第28日 異世界VS日本食 補遺の7 ごはんのある風景
――「ごらん、黒い紙は剥かないで食べたよ」
『かもめ食堂』
群ようこさんのお話は日常エッセイも含めて大好きなのですが、ご本人の現身なのか、ポジティブに前向きに背筋をしゃんと伸ばしたヒロインが楽しいです。
この『かもめ食堂』は主人公が成り行きと思い付きでフィンランドで食堂を始める話。
引用文中の「黒い紙」は勿論「海苔」です。ブレず動揺もしない主人公に変わって、現地フィンランドの人々が料理に対するびっくりリアクションを引き受けています。この「フィンランド人ミーツおにぎり」が作品を象徴するシーンではないかと思います。
このお話の「おにぎり」は主人公にとって父との思い出です。それを食堂を通して誰かに供していく。自分が受け取ったものを誰かに分け与えていくという姿勢の象徴として、おにぎりが描かれてゆくのです。
――ちゃんと手ぇかけたもんを、ほどよい量だけ食べなはれ。食は即ち命やさかい。
『みおつくし料理帖』
食べることは生きる事。料理することは自らが生き、また誰かを生かすこと。
『みおつくし料理帖』は、そんな真っすぐな気持ちを、不幸な生い立ちの少女が懸命に生きる姿を通して、真正面から謳い上げる時代小説です。
作者の高田郁さんは時代小説に転向される前は漫画の原作を書いてらっしゃったとか。わたし達読者の目前に、見たこともない江戸の風景や食べたこともない江戸時代のごはんが、文字を通じて視覚情報豊かに描き出されていくのは、備わった才能が前職の経験で磨き上げられたからかもしれません。
時に材料入手の困難を克服し、旬の食材にときめき、一期一会の料理に工夫をこらす。それを供される人の、悲喜こもごもをも物語の軸にしつつ、折々の四季にふと視線を移す。
ほんとうに、きれいな時代小説。
本編は完結してしまいましたが、その後特別編やレシピ集も出ていますので、気長に消息を待ちたいところです。
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