第6章 エルナ村

セシリーとの勝負を終えた次の日。

俺はリーサ、セシリーと一緒にギルドにいた。


「なあ、セシリー。今更だけど、本当に一緒に行動してもらっていいのか?B級の依頼とかもあるんじゃ……?」

「もちろん!言ったでしょ、シンに付いて行くって!B級の依頼もちゃんとこなすから大丈夫だよ!でも、早くC級に上がってきてね?そうしたら一緒に受けることができるし!」

「ああ、そうだな」


俺はセシリーに答えると、胸の中で決意を強くした。

きっと、アーニャの病を探すヒントはA級相当の依頼を受けないと、手に入らないのではないかと思ったからだ。

なぜなら、A級のエリクさんですらアーニャの病について思い当たることがないと言っていたため、B級以下の依頼では情報を手に入れる可能性が低いと思っている。

なので、簡単ではないけど、俺は少なくともA級を受けられる可能性があるB級になる必要がある。

そのためにも、とにかく依頼をたくさん達成して実績をあげなければならない。

これが、いま俺ができる最善策だろう。


「それで、セシリー?何の依頼を受けたの?」

「うん、道中の護衛だよ!王都外にエルナ村ってあるじゃん?王都の商人さんがその村から王都まで護衛してほしいんだって」

「なるほど。しかし、依頼人としてはB級のセシリーまでいるのはかなり心強いと思うだろうな」


護衛の場合、何かあったとき依頼者を守る必要があるため、二人以上で受けることが推奨されている。

実力者ならともかく、魔物の相手をしつつ、依頼者も守るのは大変だからだ。


「まあ、道中の魔物ぐらいならボクの出番もないと思うけどね?じゃあ、依頼者に連絡してみるよ」


セシリーはブレシスを取り出して、電話をかけ始めた。

そして、依頼者との会話が終わると電話を切って、俺たちの元へと戻ってくる。


「お待たせ。今ならタイミングもいいみたいで、来れるならすぐにでもお願いしたいって」

「そ、そうか……じゃあ向かうとするか」

「?」


俺の様子が少しおかしいことにセシリーは疑問を感じて首を傾げる。

そして、俺たちは待ち合わせ場所の店に着き、店の中に入ると、そこには少し太り気味のヒゲを生やした男の人がいた。


「すいません、マルコさんですか?さっき、電話したギルドの者ですけど」

「おお!あなた方がそうですか!私がマルコです。今日はお願いします」


依頼者のマルコさんは商人だけあって、礼儀正しい人でなかなか良い印象を持った。

だが、それ以上に俺は驚いていたことがあった。


「それでこっちにいる二人が……ん?どうしたの、シン?そんな驚いた顔して」


セシリーは俺が驚いている顔を見て、聞いてきた。


「……セシリー。お前、丁寧な言葉で話せたんだな……」


先程の電話の時もそうだったが、俺は丁寧な言葉で対応していたセシリーに驚いていた。

ちゃんとした口調で話したことを見たことがなかったし、まあ、セシリーなので依頼者に対しても同じ感じなのではと勝手に思っていた。


「なっ……!当たり前じゃないか!どういう意味さー!?」


俺の言葉を聞いたセシリーは怒った表情を見せながら近づいてきた。


「ちょっと、二人とも!依頼者の前で失礼でしょ!?」

「はっはっはっ!愉快な方達ですな!道中が楽しくなりそうです!」


マルコさんは俺たちの様子を見て、笑っていた。

いい人で良かったと思いながら、俺たちは謝罪をしたあと、一人ずつ自己紹介をした。

その後、マルコさんは荷物が積まれた馬車に乗って、俺たちはその周りを囲むような形でエルナ村に向かった。


「そういえば、マルコさん。エルナ村にはなんの用事があるんですか?」


俺は村に向かう道中でマルコさんに聞いた。


「ええ。うちで取り扱っている商品をご贔屓にしていただいてるので、直接伺って紹介させていただこうかと思いましてね」

「へえ、どんな商品を扱ってるんですか?」


今度はリーサがマルコさんに聞く。


「うちは食品から日用品まで幅広く扱っておりますよ。良かったら皆さんもぜひ当店をご利用くださいね?」

「はい、今度あらためて伺いますね!」


さらっと宣伝をしてきたのはさすが商売人だなと俺は感心する。


「二人とも?話すのはいいけど、周りにも注意しておいてね?いつ魔物が襲いかかってくるか分からないから」

「ああ、すまない」


俺とリーサの気が逸れていると感じたのか、セシリーが真剣な顔をしながら言ってきた。

依頼中や戦闘中のセシリーは普段とは別人のようだ。

しかし、村に向かう道中は魔物に襲われることもなく、無事に着きそうだった。


「……ん?」


村が見え始めた時、俺はわずかだが近くで魔力を感じて歩みを止めた。


「どうかしたの、シン?」

「いや、いま魔力を感じた気がしたんだけど……」


リーサの問いかけに俺は答える。


「魔力が?私は特に感じなかったけど……」


気のせいだったのかと思い、俺が移動を再開しようとする。

そのときだった。

いきなり大きな振動で周りが揺れた。


「な、なんだ!?」


すると、人の悲鳴が聞こえ、村の方を見ると火煙が上がっていた。

それだけでなく、人ではない叫び声みたいなものもいくつか聞こえてくる。

ただごとじゃないと判断した俺たちは顔を見合わせる。


「急いで村へ向かおう!リーサはここでマルコさんを守って!シンはボクに付いてきて!」

「分かった!リーサ、気をつけろよ!」

「うん!二人も!」


俺とセシリ―はリーサとマルコさんをその場に残して村へと走った。

人の悲鳴や叫び声が聞こえる中、村に着くと、そこには騒然とした光景が広がっていた。


「なんだ、これは……!?」


村では魔物が建物を壊しながら村の人たちを襲っていた。

人の悲鳴や泣き声が村中に響き渡り、燃えている建物もあり、倒れている人たち何人か見かけた。

叫びながら暴れ回っているのはオークと呼ばれる亜人タイプの魔物で、人間と同じくらいの背丈で筋肉質な体型をしている。

討伐対象はC級相当だが、ざっと見渡しただけで10体以上のオークが暴れ回っていた。


「シン!あれ!」


俺はセシリーの声に反応すると、指を差している方を見た。

そこには少し離れた先で、今にもオークに襲われそうになっている子供が数人いた。


「うおおおおおおお!」


その瞬間、俺はすぐさま太刀を引き抜くと地を蹴って、オークとの距離を一気に詰めた。


「一の太刀!“雷光”!」


俺は太刀を振るって、オークの首を切り落とす。

すると、オークは声をあげることもなく、その場に音を立てて倒れた。


「ふう……お前たち!大丈夫か!?」

「う……うわああああんん!!」


見た感じ子供達に怪我はなさそうだったが、恐怖からか泣き出してしまった。


「怖かったよな。でも大丈夫だ。俺たちが守ってやるから。とりあえず安全な場所にいこう」


俺は泣いている子供達を起こすと、安全な場所まで連れて行こうとした。

だが、別のオークが俺たちに気づくと、勢いよく近寄ってきた。


「くそっ!」

「一の型!“孤月(こげつ)”!」


すると、風が吹いたかのように俺の元に来たセシリーは半月を描くようにオークの顔面に切りかかった。

オークは声を上げて、顔を抑える。


「セシリー!助かった!」

「うん!その子たちを安全な場所に連れていこう!」


俺とセシリーは襲いかかってくるオークを対処しながら、子供達を村の外へと連れていった。

そこには逃げ出した村の人たちが集まっており、その子達の親であろう大人たちが泣きながら、子供たちの元へと駆け寄ってきた。


「あなたたちはいったい……?」


男性は俺たちを見るなり聞いてきた。


「ボクたちは王都のギルド所属の者です。いったい何が起きたんですか?」

「分かりません……!いきなりあの魔物達が現れて……逃げ遅れた人たちはあの魔物たちに……!」


男性はよく見ると、傷だらけだった。

他の人たちも、命からがら逃げてきたのだろう。

だが、村にはまだ逃げ遅れている人がいるかもしれない。


「あちらにボクたちの仲間の女性がいますので事情を説明してください。皆さんを守ってくれるはずですので」


セシリーはリーサがいる場所を指差す。


「わ、わかりました。まだ、逃げ遅れた人たちがいるはずです。どうか、助けてやってください……」

「……もちろんです」


セシリーはそう答えると、真剣な表情で俺の方を見る。


「いくよ!シン!」

「ああ!」


俺たちは再び村の中へと入っていった。

変わらずオークたちが暴れ回っており、倒れている人たちも何人かいた。

そして、オークたちは俺たちに気づくと、襲いかかってきた。


「シン!くるよ!」

「ああ!」


俺とセシリーは向かってくるオークたちに応戦する。

そして、目の前の数体を倒しては、違う場所にいるオークたちの相手もする、

気づけば俺たちは10体以上のオークを倒していた。


「はあ……セシリー、大丈夫か?」

「はあ……うん、大丈夫。でも、さすがにこの数はきつかったかも」


これだけの数を相手にしただけあって、俺は息が乱れ、疲労が溜まっているのを感じた。

隣にいるセシリーもさすがに疲弊しているようだった。

そして、俺は周りを見渡す。

いくつかの建物が焼けており、地面には数人の人が倒れている。

息は……もうしていなかった。


「……くそっ……!なんで、こんな……!」


俺は目の前で起きている現実にただ悔やむ。


「シン。気持ちはわかるけど、今は助けられる命を優先しよう。オークはもういないみたいだけど、まだ、逃げ遅れている人がいるかもしれない」


セシリーは今も燃えている建物を見ながら言った。


「……そうだな。よし、急ごう」


そして、俺たちが逃げ遅れた人たちを探しにいこうと思ったときだった。

突如、大きな魔力を感じた。


「っ!なんだ……!」


俺は魔力を感じる村の中心にある広場を見た。

そこには、魔法陣のようなものが床に描かれていた。

そして、魔法陣が強く反応して光り始めると、地響きが起き始める。


「な、なに!?」


突然の出来事にセシリーも俺も動揺する。

すると、光を放っている魔法陣から何かが現れ始めた。


「まさか……こいつは……!」


姿を現したそれは、さっきまで俺たちが相手にしていたオークよりも大きい体格をして、さらに凶暴な顔つきをしていた。

それは災害級認定されているオークの上位種、オークキングだった。


「オークキング……!?」

「グオオオオオオオッ!!!!」


俺たちが姿を認識してすぐに、目の前の巨大な魔物、オークキングは大きな咆哮をあげた。


「なんで、いきなりオークキングが……!?」

「訳が分からないけど、何とかしないと!……シン!いけそう!?」

「ああ!」


俺たちはお互いに武器を構えて、目の前のオークキングと向き合う。

すでに10体近くのオークを相手にしたため、俺たちは体力も消耗しており、不利な状況ではあるが、今の俺の力とセシリーの協力があればなんとか対処できるはずだ。


「いくぞっ!」


俺たちは同時にオークキングへと攻撃を仕掛けた。

以前、戦ったレッドオーガと同様、普通の攻撃は通用しないだろう。

そう考えた俺は魔力を太刀に流し込み雷の魔法を付与する。


「ほら、こっちだよ!」


セシリーがオークキングのまわりを高速で移動して撹乱する。

オークキングはセシリーに何度か殴りかかるが、セシリーはそれを全て見切って避けている。

俺はその機を逃さず、オークキングの後ろに回りこむとオークキングの体を足場にして、頭上に飛んだ。

そして、雷の魔力を纏わせた太刀を勢いよく振り下ろす。


「三の太刀 “天雷”!」

「グオオオォォ!」


頭上から雷の斬撃を受けたオークキングは叫び、その場に膝をつく。

そして、オークキングの動きが止まっている機会を逃さず、セシリーが攻撃を仕掛けようとする。

その剣には、俺と同じように魔力が込められていた。


「四の型 “七葉烈風”!」


風の魔力が込められた七回の剣撃がオークキングに向かって放たれる。

身体中を切り裂かれたオークキングは再び大きな叫び声を上げ、倒れそうになる。

俺は再び太刀に雷の魔力を纏わせると、オークキングの前方に移動する。


「四の太刀 “飛電”!」


横一直線に振るった雷の斬撃により、オークキングの首をはねた。

そして、オークキングはその場に崩れ落ち、動かなくなった。


「はあ……なんとか倒せた……みたいだな」

「そうみたい、だね……はあ、さすがにきつかったよ……」


セシリーの協力があったとはいえ、災害級の魔物を倒すことができた俺は、自分の力が通用したことに嬉しさを噛み締めたい気持ちになる。

だが、それは後回しだ。


「よし、それじゃあ……」


だが、安堵したのも束の間。

先程の魔法陣がまたもや地面にあらわれたのだ。

そして、倒したばかりのオークキングがまた一体、召喚された。


「うそ……でしょ?」


二体目のオークキングは俺たちを認識すると咆哮をあげて襲いかかってきた。

だが、さっきのオークキングは素手だったのに対し、目の間にいるオークキングは巨大な斧を握っていた。

俺は太刀を握る手に力を入れて雷の魔力を流し込み、纏わせた。


「四の太刀 “飛電”!」


一直線に振るった太刀から放った雷の斬撃がオークキングに向かって飛んでいく。

だが、オークキングは手に持っている斧を振うとその斬撃を打ち消した。


「シン!避けて!」


俺はセシリーの声でその場から移動し、オーガキングが投げてきた斧を避けた。

斧はさっきまで俺がいた場所に勢いよく刺さり、地面が割れるほどだった。

しかし、避けたと思ったら、オーガキングは俺に向かって突進してきた。


「くっ……!」


俺は縮地を使って突進を避ける。

すると、オークキングはそのまま後ろにあった建物を破壊しながら突き進んでいった。

その間に俺とセシリーは近くに寄り、オークキングの方を見る。

土煙で姿は認識できないが、唸り声が聞こえてくる。


「くそっ……!さっきのオークキングと動きが違くないか!?斧まで持っているし……!」

「まるで戦い慣れしているみたい……たしかに同じ魔物では違う動きをするときはあるけど……」


俺はセシリーを見る。

体力の消耗が激しいのか、息が乱れ、立っているのもキツそうに見える。


「セシリー。あいつを倒せる技はまだ使えそうか?」

「正直、オークたちやさっきのオークキングとの戦いで体力も魔力も使っちゃったから、難しいね……シンは?」

「俺もあと一撃が限界だろうな……一撃であいつを倒せる可能性がある技があるけど、魔力は使い切るだろうし、使ったあとは反動で動けなくなる。もし、それで倒しきれなかったら……」


俺はレッドオーガに殺されそうになったときのことを思い出し、恐怖を感じる。


「なら、それに賭けよう。大丈夫、シンが動けなくなってもボクが死ぬ気で守るよ」

「セシリー……」


自分も限界に近いはずなのに、微笑みながら俺に言う。

俺は弱気になっていた自分を情けなく思った。

もし、俺が倒しきれなかった場合、全滅する可能性がある。

倒しきれなかったらじゃない、絶対に倒すんだ。

そして、土煙からオークキングは姿を現し、こちらを睨みつけながらゆっくり近づいてくる。


「少しだけあいつを引き付けてもらえるか!?そして、俺の合図で離れてくれ!」

「分かった、頼んだよ!」


そして、オークキングは一定の距離まで近づいてくると咆哮を上げて、俺たちに向かって突進してきた。


「グオオオオオオオっ!!!」


セシリーはオークキングが俺の方に向かってこないように、攻撃を仕掛けて相手を引きつける。

俺はセシリーを信じて、技を放つために雷の魔力を太刀に、そして足にも魔力を流し、呼吸を集中させる。

太刀に雷の魔力が纏うと、俺はセシリーを見る。


「セシリー!」


俺はセシリーに向かって声をあげると、セシリーはオークキングから距離を取った。

そして、俺は地を蹴って、オークキングの元に瞬時に移動すると、雷の魔力を纏わせた太刀で斬りかかる。

まずは一撃を腹部に。次の一撃は胸を、さらに続いて顔面を切る。


「雷鳴流 五の太刀!」


そして、俺は最後の一撃をオークキングの首に目掛けて放つ。


「“雷光円舞”!」


そのままオークキングの首を切ると、俺はそのまま地面に着地して、その場に膝をつく。

顔を上げると、オークキングは切られた箇所から血を流し、その場でふらついていた。

“雷光円舞”。一の太刀“雷光”を四回連続で放つ技で、俺が生み出した技だ。

反動が強く、使用したあとはしばらく動けなくなってしまうのが難点だが、その分、強力な技だ。


「やった……か?」


一瞬のできごとでオークキングは何が起きたかも分からないだろう。

そのまま倒れるはず、俺はそう思いオークキングを見る。


「グオオオオオっ!!!」


……だが、オークキングは倒れることなく、咆哮をあげて俺の方を向いた。

その顔は激昂しており、血走った目をしている。


「くそっ……!駄目だったのか……!」


ダメージは間違いなくあるはずだが、倒し切るほどには至らなかった。

オークキングは俺に向かって、少しふらつきながらも歩いてくる。

だが、俺は体を動かすことができない。


「一の型 “孤月”!」


すると、セシリーが気力を振り絞ってオークキングに切りかかる。

だが、オークキングはそれでも倒れず、セシリーに向かって殴りかかる。


「ぐはっ……!」


セシリーは咄嗟に剣で防いだが強い威力を殺しきれず、セシリーは遠くへと吹き飛ばされると地面に転がりながらその場に倒れてしまった。

近くにはさっきオークキングが俺に向かって投げて地面に刺さったままの斧があった。


「セシリー!おい!しっかりしろ!」


セシリーは気絶しているのか、うつ伏せになったまま動かない。

そして、オークキングは吹き飛ばされて離れたセシリーの方へと向かって歩き始めた。


「なっ……!おい!まてっ!」


オークキングは俺の声に反応することなくセシリーの近くへと行くと、地面に刺さっていた斧を抜いて、手に持った。


「セシリー!起きろっ!起きてくれっ!……くそっ!動けっ!動きやがれ!」


俺は必死に動こうとするが、体は言うことを聞いてくれない。

そして、オークキングは手に持っている斧を上に掲げた。


「よせっ!やめろっ!!」


しかし、俺の叫びとは裏腹にそのまま斧はセシリー目掛けて振り下ろされた。


「セシリーーー!!」


そのとき、オークキングに巨大な魔法の塊のようなものが高速で飛んでいった。


「ガアッ!」


それが直撃したオークキングはその場から飛ばされて、大きな音を立てて倒れた。

すると、村の入口付近に一人の男が立っていたのだ。


「ふん、間に合ったか……」


後ろから男の声が聞こえた。

俺は振り返ると、そこには前に王都でリーサと一緒にいたときに会った、ギルド東雲のBランク、ヴェルナー・レーベルが立っていた。

その両手には拳銃のようなものが握られていた。

魔力を放出する武器、魔法銃(マジックガン)。

おそらく、あれがヴェルナーの使用する武器なのだろう。


「……ふん」


すると、ヴェルナーはセシリーの元へと歩くと、手に持っている魔法銃をセシリーに向け、魔法弾を打った。


「なっ……!」


だが、魔法銃で打たれたセシリーの体は優しい光で包まれていた。


「あれは……回復魔法か?」


それは回復魔法と同じ光だった。

そして、その光により傷だらけだったセシリーの体が癒されていく。


「う……ううん……」


すると、セシリーは目を覚まし、その場から起き上がる。


「あれ……ボクはいったい……っ!そうだ!シンは!?」


セシリーは周りを見渡し、俺の姿を見かけると心配そうな表情をする 。


「シン!大丈夫!?」

「ああ、俺は大丈夫だ。お前こそ大丈夫か!?」


俺にそう言われたセシリーは自分の体を触って確認する。


「あれ……そういえば体が痛くない……?なんで?」

「ふん……西風の<剣姫>が無様にやられたもんだな」

「わっ!ヴェルナー!?なんでここにいるのさ!?」


セシリーはようやく目の間に立っていたヴェルナーに気づいた。

やはり、知り合いだったようだ。


「はん、ギルドに依頼があったからきてやったんだよ。そしたら、てめえが情けない姿で倒れていたから助けてやったんだろうが」

「くーっ!相変わらず口が悪い奴だなー!……って、助けてやった?」


すると、セシリーは今の状況を把握したのか、倒れているオークキングを発見する。


「もしかして、ヴェルナー……?」

「負け犬はそのまま寝てろ。邪魔だ」


ヴェルナーはオークキングにゆっくりと近づいていく。

なんとか立ち上がったオークキングはヴェルナーに向かって叫び、殴りかかる。


「……うるせえよ」


だが、ヴェルナーはその攻撃を避けると、魔法銃から魔法弾を数発放った。

魔法弾が顔面に命中すると、オークキングは呻きながらその場でふらつく。

そして、ヴェルナーは上空に飛び上がると、オークキングに銃口を向けた。

すると、魔法銃に魔力が集中し、光を放ち始める。


「レールガン!」


ヴェルナーの叫びと共に、魔法銃から魔力が放出された。

それはまるで雷が落ちたかのような威力で、オークキングはその魔力砲に包み込まれた。


「ガアアアアアツ!!!!!」


魔法銃から放出された魔力が収まると、オークキングは体から煙を出しながら、力尽きようにその場に倒れた。

ヴェルナーは地面に着地すると、握っている魔法銃を見る。

魔法銃は威力の高い放出をしたからか、煙が出ていた。


「くそが……俺の相棒に無茶させやがって」


ヴェルナーは自分の魔法銃の状態を見て、不快そうな表情を見せた。

どうやらあの威力と引き換えに、魔法銃への負荷が大きい行為だったらしい。


「っ……!セシリー、体は大丈夫か?」


ようやく動けるようになった俺はセシリーの元へ駆け寄り、声をかける。


「うん、ボクは大丈夫。でも、ごめんね?守ってあげられなくて……」

「なに言ってるんだ。元はと言えば俺が仕留め切れなかったのが悪かったんだ。むしろ、危険な目に合わせてしまってすまなかった……」


俺たちはお互いに暗い表情になる。

すると、ヴェルナーがオークキングのいた場所から、俺たちの元へと歩いてきた。


「ありがとう、ヴェルナー。おかげで助かったよ。……ただ、その口の悪さだけは何とかならないの?」

「うるせえよ。なんで俺がお前に気を遣わなくちゃいけねえんだ?」

「くうーっ!」


セシリーは苛立ちながらその場で地団駄を踏んでいる。


「何にせよおかげで助かった。俺からも礼を言わせてくれ、ありがとう」

「あ……?ああ、たしか以前に銀閃と一緒にいた奴か。なんでお前みたいな奴がここにいやがるんだ?」

「ああ、それはだな……」


俺は王都で依頼を受けてから今に至るまでの経緯を説明した。

それを聞いたヴェルナーは考え込む様子を見せた。


「なるほどな……原因は分からねえが、ただごとではないのは確かだな」

「とりあえず、村の人たちをなんとかしないと。でも、村がこんな様子じゃ……」

「ちっ……」


ヴェルナーは舌打ちをすると、ブレシスを取り出して離れた場所で電話をし始めた。


「どこに電話してるんだろう?」

「さあな……」


俺たちは不思議に思いながら、ヴェルナーを見ていた。

そして、電話が終わると、再び俺たちの元に戻ってきた。


「村人たちの受け入れ先を確保してもらった。さっさと王都に連れていくぞ」

「え!?受け入れ先ってどこに!?」

「うるせぇよ。後で答えるから早く行くぞ」


そう言って、ヴェルナーは村の入り口へと歩き始めた。


「……なあ、セシリー。あいつ、口は悪いけど案外いい奴なんじゃないか?」


セシリーを助けたこと、そして、村の人たちの受け入れ先をすぐに確保しようとしたりする姿をみて俺を素直にそう感じた。


「ええっ!?本気で言ってるの!?ただの嫌な奴だよ!」


だが、セシリーはそんなことないと言わんばかりの嫌悪感丸出しの顔をしながら言った。

いったい、今までどんなやりとりをしてきたのだろうか。


「……さて、俺たちもいくぞ」


そして、俺とセシリーはその後、村の外にいたリーサやマルコさん、村の人たちと合流して王都へと移動を始めた。

王都に到着すると、村の人たちのことはヴェルナーに任せ、俺たちは依頼主であるマルコさんを店の前まで送り届けた。


「皆さん、ありがとうございました。エルナ村があんなことになったのは非常に残念でしたが……」

「そうですね……エルナ村の人たちはこれから大変だと思います。私たちが力になれればいいんですけど……」

「皆さんならきっとお力になれると思いますよ、……あ、そうだ。どうぞこちらを。今回の依頼料になります」


そう言ってマルコさんはセシリーに依頼料が入っているであろう封筒を渡した。


「え?でも、本来の目的が達成されていないのにいただくのは……」


セシリーはマルコさんに対して遠慮した態度を見せる。


「いえ、依頼内容は護衛でしたので、皆さんはちゃんと依頼を果たしてくれましたよ。なので、これは受け取ってください」


マルコさんの気持ちを聞いた俺たちは、顔を見合わせると頷いた。


「……分かりました。ありがたく頂戴しますね。また、何かあれば依頼してください」

「ええ。できればまた皆さんにお願いしたいものです。では、私はこれで」


そう言ってマルコさんは俺たちに一礼すると、そのまま自分の店の中に入っていった。


「……いい人だったな」

「そうだね……じゃあ、ボクたちもギルドに戻ろっか。今回のこと、報告しないとね……」


そして、俺たちはエルナ村で起きた出来事を報告しに、ギルド西風に戻ることにした。

だが、俺は引っかかっていたことが一つあった。

オークキングが現れたときにあったあの魔法陣は一体なんだったのだろうか。

まるで召喚魔法のようだったが、この世界には召喚魔法などは存在していない。

誰かが意図的にあれを……?だとしても、なんのために……?


「シン?どうかしたの?」

「……いや、なんでもない。いこうか」


俺は疑問を残しながらも、二人と共にギルドに戻るのだった。

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