飛ばされた。


「くそっ……」


なんとか顔を上げ、俺は自分とリーサに回復魔法をかけ始める。


「う……シ……ン?」

「大丈夫か……リーサ……?」


回復魔法をかけるとリーサは目を覚ました。

だが、意識が朦朧としているようで体を上手く動かせないようだった。

俺はセシリーとエリクさんのいる場所に顔を向けると、二人とも何とかたち上がろうとしているのが見えた。


「弱い、弱すぎる。所詮、これが人の力なのです。これで分かったでしょう?本当の力の前ではあなたたちも、災害級と呼ばれている魔物も赤子も当然だということを」

「くそっ……!」


俺は回復魔法をかけ終わると、その場から立ち上がる。

見ると、エリクさんとセシリーもなんとか立ち上がっていた、


「ふざ……けるなよ。お前みたいに……私利私欲のために力を使う奴に……負けて、たまるかよ……!」

「ボクたちのことを、何も知らないくせに……好き勝手言うな!」


そして、エリクさんとセシリーが同時にマルコへ攻撃を仕掛ける。


「無駄ですよ」


しかし、マルコはさきほど俺に使用した衝撃波を繰り出すと、二人を吹き飛ばした。


「がっ……!

「ぐっ……!」

「エリクさん!セシリー!」


俺は二人の名前を呼んだあと、雷の魔力を太刀に纏わせ、足に魔力を集中させた。


「うおおおおっ!」


俺は叫び、地面を蹴ると、目にも止まらぬ速さでマルコを斬りつける。

一回、二回、三回……!


「“雷光円舞”!」


そして、最後の一撃をマルコに繰り出すと、俺はそのままその場に倒れこむ。


「……え?」


俺が顔を上げると、大して動じることもなく立っていりマルコの姿があった。


「ふむ、少し痛みがありましたがこの程度ですか。わざと受けるまでもありませんでしたね」

「そん……な……」


俺は現時点で自分の一番強い技がさほど効かなかったたことに絶望する。

しかも、技の反動でその場から動くことができなくなっていた俺は格好の的だった。


「さて、そろそろ終わりにしましょうか。まずはあなたからです」

「くそっ……!」


マルコは俺に止めを刺そうと拳を振り上げる。

そして、俺のなかで死が頭によぎった、そのとき。


「やああああっ!」


リーサがマルコの腕を太刀で切り裂いた。


「リーサ……?」

「させない……!絶対に、シンは私が守るんだから!」


そう言って、リーサは構えるとマルコに再度斬りかかる。


「雪華流 三の太刀“白雪舞い”!」


リーサは目にも留まらぬ速さで太刀を振るい、マルコを切り裂く。

だが、六回目の斬撃を当てるとき、リーサは腕を掴まれて持ち上げられてしまった。

その拍子にリーサは手に持っていた太刀を地面に落とした。


「うっ……!あああっ!!」


リーサは今にも握りつぶされそうな力で腕を掴まれ、空中にぶら下がった状態になる。


「よせっ……!リーサを……はなせっ……!」

「ふん」

「ぐわっ……!」


俺が言った瞬間、マルコは俺に向かって衝撃波を飛ばしてきた。

それにより、俺はまたもや離れた場所へと吹き飛ばされてしまった。


「……いいでしょう。そこまで死に急ぐなら、まずはあなたから殺すとしましょう」

「やめろ……やめて……くれ……」


(なんで……俺はこんな無力なんだ……妹だけじゃなく、目の前の大切な人すら守ることができないのか……)


そして、マルコはリーサを頭上へと投げ飛ばすと拳をリーサ目掛けて構えた。


「リーサ!」

「やめろおぉ!」


離れた場所からセシリーとエリクさんの叫ぶ声が聞こえる。

対する俺は声を出すこと、動くこともできずただ心の中で自分自身を悔やむしかできなかった。


(違う……違うだろ!俺は鈴に誓ったはずだろ!アーニャを助けるって!シンに俺みたいな辛い思いはさせないって!そして、アーニャが助かったあとにリーサがいなければ、意味がないだろう!)


そうしているうちにリーサが上空からマルコ目掛けて落下していく。

そして、落下しながらリーサは俺に目を合わせると、口を開く。


「ごめんね……シン……」


(いやだっ!絶対に守るんだ!動けっ!動きやがれ!リーサを……助けるんだっ!)


その瞬間。

俺の脳裏に知らない記憶が走った。


(なんだ……これは……?頭のなかに知らない記憶が……?)


俺は途端に起きた現象に戸惑う。


(違う……これは、記憶じゃなくて……知識……?)


そして、俺は脳裏に走る名を呟くため、口を開く。


「……テンペスト」


すると、俺の体を風の魔力が覆うことで、まるで風のように軽くなる。

俺はすぐさま立ち上がり、地を蹴るとリーサの元に瞬時に移動して、空中でリーサを抱き抱えた。

移動した勢いでマルコの打撃の射程圏内を抜け出すと、マルコの拳は勢いよく空を切った。


「なにっ……!?」


マルコは何が起きたか理解できず、動揺していた。

そして、俺はそのまま空を蹴って、地面に着地する。


「シ……ン?」


リーサは目を開けると、涙目で俺を見てきた。


「もう、大丈夫だ。ありがとう、守ってくれて。今度は、俺がリーサを守るから」

「……うんっ!」


リーサはそう言って涙を流しながら、俺に抱きついてきた。


「……いったい、何をしたかは知りませんが、偶然は二度は続きませんよ!」


そう言って、マルコは俺たちに殴りかかろうとしてきた。

だが、俺は片手をマルコに向かって差し出す。


「黙れ」

「っ!?ぐわあぁーーっ!?」


俺は手から衝撃波の魔法”ソニックブーム”を放つと、直撃したマルコは壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられた。


「え……?シン、今のはいったい……?」


何が起きたか理解できないよう様子のリーサに俺は回復魔法をかける。

そして、俺はリーサをその場に降ろすと、先程の魔法で吹き飛んだマルコを見る。


「リーサ。セシリーとエリクさんを回復してやってくれ。あいつは、俺が倒す」


そして、俺は近くに落ちていた太刀を拾うと、立ち上がろうとしているマルコの元へと近寄る。


「ぐっ……!なぜ……あなたがその魔法を使える!?」


マルコは荒々しい口調で驚きながら俺に言ってきた。


「……さあな、俺が知りたい。だが、この力に感謝だな。おかげで、お前を倒すことができそうだ!」


俺はさっきよりも速い動きでマルコへと近づき、顔面を切り裂く。


「ぐわああっ!」


顔面を切られたマルコは俺に殴りかかってきたが、俺は空中を蹴って移動することでそれを回避する。


「なっ!?なんだ、いまの動きは!?」


マルコは俺の動きを見て、驚いた様子を見せる。

俺は先程、使用した魔法“テンペスト”によって、体は風のように軽く、そして空中に足場があるかのように動くことができる。

それだけでなく、身体強化もされているため、攻撃の威力も上がり、魔力に守られているように防御も上がっている。

そして、マルコの動きがさっきより遅くなったように見えている俺は。それ以上の動きでマルコに攻撃を与える。


「ぐわあっ!……なぜだ!なぜ、人ごときにこんな動きができるっ!?」

「お前が人の本当の力を知らないだけだろ」


そして、俺は太刀を握っていないもう片方の手に、炎の魔力を集中させるとそれを放つ。


「アリマージュ!」


突如起こった巨大な炎の渦がマルコを包んだ。


「があああぁーっ!!」


炎に飲み込まれたマルコは苦痛を感じるように悲鳴を上げた。

そして、俺は太刀に雷の魔力を纏わせる。

その魔力は強力で、太刀に纏っている今まで以上に強い光を発している、


「がはっ……!まさか……この、力は……!?お前はまさかっ……!?」

「雷鳴流 六の太刀」


炎の渦が止み、今にも倒れそうなマルコの言葉に耳を傾けず、俺はマルコの元へと瞬時に移動して、切りかかる。

雷の魔力を纏わせた強力な一撃を一発……三発……七発……


「“八雷(やくさいかずち)”!」


そして、最後の一撃を振り抜いた。


「がっ……はっ……!」


マルコは声を漏らし、力尽きるとその場に崩れ落ちた。


「はあ……はあ……」

「シン!大丈夫!?」


俺は力を出し切ると、地面に膝をついた。

すると、後ろからリーサの声が聞こえると、セシリー、エリクさんと一緒にこちらへ駆け寄ってきた。


「ああ、大丈夫だ……あいつは……?」


俺は倒れているマルコを見ると、体が消えかけていることに気づいた。

リーサに肩をかしてもらって近づくと、マルコは力が抜けたよう顔でこちらを見てきた。


「これで、終わりだと思うな……本当の恐怖は……これから……だ。あの方が……必ず、お前を……!」


マルコは声を振り絞って、俺に言ってきた。

いろいろと気になることはあるが、今にも消えそうなマルコに俺は一言だけ告げることにした。


「……望むところだ」


そして、俺がそう言った直後、マルコは力尽きるように目を閉じると、そのまま体が消滅してしまった。


「これで……終わったんだよね?」

「……ああ、そのはずだ」


セシリーの呟きに俺は答えた。


「シン、お前には助けられたな。本当に感謝している。いろいろと聞きたいことはあるが……今は、とりあえず王都に戻ろう」

「……そうですね」


俺はエリクさんにそう答えると、リーサの肩を借りながら地下を出た。

いきなり使えるようになった謎の魔法たち、マルコが言っていた本当の恐怖、そして“あの方”……

いくつもの謎を抱えながらも、とりあえず俺はいま、目の前にいる仲間たちを守ることができて良かったと思いながら、王都へと戻っていった。

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